第7話 崩れゆく今までの日常
遥子が高校を卒業してから、遥子と典江には溝が出来ていた。週に何度も家に帰ってこず、典江は何度も問い詰めたが、答えが返ってこない。しかし、典江は安堵していた。明日で遥子は20歳になる。
後は遥子な結婚してくれれば今までの苦労が報われる所まで来ていた。
典江は誕生日に趣味のウィンドウショッピングに出掛けようと誘ったが、断られてしまい典江は一人でショッピングモールに出かけることになった。
遥子が来なかったのは残念だったが、久しぶりのショッピングに心浮かれながら、自分の一番好きなブランド『red label』に行き、いつも通りに並んでいる服を試着する為に、気に入った物全てを手に取り、試着室に向かい着替える度に鏡で姿を確認して、まだまだ若いと心の中で自賛する。
全ての試着を終えて試着室を出ると、外には何人かが待っていたその時だった。どこからともなく、「買う気がないのに試着するなよ」
「えっ!?」
自分に対する言葉なのかわからない典江は辺りを見渡すが、誰とも目が合わない。空耳かと思い歩き出すと、
「加齢臭が移るから試着するなよ」
先程とは別の方角から今度は聞こえるレベルの大きさで罵声を浴びた。
(何言ってるの?試着は認められた権利でしょ?あんた達が待ってるのなんて知った事じゃない)
典江は悪びれる事もなく、店員に服を戻すよう伝えて店を出た。典江の中でウィンドウショッピング
は普段着ることの無い服を着た気にさせてくれるストレス発散の趣味だった。そんな典江が次に向かったのは20代後半に絶大な人気を誇る『pure bran』だった。しかし、入り口には試着お断りの看板が立っており、典江は意味が理解できず店員に問い詰めた。
「申し訳ありません」
その謝罪には全く誠意がなく、形式的に頭を下げるだけだった。理由を尋ねると試着させた服を新品として売るなというクレームが感染症が広まってから多くなり、試着する客自体が減っているらしい。
典江も試着の際は誰が着たか分からない服を試着するのは嫌だから、なるべく下から取っていた。しかし、典江には納得がいかなかった。
(試着は自由なはず、試着できなければウィンドウショッピングの意味がないじゃ無い!)
典江は自分の自由を奪われた事に苛立ちながら一日を過ごした。試着禁止の店は『pure bran』だけだったが、他所の店も独自の規制が出来ていた。
『試着は3着まで』『試着は上から取るように』
『試着用の物しか試着出来ない』など到底ウィンドウショッピングが趣味の典江には受け入れられない物だった。
典江は最近の自由が奪われてばかりの世の中に窮屈さを感じていた。ここ最近で一番窮屈に感じる規制は、建物への出入りの際に右折が禁止になった。入りたい店があればぐるっと遠回りをして左折して建物に入らなければいけなくなった。理由は右折時に事故が多い事と、走行をスムーズにする為だった。
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