スラム街にて
佐乃原誠
第1話
真夜中の路地裏。
降りしきる雨。
周囲に蔓延する悪臭。
そんなところで、少年は座り込んでいた、
正常な状態であれば気にもとめない小さな事が、必要以上に神経に触る。意味のわからない、行き場のない怒りを沸きたてる。
ここが何処だかはわからない。
知らぬ間に始まっていた争いがやがて大きくなり、気づけば故郷が巻き込まれていた。
両親も親友とも離れ離れになり、自分は必死になってその場から落ち延びた。
ただひたすらに逃げて、追われて、闘って、隠れて、ここに辿り着いた。
辿り着くまでも過酷の道のりだったが、たどり着いてからは地獄の始まりだった。
金はなく、あてもない。場所もわからず、往く先もない。
ただひたすらに、今を生きるのに必死だった。
助けなんて来ない。生きるためには、手段なんて選んでいられない。劣悪な環境下で生きて往くのであれば、ルールや法律なんて関係ない。
それが少年が生きていく上で学んだ処世術だった。
空腹が限界に近づいていた。金なんかないから、奪うしかない。
少年は鉛のように重い身体に鞭を打ち、立ち上がる。
身体中の関節からペキパキと音がなる。その中に若干の痛みを感じる。
周囲を見渡し、あたりを捜索する。
目的の物はすぐに見つかった。街灯に照らされた窓ガラスの先に、食べ物が陳列されている棚を見つける。
−−−あれだ。あの窓を割れば、食べ物にありつける。
青年は無防備に窓ガラスに近づく。
試しに窓を強く叩くが、とても割れそうな気配はしない。
何か、窓を壊せそうな物はないか−−−
地面を見渡すと、石が数個、そこらに転がっている。
これだ、これを使おう−−−
少年は石を一つ手に取り、強く握り締める。
そして大きく振りかぶり、持っていた石を窓ガラスに向け投げつけた。
バチィイン! と高い音が鳴り響く。
投げた先を見てみると窓ガラスには亀裂が入り、あと数回同じことをすれば突き破ることが可能のように感じた。
少年はその結果に小さく笑い、再び地面に転がっていた石を一つ拾う。
そして、先ほどと同じくその石を窓ガラスに向けて投げようと振りかぶった時だった。
「!?」
後ろから、突然に何者かに腕を掴まれる。
即座に後ろを振り向くと、そこにいたのは−−−
「よお。人んちの窓は割っちゃいけませんって、お母さんから教わらなかったのか?」
−−−傘をさし、黒い衣服を身に纏った、不思議な雰囲気の男だった。
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