最終回。


 すっかり日も暮れて、文化祭1日目が終わろうとしていた。


 1日が何日にも感じるくらい中身の濃い1日だった。


 神宮寺との知恵比べ、メイド喫茶、委員長・玉木先輩とのデート。


 楽しかった時間はあっという間に終わり、虹高文化祭は1日目が終わりを告げた。


「さ、着いたよ」


 俺は玉木先輩に案内されて特別な場所に……っておいおい、特別な場所って、生徒会室のことかよ。

 生徒会室の前に案内された俺は落胆して肩を落とした。

 玉木先輩は生徒会室の鍵を開けると、先に生徒会室に入る。


「シャテー、ただいま」

「にゃおーん」


 飼い猫のシャテーが甘えた声を漏らす。

 この猫、玉木先輩に飼われてるとか前世でどんな徳を積んできたんだ?


「佐野くん、もうすぐだよ」

「もうすぐって……? 一体ここで何が」


 言った瞬間だった。

 ひゅーという吹き戻しみたいに気の抜けた音が外から聞こえて、数秒でそれは夜空に大輪の花を描いた。


「え⁈ は、はな、び?」


 玉木先輩は生徒会室の窓を開け放ち、外に向かって「たまやー!」と叫んだ。

 花火に目を奪われた俺は、いつの間にか玉木先輩の隣に立って、花火を見上げていた。

 なるほど。玉木先輩はこの花火を観せたかったってことか。


「……綺麗っすね」

「この生徒会室から観る花火は最高だよ」


 確かに、生徒会室の窓から見上げるととても近く感じて、障壁もないので、写真に収めるのにも最適だ。


「この花火って、もしかして玉木先輩が?」

「いいや、あたしというより、毎年生徒会が主導でやるのが伝統だから。文化祭1日目お疲れ様、明日も頑張れって、みんなに伝えてあげたい」


 虹高はやることなすことが全て大掛かりな印象だが、この花火も普通の花火大会並みにクソデカな花火なので、どれだけ金が動いているのかが気になって仕方なかった。


「あ、佐野くーん! 来てやりましたよ」


 俺と玉木先輩が良い雰囲気で花火を見ていると、お決まりのようにヤツがやってくる。


「安西先生……ったく空気読めよ」

「いいのいいの。あたしが呼んだんだから」

「玉木先輩が?」

「そーです! 生徒会長に呼ばれたんだから佐野くんに文句言われる筋合いはないですから! それに、私だけじゃないですよ?」


 先生の後をついてくるように、ゆのと委員長も談笑しながら生徒会室に入ってきた。


「あ、孔太くんもいたんだ?」

「いたんだ、じゃねーよ」

「みんなあたしが呼んだんだ。花火はみんなで見た方が楽しいし」


 俺、玉木先輩、委員長、ゆの、安西先生の5人で、窓の前に椅子を並べて花火を見上げた。


「わぁ……綺麗」


 委員長の方が綺麗だよ、と言おうとしたのを察してか、俺の右左に座っている玉木先輩とゆのの2人からウラケンを喰らった。

 この2人が脳内読める系の能力者だということを忘れていた。気をつけねば。


「そうだゆのちゃん。これ、部活動の申請書」


 玉木先輩が思い出したかのように机の引き出しから一枚の用紙を取り出すと、ゆのに渡した。


「やったー。やっと部活動になるー!」

「良かったなゆの。これからも頑張れよ」

「なんで他人行儀なの。孔太くんはこの部活の副部長だから!」

「それは無理だよゆのちゃん」

「え?」

「だって佐野くん、科学部の副部長だし」

「か、かか、科学部⁈」


 あ、やっべー、ゆのに言ってなかった。


「おい、浮気者。まさか科学部にもオンナがいるんじゃ」

「ちげーって、名前貸して欲しいって言われたから貸したんだが……玉木先輩、俺って副部長になったんすか?」

「あたしに聞かれても。吉祥ちゃんが提出した書類には副部長になってたけど」


 吉祥先輩、勝手やってくれてるなぁおい。

 ゆのは彼女面で「吉祥って誰よ⁈」と言いながら俺の肩を揺らす。


「部長、副部長になれるのは1生徒1部活のみ。部長副部長がいない部活は同好会にランクダウンだよ」

「……え、じゃあ、心理学実験部は」

「承認できないなぁ」


 玉木先輩の一言と同時に、花火が空で弾け飛ぶ。

 心理学実験同好会を継続……かと思われたその瞬間。


「……あの、私が、副部長やります」

「花香、ちゃん。でもいいの?」

「副部長……誰かがやらないといけないんでしょ?」

「……ありがとう! 花香ちゃんっ!」


 ゆのが委員長に飛びつく。

 あらぁ^〜たまらんですなぁ。(百合オタ)


 委員長の神の一声で、心理学実験部は承認されたのだった。めでたしめでたし。

 ……はぁ、心底どうでもいい。


「なんか悪いな委員長、俺のせいで」

「ううん。私、部活入ってないから気にしないで」


 委員長、優しすぎるだろ。うちのゆのにもこういう慈愛に満ちた温かみ(バブみ)を身につけてほしいものだ。(後方彼氏面)


「あ、じゃあゆのちゃん。ついでにあたしも名前入れといてー」

「はーい……え、玉木先輩も部活入るんですか」

「いいじゃん別に」


 ならさっきの委員長のくだりの前に言えよ、と思ったが、玉木先輩が先に副部長やるとか言ったら委員長の性格上何も言えなさそうだから、玉木先輩もあえて先に言わないことで、委員長に副部長やらせたかったんだろうなぁ、と勝手に考察。


「すごい。あんなに苦労した部員数が、まさか一瞬で4人になるなんて」

「身内人事すぎて喜べないだろ」

「4人は4人だからいいの! 浮気者は喋んなっ」


 ゆのはシャーペンの裏で俺の脇腹を突く。

 俺が「ひゃんっ」とエロい声を出すと、その場にいる全員が白い目でこちらを見てきた。


「……ま、これで一件落着だな。さっきから安西先生が陰キャみたいに無言になってますけど大丈夫っすか」

「な、なんか皆さん、陽キャみたいに会話するので普通に入って行けませんでした。もう佐野くんのお膝で静かにしてます」

「ちょ、どさくさに紛れて何座ってんすか」

「やっぱり陰キャ同士、佐野くんの膝は心地よいです」


 安西先生が俺の膝にちょこんと腰掛けて、背中を俺の胸に預けてくる。


「ちょっと先生! 他の3人が嫉妬するんでやめてください」


「「「しないから」」」


 その後も先生は他の3人の熱視線を気にも留めず、俺の膝で花火を観ていた。


 ✳︎✳︎


 19時半を過ぎた時分。長かった花火大会も終わり、生徒たちが次々と下校していく。

 俺は先生を降ろして、大きく伸びをした。


「孔太くん、明日はフリーハグどうするの? やるならまた統計範囲を広げておくけど」

「どうすっかなぁ」


 悩んだ末、俺が出した答えはもちろん。


「やるかな。俺は一人でも多くの孤独な人の助けになりたい。こんなクズな俺でもその力になれるなら、俺はいくらでもフリーハグするぜ」


 関心してみんなが頷いてくれた。


 大変だったけど、やりがいのある時間だった。


 フリーハグで紡がれた人との繋がりは、ずっと続いている。


(完)

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陰キャの俺が屋上でフリーハグ始めたら高校の美少女たちとイケナイ関係になった件。〜肌を重ねて抱きしめ合っていいんすか?〜 星野星野@2作品書籍化作業中! @seiyahoshino

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