第10話「ヴェルナー侯爵家の末路」最終話・ざまぁ回
ヴェルナー侯爵家に戻ると、使用人の姿はなく、見知らぬ男たちが家の中を我が物顔で歩いていた。
執事に冷たいレモネードでも出して貰おうと思ったのに、使用人が誰もいないなんて、一体全体どうなっているんだ??
「父上! これはいったい!
使用人はどこですか?
こいつらは誰なんですか?!」
「質屋と鑑定人と不動産屋だ。
家屋敷を少しでも高く買って貰いたくて呼んだ。
使用人には全て暇を出した」
「そんな……!」
ヴェルナー侯爵家がそんなに困窮していたなんて……!
「父上、家屋敷を手放すことはありません!
俺のこの容姿と侯爵令息という身分があれば寄ってくる女などいくらでもいます!
金持ちの女性を探して結婚します!
だから諦めないでください!」
「お前のアホさ加減には心底うんざりした。
エアハルト伯爵家に縁を切られた我が家と見合いしたがる貴族などこの国にはおらんよ。
いや貴族だけではなく平民にもいないだろうな」
「では国外に目を向ければ……」
「アークお前を娼館に売ることにした。
お前は娼館が大好きだから嬉しいだろう?
良かったな、もう学園に通い勉強することも、苦手な試験を受けることもない。
これからは大好きな娼館で一生暮らせるぞ」
「はっ?? 嘘ですよね父上?
娼館に僕を売るなんてそんなことしませんよね?!」
父は僕の目を見ず言葉を続ける。
「それから昨日エアハルト伯爵家が経営するレストラン『バッケン』で飲み食いしたそうだが、その代金も自分で稼いで返済するように。
侯爵家は借金まみれだというのに、高級レストランで金貨十枚分も飲み食いするとはな……呆れ果てて言葉も出ないよ」
「そんな……! 侯爵家にはレストランでの飲食代を払う金もなかったんですか!?」
「お前は本当にアホだな。
ヴェルナー侯爵家はずっと前から火の車だ。エアハルト伯爵家の援助でなんとか成り立っていたんだよ。
そのエアハルト伯爵家からの援助もお前が婚約破棄されたせいでなくなった。
こんなアホを跡継ぎにしたのがそもそもの間違いだったよ」
「いくら父上でも言っていい言葉と悪い言葉があります!」
「もういい疲れた。これ以上お前と話すことはない。
すみませんがこいつを連れて行ってください」
「「承知した」」
黒い服を着た恰幅のいい男が二人、僕に近づいてくる。
僕は踵を返し逃げ出したが、直ぐに捕まってしまった。
「これはかなりの上玉だな、男に愛されそうな顔をしている。
たくさん客を取ってくれそうだ」
僕を捕まえた男が僕の顎を掴み、僕の顔を右に左に動かし、舐めるような視線で僕を観察する。
背筋がぞわりとするのを感じた。
「娼館って……男を相手にする方なのか??
もしかして受け入れる方だったりするのか??」
「察しがいいな、高く買ってくれそうな客を紹介してやるから心配するな」
黒い服を着た男はそう言ってニヤリとほほ笑んだ。
終わった、僕の人生終わりだ……死んだほうがましだ。
僕はこのあと娼館に売られ、そこで残りの一生を過ごすことになった。
一年後、風の噂でブルーナとランハートが結婚したことを知った。
エアハルト伯爵家の商売は順調で、僕とブルーナが婚約していたときより遥かに多くの財を築いているとか。
僕が浮気さえしなければ、もう少しブルーナを大切にしていれば、もう少し真面目に勉強をしていれば……ブルーナと結婚して幸せに暮らしていたのは僕だったかもしれない。
そう考えるとやるせない気持ちになる。
僕は本当に愚かだった。
悔やんでも悔やみきれない。
――終わり――
【完結】「侯爵令息は婚約破棄されてもアホのままでした」 まほりろ @tukumosawa
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