おまけのおまけ(異世界鉄道・終話) そして、更に十数年後のある日
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これは異世界鉄道・本編の最終話案(2)でもあったお話です。ですので所々本来の最終話と重なる部分があります。
なお話そのものは本編の最終話の、更に数年後のお話です。
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やっとこの路線も開業を迎える事が出来た。
境界山脈横断線と名付けたこの路線、フェリーデでは初の国外へ直接繋がる路線だ。
◇◇◇
この路線の計画は領主家や国から要望が出て、といういつものパターンでは無い。
僕の企画による僕の路線だ。
建設費用はちまちま貯めた僕の私費を投入するつもりだった。
領主家の企画でないから、工事には関連領主家の許可が必要だ。
今回の場合工事開始地点であるシックルード伯爵家、そして国外に通じる事から国そのものの許可が必要となる。
まず工事開始場所であるシックルード伯爵、つまりウィリアム兄の許可。
これはまあ簡単に取れた。
『リチャードが計画するという事はそれなりの意味がある路線だろうからね。領主としても問題は無いと判断するよ』
そんな感じであっさりと。
ただ国王庁はそう簡単に話が通らないだろう。
何せ国交もあまりない外国への直通路線なのだ。
しかも申出者は一応貴族ではあるものの領主でも官僚でもない一介の商会長。
どう考えても許可を取るのに長い折衝や調査が必要だろう。
当然のことながら国王庁と相手先都市国家との話し合いも必要になる。
僕の方と相手先国家とは既に合意は出来ている。
それでもフェリーデ国としての確認や合意が新たに必要になる筈だ。
結果、許可が出るまで数年はかかる事を僕は覚悟していた。
しかし実際は何というか……
国王庁の担当と思われる部署に事前相談のつもりで行って、簡単な事前相談をして後は担当者とという事でその日の話し合いは終了。
そして翌日、何故かそのまま申請書を書かされ、そしてそのまま許可が下りてしまった。
どうしてそうなったのか、答え合わせの機会はすぐに訪れた。
建設費用投資の申し出なんて話が商会宛てに届いたからだ。
間違いないくウィリアム兄経由で話が回っていたのだろう。
出資者の顔ぶれからしてそうとしか考えられない。
この路線の行き先や路線の目的について、知っている者はほとんどいないというつもりだった。
僕の他にはダルトンと、あとはせいぜい父であるジョフローワ・前シックルード伯くらい。
そう思っていたのだ。
しかしどうも現実は違うらしい。
当時そんな事を思ったのを覚えている。
なおその辺の答え合わせは未だに出来ていない。
大叔父に聞いてもはぐらかされてしまったし。
◇◇◇
「こちらの路線は三公社前駅から本線やスウォンジー南線、森林鉄道線と別れトンネルに入ります。
この境界山脈の下を抜けるトンネルは全長
現在は片方が単線の線路で、もう片方は非常用避難路です。ですがもし需要があるのなら避難路の方にも線路を敷設し複線にも出来る設計となっております」
開業式典の場でこの路線についての説明をしながら僕は思い出す。
これだけのトンネル工事だからエドモント顧問が元気なうち、つまり出来るだけ早いうちにやろうと思っていたのだと。
それでも実施に十分な規模まで商会が育ち、建設費用が貯まり、社会情勢が一服するのに10年かかってしまった。
「このトンネルの建設には2年ほどかかりました。トンネルそのものが開通したのは2ヶ月前で、それから急ピッチで線路や信号等の施設建設を行い、ようやく本日の開業へとこぎ着けた訳です」
許可が下りた後、すぐに工事を開始。
エドモント顧問、最近は顧問に匹敵する位の魔法持ちとなったミロス上席主任研究員兼土木工事部統括部長、そして部下一同をもってしても、この境界山脈の下を通るこのトンネルを掘るのに2年かかった。
勿論ずっと掘らせている訳では無く、他の業務をやったり休日を取らせたりしながらだけれども。
何気にその辺の業務管理、ミロス課長は細かいし。
その後、線路と信号装置等を設置するのにも2ヶ月かかった。
何せ全長
地球と比べればこれでも異常な工事速度だ。
僕はフェリーデの常識に慣れてしまったけれど。
説明しながらこの開業式典にいらっしゃった御来賓の方を僕は見る。
工事開始式典の時でも充分重すぎる構成だったが、今回は更に重い。
具体的には……
アルガスト陛下、リアルド殿下及びエリザヴェータ妃、エッティルー殿下、アンブロシア・イザベラ・ローチルド辺境伯代行、カール・ファルスゲイガー・ローチルド辺境伯代行補佐、ダーリントン伯爵、ジェームス・スティルマン伯爵代行、シックルード伯爵、ジョフローワ・シックルード前伯爵。
本来は一商会の新路線開通式典だったのだが、国王陛下を筆頭に王族が3人もいる。
まあこれは諸般の事情という奴だ。
おかげで式典も当初の予定と形式が変わってしまった。
本来は開業式典で一般の人も一番列車に乗せるつもりだったのだ。
しかし陛下が出てきてしまった時点でその計画は中止。
まずは重すぎる皆さんと大勢の役人の皆さんの前で式典を開催。
その後一番列車で向こうへ行き、
① 簡単な見学をして、
② 役人の皆さんの過半数はそのまま相手先との各種会議に出席し
③ 重すぎる来賓方は向こうのトップと会食、そして見学その2などを実施して、
④ 泊まり込む予定の役人さん達以外は夕刻の列車で帰って来る
という日程になった。
おかげで一般の皆さんを招待する式典を明日朝やらねばならない。
鉄道マニア、商人、その他新しもの好き等で既に定員は目一杯。
なおかつ式典後の列車もかなり先まで予約が埋まっている。
何というか、この国の人って本当に新しもの好きだよな。
そんな事を思いつつも僕は挨拶兼説明を続ける。
「これから来賓の皆様には一番列車、シャルミレイン経由ダイアスパー行にご乗車いただきます。こちらの列車は所要時間33分、定員が……」
◇◇◇
起点駅である三公社前駅での、来賓は豪華だが参列者はそこまで多くはなく、むしろ警備の騎士団員の方が圧倒的に多い式典は無事終了。
来賓の皆様と北部大洋鉄道商会の関係者、国王庁派遣の役人の皆さん、そして報道の皆さんが乗車して。
「それでは開通記念列車、発車します」
ダイアスパー行き一番列車は無事発車した。
三公社前駅を出て、すぐにトンネルに入る。
トンネル内には中間地点にあるシャルミレイン列車交換所以外に駅はない。
地上に出る事もなく、目的地まではずっと地下だ。
ただトンネルはひたすらまっすぐ掘れたので、速度はそこそこ出せる。
だから
本当はこの路線用に新造したこの列車の難燃構造や出力強化について語りたい。
新たに作った指揮所からのリアルタイム監視・制御システムとか、5段階速度指示付保安装置、緊急停止装置、更には他の新機軸も。
トンネル内の安全施設だって新機構は山ほどある。
しかし鉄でない皆さんにそういった事を語るのは無意味というか無粋だろう。
だから代わりに僕は皆様にこう告げる。
「目的地へは半時間ほどで到着します。全区間がトンネルですので車窓の風景は楽しめません。ですので当路線の目的地である都市国家ダイアスパーの簡単なパンフレットと、お飲み物やおつまみをご用意いたしました。
これからパンフレットとメニューを配らせて頂きます。軽食はパンフレットをご覧の上選んで係員にお申し付け下さい」
トンネルの中なので車窓は楽しめない。
だから軽食とパンフレットで時間つぶし。
ちなみに軽食は、
飲み物がコーラ、サイダー、エナジードリンク系炭酸飲料、乳酸菌飲料、紅茶、コーヒー、オレンジジュース。
おつまみがフライドポテト、ハンバーガー、ピザ各種、フライドチキン、カレーパン、コールスローサラダ、冷製クリームスープ、焼きショコラ、ティラミス、固いアイスクリーム
といったところ。
実はほとんどが観光推進部の手で近日開店予定の駅ナカ設置ファストフード店のメニューだったりする。
でもまあそれはそれとして。
パンフレットの方は当たり障りのない内容しか書いていない。
都市国家ダイアスパーの位置とか人口とか、現在の産業構成とか輸出可能品目とか。
しかし実際は何が待っているのか、来賓のほとんどは知っている気がする。
中には既に行った事がある方もいるかもしれない。
確認は取れなかったけれど。
この後向こう、ダイアスパー側でも歓迎式典が用意されている。
更には外交に関する会議も開催される予定だ。
何せ向こうの知識や事物は取扱注意なものが多い。
開通前にも役人等による会議はある程度開催され、最小限の取り決めは出来ている。
一般人や商取引客用に見学コースや商取引施設、宿泊施設なんてものも向こうで用意済みだ。
しかしそれ以上の交流についてはこれから、実際に現場を確認し、大勢の実務担当で検討してからという事になる。
列車は走っていく。
過去に失った筈だった、しかし確かに存在していた世界の証左。
そして再びこの世界を未来へと誘う可能性のある場所へ向けて、国境山脈の下の地中を魔法で照らしながら。
(シリーズ全部 ここで完結です)
異世界鉄道おまけ 異世界ロボット 於田縫紀 @otanuki
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