第一章 転校先の、隣の席

「隣村から転校してきました、園村 咲そのむら さきです」


 平凡な自己紹介。そんな事、私が一番分かっていた。でもこれくらいで丁度いい。

 転校生だからといって、特別扱いされたくもなかった。


「園村の席は・・・」


 先生が教室を見回す。教室自体は前の学校とあまり変わっていない。どこの学校も大体同じような建物みたいだ。


「先生、一番後ろは?」


 最前列の一番端に座る、スカートの短い女の子が言った。髪も染めているみたいだ。ここの校則、髪を染めるのはダメじゃなかったっけ?

 でも、正直・・・少しだけ憧れてしまう。

 それに比べてわたしは・・・。流行りになんて興味ないし、こんなに目立つようなことはできない。


 ――『こんなんだから、彼氏できないんだよ』


 転校前、唯一の友達に言われた言葉を思い出した。

 ちなみに今は、その子とは音信不通だ。


「じゃあ、園村は一番後ろな」


 先生の声で我に帰る。

 はい、と軽く返事をして席に向かう。なぜか途中、クラスの人たちにクスクスと笑われた。


 ——私、何かしたかな?

 転校早々、なんだか嫌な気分だ。

 

「よろしくね、園村さん」


 隣から聞き覚えのある声。ぱっと隣を見ると、目が合った。

 どこからか吹く風になびく、黒髪。

 透き通った不思議な目をする彼は・・・間違いなく、この前の男の子だ。


「あの・・・この前、助けてくれた・・・?」


 掠れそうな声で聞いた途端、彼は立ち上がった。

 椅子が地面と擦れる音がして、クラスの何人かが振り向く。


「俺のこと見えるの?」

「え?」


 聞き返した次の瞬間、気づくと彼に抱きしめられていた。加減がわからない様でちょっと苦しい。


「・・・会えて、良かった」


 抱きしめられている状況に対応できなくて、意味を聞く余裕もない。というかここ、教室だよ!?


「苦しいから、その・・・」

「あ、ごめん」


 やっとのことで手を離してもらい、彼と向き合う。


「これからよろしくお願いします」


 そういうと彼はクスッと笑った。


「そんな硬くなくていーよ」


 転校なんてした事無かったし、そもそも男子とこんな風に向き合ったこともない。距離感がすぐに掴めるはずもなかった。

 でもまあ、まだ新生活は始まったばかりだ。


「これから・・・どうにかします」


 そういうとまた、彼はふわっと笑う。


「うん」


 ――春。

 新生活が、始まる。

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片恋インスピレーション 小川琴葉 @kotoha-ogawa_22

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