第2話
「離せ!!」
「離すかバカ。食いもん欲しけりゃ金払え。金がなけりゃ働きやがれ」
「黙れ! 働ける所なんて何処にもない!! 何も知らないヤツが、知ったような口聞いてんじゃねえ! バカ!!」
少年は必死に男の手を振り解こうともがくが、男の手はまるで動揺せず、まるで銅像か何かを相手にしているかのような頑強さだった。
「自分で何もできねえんだったら、頼れる大人を見つけやがれ。考えることを放棄して、手当たり次第に物を強奪するのはクズ野郎がすることだ。オメエみたいなガキがするもんじゃねえ」
男は少年を無理に引きずり、近場の建物に入り込む。
「おう、おっちゃん。たでーま」
「・・・なんだそのガキは。ここは孤児院じゃねえんだぞ」
そこはどうやら宿屋のようだった。店のカウンターには異常に目力の効いたジジイが座っている。
「知ってるよ。突然で悪りぃんだけど、こいつも俺の部屋に泊めさせてくれない?」
「・・・構わんが、金はもらうぞ」
「ほい」
男はジジイの眼力を物ともせず、ポケットから慣れた手つきで提示された金を出した。
「・・・何か騒ぎ出すようなら迷惑料を上乗せするからな」
「ほいほい、了解」
男は暴れる少年の腕を掴み、およそ引きずるような形で階段を昇り、ドアを開け、少年を部屋に引き摺り込んだ。
「テメェ! 一体なんのつもりだ!!」
「うるせぇよ。聞いてたろ、騒ぎ立てたら迷惑料だって。少し声の大きさ調節しろアホ」
「なんのつもりだって聞いてんだよ!!」
少年は鼻息荒く大きく叫ぶ。
男はそんな青年を胃に介さず上着を脱ぎ、近くのハンガーに立てかける。
上着の下は黒のノースリーブセーターを着ていたようで、二の腕からは見事に鍛え上げられている筋肉が垣間見える。そして、左手首には白銀のブレスレットがはめられていた。
「見た所オメェは自分では何も出来ない無能なガキみたいだから、俺がお前の頼れる大人になってやろうって思ってよ」
「はあ!? なんでお前が! 余計なお世話だ!!」
「自分で自分の世話ができねえから、余計なお世話をする大人が必要なんだよ。オメェ一人じゃこのスラム街で生きていけねぇだろ」
「黙れ! お前の世話になんかなるつもりはない!!」
「よく言うぜ。さっきまで空腹で死にかけていたクソガキが」
「うるさい!!」
少年はドアから部屋を飛び出し、宿屋から再び夜の街へと身を繰り出した。
降りしきる雨は、先ほどよりも強くなっているような気がした。
路地裏の暗闇は、先ほどよりも深くなっているような気がした。
そのことに若干の恐怖を感じつつも、少年は男に捕らえられた店の前まで走り続ける。
そこに食べ物があることはわかっていたから、行く先に迷いはなかった。
店の前にたどり着くと、少年はまた地面に目を向け、石を拾う。
そして、少年はあの男に止められる直前の行動を繰り返した−−−
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