第4話 さぁ、話し合いをしましょう。

「ツグミ! おまたせ。」


 文哉がいつもの調子でログインしてくる。


「今日は何を狩りにいく?」

「あ、ごめんねさん。今日は、別の友達と狩りに行くから一緒に遊べないの。」

「え? なら俺も一緒に行くよ!」

「無理なんだ。だって、さんのレベルじゃ行けないところに行くから。」

「何言ってるのさ。だったらツグミだって・・・え?」


 文哉は私のレベルを見て驚愕していた。それもそのはず、一昨日別れた時には、文哉の方がレベルが高かった。別に特別なことはしていない。この2日で、私は私の持てる全てでレベルをガン上げしたのだ。

 だけど頑張って初心者ぶっていたかいあって、文哉はそれに心底驚いているようだった。


「何したの?」

「普通にレベル上げしただけだよ。言ってなかったっけ? そもそもこれサブキャラで、メインキャラはレベルカンストしちゃってるんだよね。」

「は? え? だってツグミ初心者じゃ・・・」

「わ、信じてたんだ。いやー、さん、結構素材集めとか協力してくれていい人だったからさ、おかげでラクできたし楽しかったよー。でも、最近の口説きちょっとしつこいしさ。、冗談だとしても不倫言い出すとかちょっと勘弁だなー。」

「な!? 俺を嵌めたのか?」

「いやいやいや。嵌めたも何もここゲームだし・・・私ら会ったことないでしょ。」

「はぁ!? お前誰のおかげでここまでこれたと思ってんだよ?」

「いや、別に、さん居なくても何とでもなるから。っていうかね、どちらかというと、レベルをそっちに合わせて動く方が大変だったことも多かったし。」

「俺がお前より格下だとでも言いたいのか?」

「事実だと思うけど? ってか、初心者にちょっと教えたくらいで調子に乗んないほうがいいと思う。 実際さんの実力、から。時々他プレイヤー煽ってたけど、ああいうのもやめた方が良い。通報されてバンしちゃうよ?」

「煩い! ふざけんなよお前、許さないからな!!」


 ――― がログアウトしました ―――


 画面の端に出たお知らせが、NPCの言葉にかき消されて消えていく。


『あぁ、本当に大したことない人だった。』


 もっと早くこうしてあげたらよかったのかもしれない。

 あなたは、あなたが思うよりずっと、何者でもないと。

 あなたは私を馬鹿にするけれど、それはもう同じ穴の狢だよと。

 教えてあげられたならよかったのかもしれない。


 文哉の部屋からバタバタと音が鳴っている。そういえば、最近は物に当たるようになった。


『そのうち私も殴られるのかもしれないな・・・。』


 そんなことを考えながら、私は文哉出す音に身を縮めることもなく、友人とのゲームを心ゆくまで楽しんだのだった。




 ***




「ねぇ、文哉。ちょっと話があるんだけど。」

「なんだよ?」


 文哉はPC画面に流れる動画を見たまま、いつものから返事。

 私と向き合うと傷つくから、心を守るためにこうしているらしい。


 いつか、この人と結婚してよかった。あなたを愛してよかったって思える日が来て、そうしてあなたを思いながら死んで行けたら幸せだなって、そう思ってたけれど、残念ながら現実はそう上手くはいかなかった。

 その原因はきっと私にもある。

 最初に違和感を感じた時に、私はもっと違う言葉を文哉に投げかけるべきだった。


 思い返せばチャンスは何度だってあったのだ。

 だけど、そのたびに私は正しい言葉を言えなかった。

 手遅れになった今、愛する文哉の為に出来ることはもう、一つしかない。


「そろそろ本気で考えようと思って。これからの私たちの事。」


 その言葉に、やっとこちらを振り向いた文哉の前に離婚届を差し出す。

 文哉は少し驚いた顔をしていた。


 これが、私たちにとって最後の話し合いとなるだろう。

 だけど今度こそきっと、私たちはちゃんと話し合える。

 だってこれは、同じ方向を向いて話し合える、最初で最後の機会なのだから。


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或いは、恋文なのかもしれない。 細蟹姫 @sasaganihime

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