第9話
JR京都駅。
東海道新幹線十二番ホーム。
午前十一時二十分発の東京行きののぞみに乗り込もうとしていたのは、郷田貞之助だった。ひとりである。
一旦、東京に出て、そこから秋田新幹線のこまちに乗り換え、秋田に帰るようだ。初め、京都から北陸に出て、日本海側を北上するつもりだったが、変更した。
郷田貞之助は京都駅でのぞみに乗る前、新幹線のホームで何かを探しているような素振りを仕切にしていた。
「いない・・・やはり・・・」
貞之助はふぅと息を吐き、呟いた。
(あの子は・・・あれが京都の女なのか・・・きっとそうなのだろう。俺は遠い北の国の男だ。そんな女にあこがれを持っていたのか・・・心の内に・・・)
京の女は、そんな女なのか!一旦、気持ちが離れれば、終わりなのである。冷たく・・・つやは、
「京都に残る」
と、いった。
つやは、もはや、貞之助に何の未練もない。
貞之助は一人、京都駅から東北へ帰る。
「あれは・・・何処かで・・・?」
だが、彼にははっきりと覚えがなかった。その様子を見定めるように、警視庁の小原正治警視正も、おなじのぞみに乗り込んだ。
だが、小原は、その男が誰なのか・・・知らない。菓子博覧会で見かけたことがあったかもしれないが、彼が気にするような存在ではなかった。
小原の手には、緑色の宝石が握られていた。本物のサファイアである。
(東京に帰って、もう一度あの当時の資料を当たって見る・・・)
必要があった。
四つの宝石を盗んだ二人組は捕まえた。だが、二人とも四つの宝石は持っていなかったのだ。当時学校は夏休みに入っていて、銀座の人出は多かった。そんな中で紀宝堂という宝石店の不注意で、四つの宝石は盗まれてしまった。
二人はその人ごみの中を逃げた。途中から二手に別れ、逃げた。だが、結局、二人とも捕まった。別々に取り調べたが、宝石は持っていなかった。
「何処へ、やった?」
二人とも、黙秘した。どちらかが宝石を持って逃げたのには違いないが、結局宝石は見つからなかった。
(奴の狙いは・・・これか!)
奴とは、九鬼龍作のことである。
「だが・・・」
四個のチョコレートの内、三個がなかった。
「あいつ・・・まさか、残りの三個の宝石を持っていったのか!」
だとすると・・・。
小原正治警視正は急に苛立って来た。
「あいつ・・・あの会場にいたのか・・・」
東海道新幹線の京都の十二番ホームを、
「さぁ・・・」
と、心地よい秋風か一瞬通り抜けて行った。
さて、
ここからは、想像でしかないのだが、少年は一人か、それとも何人かと夏休みを利用し、秋田から東京に遊びに来ていた。どうせ親の許可はもらっていなかったに違いない。もちろん、東京ディズニーランドにも行っただろうし、渋谷にも行ったし、銀座にも行った。銀座の想像よりもあっさりとした光景に、この秋田の少年はガッカリもしたかも知れない。それでも人が多いのにはびっくりだったのに違いない。
その時、一人の男がもの凄い顔をして、人を掻き分けて走って来た。
少年は半ば驚き立ち止まった。
男と少年は一瞬眼が合い、男は少年のバッグかポケットに何かを突っ込んだ・・・ようだ。
彼は、それに気付き、手を当てたがバッグの中を見た。また、ポケットを探った。
何かが入っていた。
その後、すぐに後を追い掛けて来た二三人が、少年の横を通り過ぎて行った。
とにかく、郷田貞之助の手元に四個の宝石があったことになる。多分、おそらく郷田少年は秋田に帰り、ニュースか何かで宝石が盗まれたことを知っただろう。郷田少年は迷ったに違いない。
「どうしたら・・・」
その悩みのまま、時間が十数年過ぎて行った可能性がある。
まあ、これらは想像だが・・・どうだろう?推理ではない。余りにも物的証拠が少ない。だから、理論的に物事を組み立てられないのである。
小原正治警視正は、どう見るのだろう。
ただ、ここに一つの手掛かりを、小原正治警視正は得たことになる。盗まれた宝石の一つが、菓子博覧会の場で見つかったということだ。
了
九鬼龍作の冒険 四個のチョコレートの行方! 青 劉一郎 (あい ころいちろう) @colog
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