第3話

「えっ?」

「本当に守ってくれるなら、我はお主を信じよう」


メイリーンは真っ直ぐに見つめてくる。


紅玉のような瞳を向けられ、レイモンドの鼓動が激しくなった。


(――――なんだよこれ……。どうしてこんな気持ちになるんだ?)


 今まで感じたことの無い感情に戸惑う。


それはとても温かくて心地の良いものだった。


「なんてなぁ~」


悪戯っぽく微笑んでくる。


それを見た瞬間、彼の中にあった温かいものが消えていった。


「お主に守れらるほど、我は落ちぶれていないぞぉ~」

「……あぁ、そうだな」


 レイモンドは酒を一気に飲み干す。


メイリーンも新しい酒を飲んでいた。


それから二人は飲み続け、夜遅くまで語り合うのであった。


酒場の客が次々に帰っていく中で、メイリーンは机の上で突っ伏していた。


「ぐへぇ……もう飲めぬ……」


完全に酔っぱらい状態になっていた。


「ほら、帰るぞ」

「嫌だぁ~! まだ飲みたいのじゃ~!!」


 駄々っ子のようにジタバタ暴れる。


それをレイモンドはため息をつきながら、彼女を背負って店を出た。


外は既に暗くなっていた。


冷たい風が吹く。背中にいるメイリーンが叫ぶ。


「ハイ・ヨー・シルバー!」

「誰が馬だ……」


通りすがりの村人たちもクスクスと笑っていた。


恥ずかしくなって足早に進む。


 


♦♦♦♦♦




それからレイモンドとメイリーンは村の宿屋に行き、一泊することにした。


 目に入った宿屋に入り、扉をくぐる。


 カウンターに座っていた店主が顔を覗かせて来るとすぐに親しみのある笑みを浮かべた。


「おぉ~あんちゃんたちか。どうやらメイリーンちゃんに会えたようだね」


 今朝あった老婆だった。相変わらずの人の良さそうな笑顔で話しかけてくる。


 そんな老婆を見て、メイリーンも微笑んだ。


 レイモンドはカウンターへ近づき、早速話を切り出す。


「一泊したいんですけど、部屋空いてます?」

「あぁ空いているよ。たくさん。あんまりこの村には旅人はこないからねぇ」


 そう言いながら鍵を取り出して渡してくる。


 それを受け取り、一泊分の宿代を支払った。もちろん、メイリーンの分もだ。


 酔っぱらっているメイリーンにレイモンドは肩を貸し、二階の部屋まで連れていく。


「おっとまり~おっとまり~楽しいなぁ~」


 ふわふわした口調で歌を歌いながら歩いていく。


 その様子に苦笑いしながらも、レイモンドはしっかりと支えていた。


 そして部屋の前まで着くと、メイリーンは腕を振り払ってドアノブに手をかける。


 部屋の中は質素な造りをしていた。ベッドが二つ並び、窓際には椅子と机が置かれている。


「ヒャッハー!!!」


 メイリーンはベッドへ向かって、顔からダイブする。足をばたつかせながら枕に顔を埋めて、大声を上げた。


 そんな彼女を見ながら、レイモンドは荷物を置いて、呆れたようにため息をつく。


 それからベッドに腰を下ろしたところで、突然、メイリーンが飛びついてきた。


「うわぁっ?!!」


 メイリーンは戸惑うレイモンドにお構いなしに顔を胸当たりに埋めて、スリスリと頬ずりしてきた。


「ん~♪ お主はいい匂いがするなぁ~」

「ちょっ、やめろって!」


 引き剥がそうとするも、力が強くて離れることができない。


 しばらくされるがままになっていると、急に静かになった。


 不思議に思って見てみると、メイリーンは寝息を立てながら寝てしまっていた。


「なんだったんだ……?」


 呆れながらも、起こさないようにゆっくりと離して、ベッドへ横にさせ、布団を被せる。


「がぁああああ~~~ごぉおおおお~~~がぁあああ~~~~」


 とてつもないいびきに思わず耳を抑えたくなるほどだった。


 一生独身のままだろうな、と思わせるほど酷いものだった。


(―――まぁ、それはそれで個性というものなのだろうけど)


 そんなことを思いながらレイモンドは革靴を脱ぎ、ベッドへと横になった。窓から入ってくる夜風に当たりながら、ぼんやりと月を見つめる。


 今日は満月。雲一つない夜空はとても綺麗だった。


 月明かりに照らされたメイリーンの横顔を見つめる。


 彼女はとても幸せそうに眠っていた。


 その表情を見ると、こちらまで幸せな気分になる。


「――おやすみ」


 レイモンドはそう言って瞼を閉じるのであった。




 ♦♦♦♦♦




 翌日の朝。窓から太陽の光りが射し込んで、小鳥の鳴き声が聞こえる。


 その声に起こされたレイモンドは上半身を起こし、欠伸しながら背伸びした。


 頭がまだボーっとしている中で、視線は隣で寝ているメイリーンへと向けられる。


 彼女はまだスヤスヤと気持ちよさそうに眠っていた。


(…………昨日は凄かったな。イビキ……)


 すらっとした足がベッドから投げ出され、ズボンは床に脱ぎ捨てられていた。上着のボタンも外れ、豊満な胸元が見え隠れしていた。


「いつの間に脱いだんだズボン……」


 思わずそんなことを呟きながら、無意識に見つめているとメイリーンが寝返りを打つ。


 その時、彼女の身体が動いた拍子に下着姿のメイリーンの白い太股や尻肉まで露わになる。


 レイモンドは一瞬目を疑ったが、直ぐに視線を逸らした。


「お、おい! 起きろ!!」


 そして慌てて大声で呼びかける。


 しかし、全く起きる気配がない。


 仕方なく彼は布団を手に取り、彼女の肩にかけようとした瞬間、また寝返りを打ち、今度は仰向けになった。


 今動いたら起きそうだったので、そのままジッとすることにした。


 しかし、メイリーンはこのタイミングで、目を覚ました。瞼を擦って起き上がり、辺りを見回す。


 すると目の前には顔を真っ赤にして固まっているレイモンドがいた。


 メイリーンは彼の様子に気づき、小首を傾げる。


「お主、何をしているんだ?」

「ひぃいい?!!!!」


 動揺して言葉が出なかった。ただでさえ女性経験のない彼にとってこの状況は刺激的すぎる。


 そんな彼の態度を見てメイリーンは察する。


「あ~なるほど」


 すると彼女はクスリと笑い、そっぽを向いていたレイモンドの顔に手を伸ばして自分の方へ向かせた。


「これがええんか。これが」


 ブラジャーから見える艶のある谷間を見せつけるように、わざとらしく胸を張る。


 それを見た途端、レイモンドは更に顔を赤く染めた。


 その反応を見て、メイリーンは腹を抱えて笑う。


「この童貞め。女の肌を見て、恥ずかしがるとはな!」


 楽しげに言う彼女に、レイモンドは何も言い返せなかった。


 そしてメイリーンは悪戯っぽく笑みを浮かべる。


「いいから早く服を着てくれ。頼むから……」


 消え入りそうな声で言った。


 するとメイリーンははいはい、と言いながらズボンを履き、上着のボタンを留め直す。


 そして、ブーツを履いて、紐を結んだあと両目を瞑った状態のレイモンドに声をかけた。


「もういいぞー」


 そう言われ、恐る恐る目を開けると、いつもの格好をしたメイリーンが笑みを浮かべながら立っていた。


「さてさて我が友よ。朝食を取ったのち、我が家へと帰るとしようか」


 その提案にレイモンドは同意するように頷いた。


「へいへい。じゃあ、帰りますか」


 そう言って、二人は部屋から出て行った。


 宿から出た後、メイリーンはふと思い出したように口を開く。


 その表情はとても真剣なもので、何か重要な話があると察したレイモンドは黙って耳を傾けることにした。


 だが、彼女が発した一言を聞いて驚愕してしまう。


「そういえば、冒険者ギルドからゴブリン退治の依頼を受けておらなかったっけ?」

 その問いに彼は頭を抱えてしまう。


「……俺、言わなかったか? お前を捜しに行くためにキャンセルしたのを……キャンセル料も払ったって……」


 そう答えると、メイリーンは「おぉ! そうだった!」と手をさらにして、拳をポンッと叩く。


「では、もう一度、依頼を受けようではないか。我が友よ」

「もう、いい加減にしてください……」


 呆れ果てた声で言うと、彼女は不満げに頬を膨らませるのであった――――完

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自由気ままな魔女 飯塚ヒロアキ @iiduka21

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