空の花と赤い紐
鱗青
空の花と赤い紐
「ねーザンおじさん。毎度の事だけど
助手席で頭とお尻が逆転した姿勢(でもシートベルトはつけてるよ!)で文句をつけたレトリバー系犬人の
「
大きな
「ザンおじさんがサッカー中継に夢中になってたから出遅れたんじゃん。何度も時計見た方がいいよって教えてあげたのにさあ」
おじさん、大きな耳を倒して思いきりハンドルに
「あ〜ぐぞ、ゾランの野郎!あそこでシュート外さなきゃあ
「そんなに賭けてたの⁉︎じゃあ今月の電気代とガス代は⁉︎食費は⁉︎僕のお
これは冗談じゃない。僕はまだやる気の出ない相手の巨体を運転席から引きずり下ろし、事件の調査を依頼された屋敷、
「急に呼び出して済まん、ザンパノ、
ハンチング帽を丸い頭に乗せ、首元にゆったりマフラーを巻きつけたペンギン人が
「そんな事ありません!むしろ助かり…ゴホン、探偵として当然ですから‼︎」
僕とほとんど変わらない身長の警部にペコリと頭を下げ、まだぐにゃぐにゃしているおじさんの
「失礼を申し上げますけど…警部さん、こんな子供まで巻き込まなければならないんですの?」
警部の隣には羊人の女の人がいた。
と、おじさんシャキッと立ち上がって
「やはっ、
「
警部の手元から
「さすがブルーノさん、カッコいい!久しぶりに見たよ
「トト君も練習しているのだろう」
「んー、でもなっかなか上達しないんだよね」
「
「いやそんなんどうでもいいからコレ
「ハイハイ、僕が解いてあげる。手がかかるんだから…」
おじさんの縄を
「こちら
けど。
「
と、アポロニアさんは一歩
「ケケッ。フられたな」
「俺様は大人の男だからな。それに名前に“デル”がついてる」
「油を売っとらんで現場に行くぞ。こっちへ。
首や肩をグキグキ回すおじさんに続いて屋敷の
食堂には
「遅いぜザンパノ。親友のピンチに何チンタラしてやがる」
「うるせぇファルコ。
お互い毒づきながら
「何者がこのワシに
羊人のお爺さんは、車椅子の上からずり落ちそうな勢いでファルコを
「昨晩、男爵は夕食の
言い終わる前にファルコが
「俺っちが
「セコい
おじさんは口を
「料理人が紫蘇を
ブルーノさんは眠たげに
食堂の窓からちょうどこんもり
「あー、確かに紫蘇の葉に似てるなぁ。
「ちょっザンパノ!俺っちの
「俺は探偵、犯人を探すのが仕事」
「俺っちじゃねえっての!」
「ねえブルーノさん、ファルコさんが男爵さんを殺して何か
僕の
「そう。こやつ
男爵は別に眼鏡なんかかけてないのに。おかしいの。
「でもだとするとよ、
おじさんは腕組みして言い切った。
「
「てめゴラザンパノ!」
「ザンおじさんそっくりだね」
「やかまっしい。──だがな、だからこそコロシは
ふーん、そんなものか。僕は
「そう、彼には男爵に毒を盛る理由が無いのだ。だから貴様を呼んだのだ、ザンパノ」
男爵のそばにいたアポロニアがキャッと悲鳴を上げた。紫陽花の葉の裏に
「アポロニア様!」
窓から茶色の影がヒラリと飛び込んできて、素早くカタツムリをすくいとり窓の外に放り投げた。
あの柴犬人だった。アポロニアが
「驚かせたな。これは
ヒロキはクルンと巻いた尻尾が頭より高くなるくらい
僕は男爵のセリフの途中からえらく
「ね、エスカヴァ…って何」
「
僕はなんとなくヒロキが気になり、おじさんの方を見た。おじさんも
柴犬人はまっすぐ玄関を抜け、建物を回り込む。大きな庭。
そして食堂に面した側には、天空の色を吸い取ったような
あんまり見事な青に包まれて、僕はしばらくぼうっとしてしまう。
「君は探偵の…」
ハッと振り返るとヒロキが直立不動で後ろにいた。東洋人特有のフラットな表情で見つめられ、
「僕を
「あ…その…ごめんなさい」
ヒロキは
こぼれ落ちたのは
「あ、カタツムリ!ヒロキさん助けてあげてたの?」
「人の歩く場所にいたら
ちょっと怖い人かと思ったけど、自分が投げた(アポロニアさんのためだけど)カタツムリを助けてあげるなんて、意外と優しい人じゃない!
僕は気になってた事を
「青い紫陽花なんてあるんだね。僕
「土の問題ね。
そう言うヒロキの栗色の顔がほころぶ。笑うと
「
「へー、青いのはお姉さんのリクエストなんだ?」
「特に命じられたわけではないが…」
ヒロキはポリポリ頭を
「土のpHを整えた。この辺はとくにアルカリ性の強い土地だから苦労したね」
「
キョトンとした柴犬人、次の瞬間には腹を抱えて笑い出した。
うん、この人は
まるでテレパシーが通じたように、おじさんや警部達がひとかたまりでやってきた。
走り寄る僕に、帽子を
「ヒロキ=カツラ君。男爵に対する殺人未遂の疑いで逮捕する」
えっ?
見上げると、おじさんも口をへの字に曲げていた。横にいるファルコは勝ち誇ったようにニヤつく。
「よーく考えりゃよぉ、
「え?そんな!もっとアリバイとか
「トト、給仕に囲まれていたファルコと違い奴にはアリバイが無い。反対に指紋を残さねえための手袋は、庭仕事用のがたんまりある。後は取調室で
僕はヒロキを見る。柴犬人は少し目を伏せていたが、大人しく両手首を
「
目の前を連行されていくヒロキ。信じられない。
ホラ、男爵だってさっきよりもっと
あ!
僕はおじさんの大きい尻を
「なんだトト邪魔だぞ!」
「ザンおじさん!もしかしてさ…」
僕はアポロニアの方を示し、さっき見たものの事を話す。おじさんはすぐ意図を
「良いのかいお
ビクッとした羊人は、それも仕方ないでしょうと
「そうか。あんたが構わないなら仕方ねえんだろうな。ところでよ…」
ボリボリと両耳の間を掻き、おじさんはダメ出しのひとことを言い放つ。相手の心理を
「紫陽花にも花言葉ってあんのかい?」
アポロニアが顔を上げた。
「───待って!待ってください、その人を連れて行かないで‼︎」
ゆったり歩いていた警部が足を止め、小さな体をグルリと回してこちらを向く。
「ヒロキではありません!私…私が
「な、何を言うんじゃアポロニア?長年働いたからといってお前があんな
「あんな下種…⁉︎」
羊人は瞳を
「ヒロキは私の大事な人よ!お父様にだってそうだったでしょう⁉︎私は───ゆくゆくはヒロキが
「お、お嬢さん何言ってるんですかい?」
「
ワンピースの裾を
違う。そう見えてしまうほどに酷く
「なんて事ね!」
ヒロキがダッシュして、
「ああ、君の美しい肌にこんなにカタツムリの
「───こういう事ですわ」
数日後。
ファルコはおじさんと僕の探偵事務所にやってきて、
「結局あれから二人くっついちまって、今度俺っちウエディングケーキまで作らされんだぜ。やってらんねー!」
とコックコートをだらしなくはだけてワインをラッパ飲みしてクダを巻いた。
おじさんはそんな旧友を笑いつつ、
「
とものすごい煙の出る
僕は酒の匂いとヤニ臭さで
結局、最後の『花言葉』の部分だけ読んで満足し、本棚に戻す。窓の方から友達が大声でサッカーに行こうぜと
シチリアの空は今日も、海の色と
『紫陽花の花言葉…“移り
青く咲いた場合には“貴方を
空の花と赤い紐 鱗青 @ringsei
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