ゆらゆくままに

藤和羽流

第1話  初日

 「きっ……、きつすぎるっ……。この学校……、こんな広いのっ……? これっ……、毎日してたら……、倒れちゃうよっ……。」

 私は沢田陽日。今年から華のJKだ。

 今、私が歩いているのは森の中。ここがもう校内ということに衝撃を受ける。

 私が受験した高校は農業高校。世界一の広さの高校とも噂されている。

 校内の広さはなんと! 東京ドーム十個分!

 というキャッチコピーがあったが、あんまりピンと来ていない。


 あ、変なことを考えてる暇はなかった。

 すべての人が経験しているであろう、初日のクラスである自分の自己紹介を考えなければ……。

 「なんて言おうか……。ここで失敗したら、後々面倒だよね……。ってあれ? 倒れてる?」 

 人が倒れていた。私と同じ、長いスカートの制服だ。短く肩辺りまで切り揃えられている髪が、ボサボサになっている。いや、どういう状況?

 「あのー、大丈夫ですか……?」

 「……」

 「あのぉ……だいじょ…「はっ!?」

 「えっ!?」

 「あっ……、すっ、すみませんっ……! 朝早く準備してたら……、なんかこうなっちゃいました……。起こしてくださりありがとうございます! それでは!」

 「……えっ!? ちょっとまってよ!」

 私の言葉に聞く耳を持たず、彼女は去っていった。まさしく嵐のような人だ。 

……あっ、なにも自己紹介考えてない……。あの子のインパクト強すぎでしょ……。学校初日の朝から疲れる……。

 私もゆっくりしている暇はない。新品のカバンを肩に担ぎ、全力で坂を駆け上がった。


 はぁっ……、はぁっ……。

 やっとついたっ……。 

 日頃、運動をしていなかった罰が付いたかな……。こりゃぁ……、自己紹介どころじゃない……。

 肩で息をしながら階段を上り、二階にある農業科の教室に入った。

 「えっとぉー……、私の席は……」

 黒板で自分の席を確認しつつ探していると、そこにはボサボサ頭が居た。え……、さっきの子? あれー、デジャヴかな?

 「ねぇ……、ここ、あなたの席じゃないよ。あなたは隣」

 「……んん、あっ! すみません! すぐ退きます!」

 「気にしないで。そんなことよりさ、名前は?」

 「私ですか? 私は春風菜々って言います! 春満載の名前ですが、そんなに明るくはないです!」

 「充分明るいと思うけど……、まぁよろしくね! 私は沢田陽日って言うの。はるちゃんでいいよ!」

 「はるちゃんさん……! よろしくお願いします! はるちゃんさん!」

 「いやだから……、はるちゃんでいいって……」

 「えへへ……、なんかこういうの楽しいですねぇ……。はるちゃんさん!」

 「そっ……、そうだねっ! よろしく!」 

 「はい! はるちゃんさん!」

 元気だけは申し分ないけど……、なんというか……、面白い子だなぁ。

 私は春の風に包まれながら、ほんの少しの幸福感に浸っていたのだった。


 ……あっ、自己紹介考えてないっ……。

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