おかげまいり&ぬけまいり ⛩️

上月くるを

おかげまいり&ぬけまいり ⛩️




 東照大権現(徳川家康)さまが開いた江戸幕府にも破綻の兆しが見え始めたころ。

 品川宿からスタートする東海道をひたすら西上する、ひとりと一匹がおりました。


 ひとりのほうは少年で、縞木綿の裾をしっぱしょりにして、柄杓を担いでいます。

 一匹は茶色い被毛の中型犬で、「おかげ詣り」と書いた布を襷がけにしています。


 以前からの相棒のように肩を並べたふたりは、労わり合いながら歩いて行きます。

 ふたりが目指すのは東海道四十七番目の宿場・関宿、さらにその先の伊勢神宮で。


 本当のことを言いますと、ひとりと一匹は、まったく他人の見知らぬ同士でした。

 それが互いに訳ある身で街道を行くうちに、どちらからともなく寄り添って……。



      🐜



 年のころ10歳ばかりの少年は、日本橋でも名の知れた呉服問屋の丁稚小僧さん。

 見るからにいろいろな種類が混ざっている(笑)犬は、深川の小間物屋の飼い犬。


 ある夏の日、店の前に水を撒いていた少年は、ふと伊勢参りをしたい気分になり。

 長屋住まいの飼い犬は、病弱な主人に「おまえ、代わりに行っておくれでないか」


 東海道を西へ急ぐうち、はぐれ者同士のふたりは自然に仲良くなっておりました。

 柄杓を担いだ丁稚小僧&晒し木綿を襷掛けした犬のペアは、いやでも目立ちます。


 道行く人はみな親切で(それはそうでしょう、大半がお伊勢参りの旅ですから)。

 宿場の旅籠でも、ほれ柄杓小僧さんだ、やれ犬の代参だとチヤホヤしてくれます。


 路銀を一銭も持たないふたりですが、食べ物にも雨露をしのぐ屋根にも困らずに。

 それどころか、小僧さんの柄杓や犬の襷にお布施を入れてくれる人たちもいます。



      🐕



 まさに旅は道連れ世は情け……ふたりはルンルン気分で伊勢神宮に到着しました。

 そして、神官から竹筒入りお礼をもらうと、肩を叩き合い旅の成功を祝しました。


 で、ものはついでとばかりに、そのまま中山道へ出て、ちゃっかり善光寺詣でへ。

 当時の二大詣でを果たしたふたりが帰った江戸には、秋の気配がそこはかとなく。


 呉服問屋にもどった小僧さんは、柄杓を箒に持ち替えて、店の前を掃いています。

 長屋の家にもどった犬は「よくやったな!」腹や頭を撫でてもらってご機嫌です。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おかげまいり&ぬけまいり ⛩️ 上月くるを @kurutan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ