第47話 ヴァルキュリア家

「またどこの馬の骨とも分からない少年を誘拐してきたのか!これで何度目だ!」


「た、確かに似たようなことは何回もやってきたかもしれませんが今回は違うのです!」


「何が違うというのだ!」


「あの少年が可愛すぎたのです!!」


「ッッ!!……はあ。お前に期待していた儂が阿保だった。とにかく二度とこんなことするんじゃない!家紋にこれ以上泥を塗るでない!!」


「しかしそうでもしないと妹が!!」


「それは冒険者ギルドの方に頼んだであろう。大人しく吉報を待つしかあるまい」


「もちろんギルドにも行ってまいりましたが、該当するような子どもは……」



「…………。」



 レイスはあまりの喧騒で目を覚ました。彼が目を開けるとシャンデリアが飾られた豪華な天井画まず目に入り、その次にやかましい口喧嘩が聞こえてくる。周囲がどうなっているかをぐるりと見まわしてみると、まず自分がふかふかな高級なソファに寝かされていた。そしてその目の前で鎧を着た大男と先ほど道でたまたま会った金髪の少女が言い争いをしている様子が見られた。


どうやらここは貴族が住むような豪華な屋敷の中で、レイスを傍に寝かせたまま男と女が口げんかしているのだとレイスは理解できた。


「あのー、すいません。ここはどこでしょうか」


 とりあえず情報を得るために彼らに話しかけてみることにしたレイス。


「やっと起きたのね!それじゃあ私はリアを呼んでくるわ!」


「こら待ちなさい!……はあ。ったく、どうしてこんなに奔放に育ってしまったのか。」


 エイルが勢いよく部屋を飛び出し、その様子を見ていた鎧を着た大男がその様子を見てため息をつく。


「すまない少年。いきなり誘拐されて不安だと思うが、儂らはれっきとした貴族でお主に害を加えようとしているわけではない。とりあえず夜までには家に帰すことを約束するゆえ、ここはどうか大人しくしていてくれるだろうか」


「分かりました!代わりと言ってはなんですが、今非常にお腹が空いていまして。何か食べるものをもらえませんか?」


「おお、よくできた少年だ。だが食べ物に関してはもう少し待ってもらいたい。おそらくそろそろ……」



―――バンッ



 大きな音を立てて部屋の扉が開けられる。扉の前にいたのは先ほど急いで出ていったエイルだった。


「早速腕試しよ!訓練所まで来てちょうだい!」


「……はあ。というわけで訓練所で少しばかり手合わせしてもらいたいのだが、よろしいだろうか?」


 レイスは目の前に立つ大男に恐怖していた。この御仁が丁重にもてなそうとしてくれているのはわかるのだが、いかんせんその死線をいくつも超えてきましたといわんばかりの威圧感は隠しきれておらず、ここから逃げ出そうとしたら殺されてしまうのではないかという恐怖を与えられ続けていたのだ。すごく心臓に悪い。ゆえにレイスに断るという手段は選べなかった。


「わ、分かりました!」


「すまぬな。では付いてきてくれ」


 レイスがそう言うと大男が立ち上がり部屋を出ていこうとする。レイスはそんな彼の立ち姿にさらに恐怖を覚えたが、ここで一人になってもいいことはないと冷静に考えて彼の後を追うことにした。




***

大男の後についていって案内された場所はまさに訓練所と言える場所だった。家の中にも関わらず地面には砂が敷かれており、広さも十分に取られており、冒険者ギルドの訓練所と大差ないほどの場所であった。


そんな場所の真ん中にポツンと一人佇む少女。年はレイスと同じくらい。金髪碧眼で顔立ちは非常にエイルに似ている少女。おそらく先ほど言っていた妹とはこの子のことだろうとレイスは当たりを付けていた。そして、これから彼女と戦うことになるだろうということも。


「起きて早々困惑しておると思うが、あそこにいる彼女ヴィクトリアと模擬戦をしてほしいのだ。もちろんただでとは言わない。勝ったらなんでも一つ言うことを聞くし、負けても戦ってくれた褒美としていくらかのお金を手渡そう。どうであろう。一度模擬戦をしてみてくれんか?」


「いいですよ」


 レイスは即答した。そもそも断るという選択肢がないというのもそうだが、なにより同い年くらいのあの少女の強さが気になったのだ。化け物のような大男の家の訓練所を我が物顔で使っている少女。師弟が親子かは分からないが、おそらくこの大男に手塩に育てられてきたのだろう。それなら今の自分がどの程度のレベルなのか図るのにちょうどいい。そのように考えていたのだ。


「そ、そうか!良かった!それではこの木剣を持って彼女と10mの距離を空けて立つといい。開始の合図はエイルがしてくれるはずだ」


「すいません。木剣じゃなくて、槍のようなものはありますか?」


「ん?もちろんあるぞ。ほれ、これなら問題ないかな?」


 大男は壁に立てかけられていた木製の武器の中からレイスの身長でも扱えそうな短槍をレイスに渡す。


「ありがとうございます!それでは行ってきます」


 レイスが大男から槍を受け取り訓練所の真ん中まで行く。そこにはすでに相手役である少女と審判役であるエイルが待っていた。ただその様子は真反対で、エイルがうきうきな感じで立っているのに対し、相手役である少女は気だるそうに木剣を持って佇んでいた。


「良く来ましたねレイス君!君の実力を存分に見せてね!それからリア!あなたもレイス君をなめてかからず本気でやるのよ!」


「分かったわよ。……ねえ、あなた。瞬殺してあげるから覚悟してなさい」


 そっけない感じでレイスに言葉をかけてくるリアと呼ばれた少女。レイスはこんなにも姉に似て美少女なら愛想よくしておいたほうが良いのになんて無益なことを考えながら、こっそりと周囲に極小の魔力玉をばら撒く。


「では、よ~い、始め!!」


 こうしてレイスは全く現状を把握することができないまま、リアと呼ばれる少女と模擬戦をすることになった。



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Sealed King~戦闘好きの冒険譚~ KoP @Maruha-08

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