第十二話 これからの二人
気が付くと宿泊していた客亭のベッドにリリーネはいた。
「んん……あれ……? なんでここに……?」
リリーネは困惑していた。メアリーと戦っていたはずが気付けばベッドの上。ほんの少し頭痛がしたがそれ以外は何も体の以上はなかった。眩しい光に目が慣れてきた。そしてベッドの傍にうとうとしながら座っているアイリスの姿があった。
「ア……アイリス……!?」
一瞬目を疑った。突然攫われ捕らえられたアイリスが変わらない姿で自分の傍にいる。夢でも見ているのかと正気を疑った。
「んあぇ……リリーネ……さん……! 起きたんですね! 良かったぁ!」
さっきまでうとうとしていたとは思えない程の眩しい笑顔になった。本当にいつもと変わらない眩しい笑顔に優しい声。リリーネの目から涙が流れ出た。
「わわっ! どうしたんですかリリーネさん! どこか痛いところでもあるんですか!? 大丈夫ですか!?」
心配そうに声をかけるアイリス。その優しさも何もかも変わっていない。それが嬉しかった。
「アイリス……! アイリス……!!」
「はい! アイリスですよ」
アイリスは胸の中で啜り泣いているリリーネを優しく撫でていた。何度も名前を呼ぶ声に一つ一つ返事を返していた。
「ごめんなさい……。私が傍に居てあげれなかったから……」
「もう、そんなに泣かないでください」
泣き止む様子のないリリーネを見て困っていたその時だった。部屋の扉が開いた。
「お目覚めのようね。ペットさん♡」
メアリーが不敵な笑みでゆっくり歩いてきた。
「……っ!! あんた……!!」
「いやーん、怖いわぁアイリス。助けてぇん♡」
武器を出そうと体制をとり睨みつけるとメアリーは猫なで声でアイリスの後ろに隠れた。その姿にイライラしていた。アイリスは苦笑いしながらリリーネを見ていた。
「なんであんたがここにいんのよ……!」
「それはもちろん、可愛いペットさんが心配で来たのよ♡」
「なによそれ……それにそのペットって呼ぶのやめなさいよ。気持ち悪い」
「あら酷い事言うじゃない。私はあなたの事が心配で言ってあげたのにぃ」
「余計なお世話だっての」
「ふぅ~ん♪まあいいわ。それよりこれからの事について話しましょうか。既にアイリスには悪魔の力の話はしてあるわ。それでアイリスはどうすることにしたのかしら?」
「あんた……! 勝手なことして……!」
「あら、最後の選択をアイリス自身に委ねさせたのよ。とっても優しいじゃない」
「ふざけないで! 勝手に決めてんじゃないわよ!」
怒りを露にするリリーネに対して余裕のある表情を見せるメアリー。するとアイリスは口を開いた。
「リリーネさん……私は、リリーネさんの力になりたいです。」
「アイリス……? 本気で言ってるの!?」
「正直、何が出来るかまだ全然わからないです。
でもリリーネさん一人で頑張るなんて言わないでください。私にも手伝わせてください、友達として!」
アイリスの笑顔にリリーネは何も言えなかった。メアリーはその姿を見て微笑んでいた。アイリスがここまで強く何かを願ったことは今までなかった。
アイリスの言葉を否定出来なかったリリーネの心の中には、不安もあったがそれ以上に喜びもあった。自分の為に誰かがこんなにも必死になってくれることが嬉しかった。
「アイリスがそこまで言うなら……でもこれだけは約束して。絶対に無茶だけはしちゃダメよ」
「ふふ。それリリーネさんが言うんですか?」
リリーネの言葉に思わず笑みがこぼれた。そんな様子を見てまたリリーネがムッとした顔をする。
メアリーはそれを見て楽しそうにしていた。
「さぁ、今日から四人で頑張るわよー♡」
「は? 四人?」
「そうよ? 私たち三人とあのバカと四人よ?」
「は? はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
~エピローグ~
メアリーはリリーネへ説明を終えると部屋を出た。扉を閉めてもまだ部屋の中で文句を言ってるリリーネの声に軽く笑い廊下を歩き始めた。
廊下には沢山の扉があり明らかに二人で泊まる部屋の数ではなかった。リビング、複数ある客室と寝室、シャワールームと大きな浴室、洗面所。
一体これ程の部屋の宿泊代をだれが払っているのか。それは当然メアリーである。数多くの研究をこなし莫大な報酬金や給金を得ている為、豪勢な客亭を用意することも可能なのだ。
メアリーはリビングの部屋に入った。
すると部屋の中央には膝を折り、額を床に付け両手を揃え平伏しているニールの姿があった。
メアリーが指を鳴らすと部屋の明かりは消え、全てのカーテンが閉じた。
「さぁ、何か言いたいことは?」
扉に寄り掛かり腕を組みニールへ問いかけた。
内容はもちろんアイリス拉致の件、メモ書きを残し丁寧に場所の指定までニールの独断で行われたことだった。
「何故、勝手な行動をしたのかしら?」
「も、申し訳───」
「もう一度言うわ、何故勝手な行動をした」
薄暗い部屋が殺気で溢れた。恐ろしくて顔を上げることなど出来なかった。だがその必要はない。これは「本当に怒ってる」と肌で感じるからだ。
滲み出る汗で絨毯にシミを作っていた。ニールは考えたいた。
───正直に言うべきなんだろうけど……完全に私情だしなぁ……それを言ったら「元軍人としてどうなのかしら」って突っ込まれそうだしなぁ……ていうか軍はもうとっくに退役したし今更そこ突っ込まれても……
「はぁ、顔を上げなさい」
軽く返事をし何とかご機嫌を取りつつ丸く収まるようにごまかすことにした。
ゆっくりと顔を上げ口を開いた瞬間、冷ややかな殺気を首の下に感じた。恐る恐る確認するとそれはメアリーの大鎌だった。
しかし目の前にはメアリーが扉に凭れている。鎌を持っていたのはメアリーから伸びている大きな影だった。影はニールの後ろのカーテンから天井にまで伸びていた。
「先に言っておくけど、真実以外を述べたら容赦なく首を切り落とすわ」
ニールは全てを悟った。「あ、これ本当に殺されるやつだ」と。自分の行おうとしていたことを反省した。何度も見たことがある他者を見下す時の顔をしていた。
「仲間……だったから……」
「なんですって?」
「あいつら、出会ったばっかりだったけどすげぇ仲が良さそうだったんだよ」
「そんなことで私を裏切ったというの?」
「いや!もちろん最初は躊躇うつもりなんてこれっぽっちもなかった……けど」
「けど、なに?」
「監視してる間に昔のこと思い出しちまって……仲間を奪われる辛さは、知ってるつもりだからよ……」
しばらく沈黙が続いた。メアリーは目を閉じた。やはり機嫌を損ねてしまったのだろうか。いや元より機嫌は悪い。問題なのは自身の私情で作戦を崩してしまったことに対しメアリーがどう思っているか、それが気になった。
するとメアリーは大きく息を吸い込みため息をついた。
「やっぱりそんなことだったのね」
「え?」
「まぁいいわ。今回は見逃してあげる。結果的に二人ともこちら側に引き込む事が出来た。それに聞いてたより可愛らしい子達だったからね」
意外な返答だった。許されるとは思ってもいなかった。古い仲の好みなのか?そんなことで情けを掛けてくれるような人じゃない。
なんにせよ、あの恐ろしい殺気が無くなり許された。それだけ分かれば良かった。
「は、はかぜぇぇぇ‼ あだじ一生はがぜにづいでいぎますぅぅぅ‼」
「くっ……!気持ち悪い!」
メアリーの足元で頬ずりをするとそのまま蹴り飛ばされた。
「いてぇ……いてぇけどこれで許されるならありがたい……」
「ふん!図に乗らないことね。次私に報告なしで勝手なことしたら、問答無用で首を刎ねるわ!いいわね!」
メアリーは扉を勢いよく閉め出ていった。まだ頬がジンジンと痛むが本当にこれで済んだことが幸運だと思った。
「もうほんとに博士はツンデレだなぁ……」
ついボヤいてしまった。昔から何だかんだとこんなやり取りをしてきた。本人には決して言えない。言ってしまえばそれこそ打ち首だ。しかも今なら冗談では済まないから本当に恐ろしいことである。
さてっと体を起こしアイリス達の様子を見に行こうと扉を開けた。
するとそこには見事なまでの満面の笑みのメアリーが立っていた。
「なんて……言ったのかしら……?」
「あ、あははは……こりゃどうも博士本日もお日柄もよく……」
その時見たメアリーの姿は普段自分より小さいメアリーが数倍にも見えたそうだ……。
*
***
<side end>
~あとがき~
第十二話読んでいただきありがとうございます。榊ナギです。
今回で二節が終了します!そして十一話公開後に思いついたエピローグを挟んでみました。
こういう書き方で合ってるのかな?と思いつつしらねー!って感じで勢いで書きました。
偉大な方はこう言いました。「下手でも世に出す勇気は大事にするべきだ」と。文章力というかストーリー構成の腕を上げるためにも日々精進してはいますが努力とはほんの少しずつしか伸びないもの。なんので皆さんの応援を胸にこれからもこの物語を綴っていこうと思います。
という訳で三節との間が空いてしますが、気長にお待ちください!
榊ナギでした!
アイリス~この素敵な世界が終わらないように~ 榊ナギ @Nagisakaki
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