第6話

雨が降ってきた。僕らはぬかるみに足をとられながらも決して歩みを止めず、村はずれの墓地を目指す。そこが、この旅の終着点だ。家族や村長が、今か今かと到着を待っているはず。

僕らは互いの大切な人を背負い合ったり、思い出を語り合ったりしながら、道中を急いだ。今までで一番、姉を近くに感じることができた気がする。それはエイリも同じだろう。


「おーい、カウォル! エイリ!」

「村長だ。声デカすぎ。近くにいるのは……」

「僕の母さんだ」

「俺の兄ちゃんもいる。迎えとかダルいって言ってたのに」


示し合わせたわけでもないのに、同時に僕らは茂みに隠れた。向こうからは死角になって見えない場所で、棺を下ろす。


「姉さん」

「カジュさん」


花だけの棺、ナイフだけの棺。対照的な二つが並ぶ。


「よし、カウォル。最後の仕上げにかかろう」

「だね、エイリ」

「花を」

「ナイフを」


互いに必要なものを、ポケットから引っ張り出す。僕はナイフを、エイリは花を。


「せーの」


棺の中に入ったのを見届けて、僕らは競うように墓地へと駆け出した。いつの間にか雨は上がり、旅立ちにふさわしい空が顔を覗かせていた。

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空の棺を満たすもの 砥石 莞次 @or0ka_i6ion__

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