第9話はい、あーん
私は来栖に握られていた手を開いたり閉じたりしながら見つめていた。
「どうしたんです、恵南先輩?さっきから開いたり閉じたりしてる手を見つめてますけど」
「えっ?ああぁ、ううん……どうもしてない。来栖さんの手がすべすべしてたなぁって」
「そう、ですか……ってべたべたしてました?すみません、恵南先輩の御手を汚してしまって」
「いやいや、べたべたじゃなくてすべすべだよ。すべすべしてたって」
「そうですか〜ぁ、嫌われなくて良かった〜!すべすべ、ですか……」
「そうだよ。私が手汗で来栖さんの——」
「私は恵南先輩の汗なんて気にしないですっ!むしろ汗をかいた先輩をスゥハァしたぁいっ——」
私が彼女に対して手汗を心配している意を告げようとしたら、興奮した様子で捲し立て言葉を被せてきた彼女。
危険な単語を勢いに任せ口走ったことに気付いた彼女がテーブルに身をのり出した体勢のまま、硬直した。
「えっとぅ〜汗をかいた私を〜どうしたいのか〜もう一度言ってくれない?」
「……えっとぅ、そのぅ……すみませんでしたぁッッ、今のはその……」
彼女は動揺をみせる。
ジョリジョリと前髪の毛先を弄り、乱れた息遣いを整えようとする彼女。
注文したスイーツと飲み物をウェイトレスがトレイで運んできた。
ウェイトレスが厨房に姿を消してから彼女が目の前のモンブランにフォークを突き刺し、一口サイズに切り分けたひときれを自身に運ばず、差し出してきた。
「え、恵南先輩、はい……あーん」
「ええ〜それは幾らなんでも恥ずかしぃ……」
「はい、あ〜ん」
フォークを差し出す手を引っ込めることなく、食べさそうとする彼女。
「ぁぁもうっ!はい、あーん」
ヤケクソにフォークに突き刺さるモンブランに口を近づけていき、モンブランを口にする私。
浮かした腰を再び椅子に下ろし、唇を尖らせ抗議する。
「なんであーん、なの?恥ずかしすぎるってば、来栖さん」
「誰かにあーんするの、やってみたくて。抑えられなくて、衝動が」
「だからって、酷いよー来栖さぁ〜ん」
「かっ、可愛い……先輩ぃっ!」
「かっ、からかってるよね、来栖さんっ?」
「そそっ、そういうつもりじゃ……」
激しい動揺をみせた彼女。
抗議はしたが、若干嬉しくもあり満更でもないと思った私だった。
ずるいよ…後輩のくせして 闇野ゆかい @kouyann
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