第3話 浄化

怪3


「このすすきの頭飾りをどうするの?」


 アリシアの猫耳が嬉しそうに動いている。俺は辺りを見回した。そして部屋の隅に置いてある金槌と釘を見つけた。


「これ、使っていいか?」


「いいけど、どこを修理するの?」


「ここだよ!」


 俺は『すすきの輪』を頭だけ浮かんでいる『牛の頭』の眉間に釘を打ち込んだ。すると、真っ白い牛の頭から血が流れ床にぽたぽたと落ちていく。牛の頭は俺を睨み、もの凄い殺気を向けてきた。


「逃げろ! アリシア!」


「何々!? なんなの~!?」


 アリシアと俺は急いで家の外へ出た。牛の頭はその場から動き、俺たちを追ってきた。そこでアリシアは目を大きく開いて指を差す。


「あれッ、なんなのよ! 牛の頭が宙に浮いているの!? どういうこと、カイリ~!?」


「逃げろ逃げろッ! あいつは怨霊だ! お前たち家族を不幸へ追いやった元凶だ!」


 俺とアリシアは牛の怨霊から逃げ、裏の畑までやってきた。俺は立ち止まって、素早く印を結んだ。


「束ッ! 呪ッ!」


 畑の土から鎖が生えて牛の頭を縛り付けた。


 よし、ここでも陰陽術は有効のようだ。急いで浄化の術をかける。次は失敗しない。


「清ッ、呪ッ、浄!」


 陰陽術をかけると、牛の頭の目の前に見たことのない紋様と文字が円形で出現した。すると、牛の頭は徐々に薄くなり、天に吸い取られていくように消えていった。


 俺はその場へへたり込んだ。


「やれやれ、なんとかなったか……」


「あなた……本当にカイリなの?」


 まずい、前任カイリは心優しいヘタレだったな。なんとか誤魔化さないと。


「こ、恐かったよ~! アリシア~!」


「ちょッ!? ちょっとカイリッ!?」


 俺はアリシアに全力で抱き付いた。年はたぶん14歳? 中坊くらいか……ギリギリセーフだろ。俺はアリシアのふくよかな胸の感触を微かに感じながら、その場をうやむやにした。


「もう……しょうがないんだから、カイリは」


「ぐすんぐすん、僕はアリシアがいないとダメなんだ」


「よしよし」


 俺は見事、前任カイリを演じ切り、アリシアの信頼を獲得した。その後、家へ戻り、アリシアの作った花付きのすすきの輪を俺の作ったものへ重ねるように釘で打ち付けた。


 しばらくすると、奥の部屋から猫の顔をした人間があくびをしながら近付いてきた。


「ふぁ~、良く寝たにゃ」


「にゃ?」


「あッ! パパ! 起きて大丈夫なの!?」


 俺は聞き覚えのある語尾に反応し、アリシアは猫型人間に抱き付いた。耳を小刻みに動かし尻尾をふりふりとさせて、アリシアは全身で嬉しさを表現させていた。


「よくやったな、人間よ。アダチさんの件では世話になったにゃ」


「へッ? お前……あの時の黒猫かよ……」


 一件落着。つまり、現世で出会ったしゃべる猫は『アリシアの父』だったのだ。その父が俺をこの異世界へ呼び込んだらしい。てことは、仕組まれたのか? それとも、俺の死を予期していた?


「どこまで知ってたんだ? 黒猫案内人」


「それは、『猫のみぞ知る世界』だにゃ」


「へいへい」


 肝心な所をはぐらかされたようだ。人間には人間の世界、猫には猫の世界があるらしい。どうやら俺は猫耳美少女の笑顔を報酬として、妙な世界に巻き込まれちまったようだな。


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カイリ怪奇譚 白鳥真逸 @yaen

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