自由行動

結騎 了

#365日ショートショート 166

「やっと地球に着きましたね。さて、ここから自由行動です」

 がらがらと喉を鳴らし、先生が説明を始めた。

 ストロ星人の修学旅行一団は、三日間の航海を経て地球へ到着した。ここは日本という国の地方都市。今から半日間、ストロ星人の子供たちは街で自由行動となっている。

「では、練習した通りに。せ~の、えいっ!」

 先生が唱えると、辺り一面の時空が歪み始めた。否、正確にはストロ星人それぞれの体から特殊な磁場が発生していた。一瞬の後、彼らの柔らかい触覚や長い首は姿を変え、鱗のような肌も変容した。地球人への擬態である。

「お互いの会話はなるべくテレパシーで行うこと。いいですか」

 すると、生徒のひとりがテレパシーを送った。先生にアイコンタクトでたしなめられ、もう一度「はい!」と手を挙げる。

「先生、地球人に正体がバレそうになったらどうしましょう。擬態はみんな練習してきましたけど、この声だけは、どうしても……」

 がらがら。がらがら。ストロ星人は喉が発達した生き物だった。その声質は特異で、まともな地球人でないとすぐに気づかれてしまう。

「だからテレパシーで会話しなさい、って言っているでしょう。それでも、どうしても地球人と話さなくてはいけなくなったら。……特別な方法を教えましょう」

 そんなものがあるんですか。生徒たちはどよめいた。辺りにテレパシーが行き交っている。

「こうして、掌を平手のようにしてください。そして喉を叩くのです。とん、とん、とん。喉を叩きながら正体を素直にバラしてください。そうすると、きっとバレませんから」

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自由行動 結騎 了 @slinky_dog_s11

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