第48話 本音の衝突
12時になり空虚な部屋の壁にかけられている時計のチャイムが鳴り響いた。
……沈黙が続く憂鬱な時間。
重い空気。
渦巻は俺の胸に頭を預けたまま……。
ピクリとも動かない。
俺はそんな渦巻を優しく腕で包み込むように抱えた。周りを見渡せば美徳先生も番匠も、あの水鳥でさえ涙を堪えきれず頬を伝うように流れていた……。
渦巻は本当に……
「五之治くん……ごめん…私何も出来なかった……」
水鳥が俺の肩にまるで涙を隠すかのように額を押し当てた。
……やばい。
今にも涙が溢れてきそうだ……。
堪えないと…男として……。
「渦巻…ごめん……」
俺は涙を堪えきれず、胸に額を寄せる渦巻の真っ白な髪に顔を隠した。
無言の時間が続き、耐えきれなくなった俺はやがて……泣いていた。
異世界にいた記憶でもそう……仲間の死はとても悲しいものだ。耐え切れるものではない。
俺はあの世界で仲間が死ぬところを何度も見てきた。2年冒険した仲間、3年も衣食住をともにした仲間。
仲間というのはもはや家族よりも過ごす時間が長いとさえ思っている。
だから耐えられるわけがないのだ。
当たり前に過ごしていた仲間が突然いなくなる衝撃に……。
思えば渦巻はいつだって俺のために何かをしてくれていた。学校で俺を導くため。水鳥を助けるためのヒントをくれたのも渦巻だった。番匠の時もそう、番匠の体に起きた異変に気付くことが出来たのも渦巻のおかげだった。
いつだって渦巻は絶望していたこの世界で、それでも誰かのために動いてくれていたのかもしれない……。
そんな仲間が死ぬのは耐えられない。
本当に救いたかった。
おれはいつしか仲間と思っていた渦巻の事を思い、少し嗚咽しながら静かに泣いた。
おそらく流れる涙は渦巻の額から……
「……優春くんの泣き顔、頂きました〜」
「へ?」
誰の声だ……?
優春くんって言った…?
俺の胸から顔を上げた渦巻はそのままの勢いで俺に抱きついて抱擁するように俺の体に腕を回した。
「ありがとう優春くん、それに水鳥さん、みんなも……。どうやらウチ、死にそびれちゃったみたい」
いつもの真っ白な肌色に戻っている渦巻。
「どういうこと……?」
「……どうやら間に合ったみたいね」
水鳥が涙を拭った後に答えた。
……?
「間に合ったとは……?」
「さすが水鳥さん〜、頭良過ぎて怖いんだけど、五之治くんとは大違いだわー」
そういう渦巻は俺に回している腕をされに強く締める。
抱擁が強過ぎて肺が圧迫されてるんだけど……。
「渦巻さんは何に絶望したか、それは人間の心だった。じゃあ未来予知が出来るきっかけになったのは……わかる五之治くん?」
「お前の存在だろ……水鳥」
「そう、正確に言えばライバルの存在かしら。だから私がやるべきことは渦巻さんをライバルとして認めること、それを渦巻さんに伝えることだったの……」
「正解だね…水鳥さん。どうやらウチはもう未来が予知できなくなったみたい。演算は得意なままだけど、人の未来はわからないや……」
「それに五之治くん、私は渦巻さんの呪いを解いたに過ぎないのだけれど、彼女を絶望から救ったのは、あなただと思う……だから私からも感謝してる。……また渦巻さんと張り合いのある学校生活が送れそうだわ……」
そうか…それが渦巻にかかっていた呪いの正体。
渦巻は水鳥に認められたいと思って一生懸命だった。水鳥は渦巻を認めていたのだけれど、それを伝えてはいなかった。
そしてついさっき水鳥がそれを伝えた。
ようやく渦巻の頑張りが報われたのだ。
ようやく渦巻の思いが認められたのだ。
よかった……本当によかった。
「水鳥さーん、ってなんか長くて呼びにくいんだけどー、名前で呼んでもいいー?」
「相変わらずあなたって馴れ馴れしいのね……。その代わり私も名前で呼ばせてもらうわ。いいでしょ真冬」
真っ白な肌が赤く染まった渦巻は満面の笑みを見せてこう言った。
「もちろんだよー救衣」
初めて会った時、犬猿の仲のようにお互いを嫌っていたように見えた二人。しかしそれはお互いが意図してなかったすれ違いに過ぎなかった。
人間関係ではよくある事だ、人はいつだってすれ違う。だが、すれ違いもぶつかりさえすればその先の関係に発展する。
一番いけないのはすれ違ったままにすること。
二人は1年もの間ずっとすれ違っていた。そんな二人がお互いの想いを言葉にしてぶつけた。そして二人の関係は良かれ悪かれ前に進むことができた。
おそらくは最高のライバルになるだろう。
それに最高の友達にだってなれるだろう。
二人を見ていると心がホッとする。
暖かい気持ちになる。
そして俺も本音をぶつけようと心に決めることが出来た。
「ねーねー美徳先生も番匠さんも泣いてないでさー写真撮ろうよー? だってウチの部屋って何もないんだよ〜?」
渦巻は立ち上がりみんなの顔を見回した。
「ごめん渦巻さん、担任として…無事だったことが嬉しくて…それに五之治くんとイチャイチャしてたことが…女として悔しくて……」
何言ってんだこの人は。
「番匠さんもありがとねー、隣のクラスなのに色々と大変だったでしょ」
「わ、私はいいの…みんなが笑ってるならそれだけで」
「だねー」
それから俺たち5人は渦巻の部屋で写真を撮った。美徳先生がやけに撮り直しを要求していて理由を聞いたら「大人の事情だから」としか答えてくれなかった。
みんな泣いた事もあって目が赤くなったり腫れていたりしていたのだけど、その表情はこの場で何が起きたかを物語る良い写真となって、渦巻の部屋に飾られた。
この写真がある限り、もう渦巻が絶望することは無いだろう。たとえ絶望したとしてもこれから先、仲間とともに手を取り合って乗り越えていけるだろう。
……最高の写真だ。
渦巻は以前とは違う、誰とでも楽しそうに話している。これが本当の渦巻真冬だったのかもしれない。明るくて元気で……。
そう……俺は気付いていた。
本来この写真に映っているべき花火の姿がそこに無いことに。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
花火の存在を忘れてしまった水鳥と番匠。
美徳先生や渦巻は花火の存在を知っているのか。
そもそも引持花火とは一体何者なのか!?
次回 最終章突入
ついに明かされる引持花火と五之治優春の関係。
二人の過去に一体何があったのか。
楽しみにお待ち下さい。
ホームストーリー ≪転生したら高校生だった件≫ tomis brown @tominary
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