第3話
気がつけば、見知らぬ天井が目に映った。
「・・・ここは・・・?」
「よお。やっと目が覚めたかよ、ねぼすけくん」
聞き覚えのある声がした。
声の方に顔を向けると、そこにはあの時の男の姿があった。
「・・・なんで・・・?」
「路地裏でくたばってたから、助けてやったんだよ。子供の命は宝物って、母親がよく言ってたからなあ」
−−—路地裏? 倒れてた? なんで?
少年の頭には次々と疑問が浮かび、それを男にぶつけようと、身体を起こすが−−−
「−−−ッ!!」
突然、身体の節々を激痛が襲った。
「まだ身体起こさねぇでゆっくり寝とけ。心配しねえでも、飯の準備はしてある」
男は少年に静かに忠告した。
少年は起きるのを諦め、横になったまま疑問をぶつけた。
「・・・何が・・あったの?」
「なんだ、この前の出来事、覚えてねえのか。まあ、あんだけしこたま殴られりゃあそうもなるわな」
男は後ろ髪をポリポリと掻きながら青年の方に顔を向ける。
「あの日、オメェは俺の忠告を聞かないで、またあの店の前に行って、窓ガラスを投げ破った。そこまでは覚えてるか?」
少年は静かに頷いた。
「その後、店のじいさんがすぐに気付いて、食べ物を物色していたお前を捕まえて、袋叩きにした。そして動かなくなったお前を路地裏に捨てた。それを見ていた俺は、お前をまた宿屋に連れてきて、ここで休ませた。そんだけだ」
「助けて・・・くれたの?」
「助けてなんかない。俺は見ていただけだ。店の親父に感謝するんだな。ちゃんと死なない程度に殴ってくれた」
男は顔を背け、窓を開ける。外からは暖かい日差しが部屋の中に入り込む。
「・・・なんで、助けてくれるの・・・?」
少年は男の後ろ姿を見つめながら質問した。
「・・・別に、ただの気まぐれだ。たまたま俺が救えそうな命があったから、どうにかして救いたいと思った。今までは、奪ってばっかだったから・・・」
その言葉は、どこか儚げに感じられた。そして、同時に切なさも感じ取れた。
「動けるようになったら、店のじいさんに謝りに行くぞ。俺も一緒に行く」
「・・・余計なお世話だ」
そう悪態をつきながら、布団の中に潜り込む。
親も友達も、知り合いもいないこの街で、初めて頼れそうな存在が目の前にいる。そのことが、今までの自分の苦労を和らげてくれそうな気がした。
「そういや、まだ名前言ってなかったな。俺はゼノア。お前は? なんて名前なんだ?」
「・・・俺の名前は−−−」
「・・・そうか。とりあえず、よろしくな」
「・・・うん」
気がつけば、少年の瞳から一粒の雫が枕を濡らしていた−−−
スラム街にて 佐乃原誠 @sanoharamakoto
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