新人女神の転生者面接

スカイ

女神もブラックなんです

「女神アストレよ。ノルマはどうなった?」


「えっと……まだ転生者が決まったのが3人だけでして」


「馬鹿者なにを手こずっている! 早く今月のノルマである7人を達成させろ!」


 私は今月も上司の神に色々言われる。

 こういう罵声は何度目だろうか。 

 ブラック企業も甚だしい。


「いや厳しいかと……なにせ変な人しかいないというか……」


「言い訳はいらん! 今月もノルマを達成出来なければ減給だからな!」


「減給!? ちょっと待ってそれは勘弁をォォォォォ!」


「それが嫌ならノルマを達成しろ!」

 

 この分からず屋のクソ上司め……こちとら週七日で働いてんだよ。

 指示するならお前もそれくらい働いてから言えや、いつも土日は帰ってるくせに。


「はい……分かりました」


 表面上ではしっかり反省をしてその場を後にする。

 偉いぞ私、よく正面切って罵声を浴びせたり殴ったりのことをしなかった。

 

「チッ、あのクソ上司こっちが大変だってことも分からずに……」


 下品なことしてるけど許してほしい。

 女神だって時には舌打ちでもしたくなるもの、いやお願いだからさせて。


 ん? 女神の割に人間味溢れてるって?

 そう思われても無理もない、それこそが私こと女神アストレなのだがら。


 女神なんて言えば清く、上品で、優雅に人々の暮らしを遊んで見ていると思った?

 残念、私達もしっかり働いてるの。


 株式会社:ウェルディ。

 全宇宙の女神や神様が義務という名目で就職しており多次元宇宙マルチバースを管理する企業。

 まぁ企業と言っても何処とも取引なんてしてないけど。


 私はそこで週休二日……ノルマが達成されなければ休みなしで働いてる。本当に死ね、ビックバンでも起きて会社壊れてしまえ。

 

「あれあれ? 今日もダメ出しっすか? 先輩」


 不貞腐れてると突然、聞き覚えのある甲高い声が鼓膜を刺激する。

 振り返るとそこには腹の中が見えない笑顔を向ける私の後輩がトコトコ近づいていた。


「不甲斐ない上司の顔を拝みにきたのかしら? カリス」


「いやいや〜労いにきたのですよ」


 青いポニーテールをなびかせ八重歯を尖らせてるのは一年下の女神のカリス。

 可愛げがあるいい娘だけど結構腹黒くてかなり生意気。


「先輩がクソ怒られてるのを見て楽しむなんて思ってませんから〜! ね?」


 ほらね? 

 凄い笑顔で凄い嫌味言ってくるのこいつ。


「うっさいわね……んで、新たな候補者は見つかったの?」


「はいはい、たっぷりありますよ〜!」


「そう、なら始めましょうか」


 今日もこの神経使う時間が始まる。

 それは彼ら、彼女ら、転生された者達の


 私達の仕事はここに来た者が異世界に飛ばしても大丈夫かどうか確かめること。

 合格なら晴れてチートを授かって異世界へ、不合格ならそのままあの世へ。


 危険人物か、それとも人格者か、それを選別するのが私達、女神。

 

「あと数分で来ますよ先輩! あっこれ履歴書です」


「はいはい、ホント疲れるねこの仕事……」


 上品な椅子に私とカリスは腰掛け、転生者を今か今かと待ち構える。

 数分後、一人目の対象者が光と共にその場に現れた。


「えっ……?」


 出現したのは十代と思われる若い男。

 肌にシワはないし、何より制服着てるからきっと高校生ね。


「はっ何これ?」


「お待ちしておりました」


「えっ誰!?」


 この反応にはもう慣れた。

 ここに飛ばされた人達はほぼ全員、辺りを見回して私達を見た途端、驚愕する。


「あぁご安心を。私達は女神、貴方に害を与えようとはしていません」


「女神……?」


「はい女神です。どうぞ、その椅子にお掛けください」


 着席を促すと男子高校生は恐る恐る上品な椅子へと腰掛ける。

 出来る限り女神らしいスマイルを浮かべたつもりだけど、逆に怖がらせてるわねコレ。

 

「えっと名前は……山田優馬さん」


 何枚にもなる履歴書の中から顔合わせで本人の用紙を取り出す。

 この履歴書と面接での反応で女神達は相手の有無を決めていく。

 

 山田優馬 18歳

 

 20☓☓年4月24日生まれ 

 職業:高校生

 

 起業家の息子として生まれ、私立一貫コースの名門高校まで進学。

 部活動ではサッカー部部長として全国大会へと導く。


 運動神経、端正な顔立ちもあり周囲から、主に女性からの好感度は高い。


 死因:歩きスマホを原因とするトラックとの事故死。

 

 ※備考:女性関係に難あり。

 

 絵に書いたような陽キャな高校生。

 まさしく勝ち組の人生を歩んでいる。

 

 ここまでなら合格にしてもいいけど……でもそうはいかない。

 備考には女性関係に難ありという引っ掛かるには十分な文章が綴られている。

 

 さて……ここを念頭に詰めていくか。


「俺は死んだのか?」


「残念ではありますが、貴方は既に前世では死人として扱われています。代わりに異世界に転生することになります」


「異世界……?」


 チート能力が付与されること、自由に生きれること、女性と✕✕✕しハーレムも好きに作れること。


 メリットというメリットの内容をこれでもかといい感じに相手に伝えていく。

 その言葉を聞いた彼は案の定、目に光が灯り始めた。


「そ、それって……ガチなのか?」


「はい、貴方は選ばれし人間。どうぞお好きに自分の思い通りに生きてください」


「マジかよ……最高じゃねぇか!」


 何で真実を言わないでこんなに都合のいいことばかり喋るって?


 この場面ではまだ合否を決めているという実態は明かさない。

 明かしてしまえば異世界に行こうと自分を偽って猫を被る可能性が高いからね。


 というか皆そうする。


「じゃあその異世界って所に早く送ってくれよ!」 


「もう少しだけお待ち下さい。異世界に行くにも少しばかり手続きなどが必要なので」


「はぁ? 直ぐに行けるんじゃないのかよ」


「申し訳ありません。数分で完了致しますから。それまでは少しお話しませんか?」


「お話?」


「ただの談笑ですよ」


 さてさて、ここからが本題だ。


「山田優馬さん、貴方は異世界で何をしたいですか?」


「何がしたいって何でも出来るんだろ? そりゃ好きに生きるさ。異世界も美人いっぱいいるんだろ?」


「えぇもちろん、前世の世界に負けないほどの美少女が揃っています」


「だったらいい女に囲まれて生きてぇよ。面倒ごともなしでな」


「面倒事?」


「いやな、前に付き合ってた女と浮気してた女がいるんだけどよ。なんか妊娠したみたいなこと同時に言われて困ったんだよ」


「妊娠?」


「ゴムなしだったからか、いやでも何勝手に妊娠してんだよってな。下ろせって言ったら双方共に縋って来てウザかったよ。涙とか流して「見捨てないで」とか「貴方の子なのよ」とか怒ってたけどブズ過ぎて笑ったわ。そいつらと別れるのが大変でな。親の力で終わったけど。その疲れで事故ったんかな?」


「意識の疲れで事故を?」


「まっそんなんじゃねぇの? てかもういいだろ、早く異世界に行かせてくれよ」


 ……なるほどね。

 やっぱり私が思った通りだった。

 こいつはヤバい奴だって。


「分かりました。では山田優馬さん、貴方はです」


「はっ?」


「不合格です」


「なっえっ……不合格って?」


「具体的に言えば貴方は異世界には行けないということです」


「はっ……はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 絶叫する彼を他所に、私は冷静にこの面接の実態を説明していく。

 こういうのをクールにやれるってなんかいい女に見えない?


「面接……面接ってなんだよ!? 確実に異世界に行けるんじゃないのかよ!」


「私は一度も確実に行けるなんて言ってませんが?」


「なっ!?」


 そう絶対に行けるとは言ってない。

 つまり嘘はついてない。

 まぁ必要とあらば嘘は全然つくけど。


「貴方はこれから別の管轄へと移動させられ神による審判が与えられます。判決によっては天国に行けますが、まぁ貴方の所業からして地獄行きは確定かと」


 これで極楽に行けるほど、天国も慈悲深くはない。


「じ、地獄って何が!」


「さぁ? そこは私の担当ではないので」


「ふざけんな……ふざけんなよこのクソ女ッ! 俺を騙しやがってェェ!」


「優馬さん、異世界に行けばチートが貰えます。それがこの世界の決まり」


 無条件でチートが貰えるとかよく分からないシステムだが私はそれに従うだけ。

 それでもシステムの範囲内で私の意思を突き通すことは出来る。


「ただし異世界にも人間がいるのです。前世のように自分で懸命に生きる人達が。その世界に貴方のような問題のある人を転生はさせられない」


「なっ!?」


「もしまたこの場所に来るのであれば……その救いようのない女性関係を改めることですね。カリス」


「あいあいさ〜!」


 カリスが指を鳴らすと転移魔法で彼の身体は光に包み込まれ始める。

 これから神に裁かれて……まぁ文字通り地獄を見ることになると思う。


「ま、待ってくれ! 待てェェェ!」


「では地獄へいってらっしゃい!」


「待っ__」


 全てを言い切る前に彼は光となってその場から無慈悲に消えた。

 そして私のノルマ達成のチャンスも……自分で消した。


「いやぁ不合格ですか〜厳しすぎませんか先輩?」


「んな訳ないでしょ。あんな危険物質を異世界に解き放ったらヤバいことになるわ」


「そんな真面目にやってるからノルマも達成しないのでは? 他の面接官は判定甘くしてバンバン行かせてま〜すよ?」


「ん……まぁそうなんだけど」


 ノルマの達成、給料アップ、怒られない、本当ならそっちの方がいい。

 やりようによってはここに来た全員を転生させることも出来る。


 しかしそんなことしたら……言わずとも大変なことになるのは分かる。


「でも私は自分のやり方でこの仕事をやってみるわ。精々笑って見てなさいカリス」


「ふ〜ん、まっ嘲笑して見てますよ先輩?」


 自分のために、そして異世界の人達のために、例え怒られようとも自分なりのやり方で今後もやっていこうと思う。


「さっカリス、次の人を呼びなさい」


「はいはい!」


 そう改めて決意を固め、私は次の転生者を待ち構える。


 これが女神のブラックな仕事である。


 もし転生したいなら……あまり悪い生き方はしないほうがいいわよ?





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新人女神の転生者面接 スカイ @SUKAI1234

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