第六話 二人だけのお昼ご飯


「「いただきます!」」


 僕たちは狭い机の上でなんとか二つの弁当を広げた。弁当の中には唐揚げや玉子焼き、少しのお浸しなどの野菜が入っていた。どれも僕の好物だった。一つ、トマトを除いて。取り敢えず最初に唐揚げを一つ摘み、口に放る。


「お!めっちゃ美味い!」


僕が感想を述べると、彼女はその言葉を確かめるようにおずおずと聞いてくる。


「ほ、本当ですか?」

「お、おう。本当に美味しいぞ」


そんないつもの彼女とは違う様子に僕は少し戸惑いながら返答をする。


「良かったー…」


彼女は心底安心したように息をつく。

 僕はどんどん弁当を食べ進めていき、最後に僕が苦手なトマトだけが弁当箱に残った。僕が食べるのを躊躇していると、もう食べ終わったであろう彼女が箸でトマトを掴む。


「先輩、トマトさんには栄養が沢山入っているので食べましょ?いっぱい食べないと大きくなれませんよ~」

「いや、そうは言っても…。食感が好きになれないんだよな」

「むぅ…美味しいのに…。じゃあ分かりました。私が一つ食べるので先輩が残りのもう一つを食べませんか?」


 そう言って彼女は一つトマトを口の中に放り込む。その後、最後に残ったトマトを箸でとるとこちらに近づけて来る。


「はい、先輩。あーん」

「ん…あーん」


 そのまま僕の口に放り込む。僕は何とか咀嚼し、飲み込むと直ぐに傍に置いてあった飲み物を呷った。


「よく苦手なもの食べられましたね。偉いです、先輩!」


 彼女は僕の頭を撫でる。僕は照れて、そんな彼女の顔を見れなくて目を逸らしてしまう。


「あ…先輩すいません。なんかつい撫でてしまいました…」


 彼女も照れている僕を見て我に返ったのか顔を赤く染めて、慌てて手を引っ込めた。


「い、いや。大丈夫だ。弁当ありがとう、美味しかった。ごちそうさま」

「お、お粗末様です」


 僕たちは食べ終わった後は先ほどの照れからか、二人してたどたどしく話したり、黙りこくったりしていた。


「じゃ、じゃあ先輩!私、次の授業体育なのでもう戻りますね!」

「お、おう。怪我しないようにな」

「はい!ではまた放課後に!」


 彼女はそう言ってパタパタと教室を出ていった。あ、あいつ弁当を忘れてる。まぁ一緒に帰る時に渡せばいいか。

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僕とバブみが強い後輩 ウパ戌 @wopainu

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