レアステーキよりも赤かった
ライブ当日、広場の前にはたくさんの人が集まっていた。
でも三時間も前に来たおかげで、最前列を確保できたよ。
「まさか
「何よ、悪い?」
じろりと睨むと、茜は吹き出した。
「むしろ共通の話題ができて嬉しいよ。そんな怖い顔しないの。せっかく可愛くしてきたのに台無しだよ?」
改めて自分の格好を見ると、急に恥ずかしくなった。
茜にお願いして借りた水玉のワンピースは、私が着るとミニ丈だ。制服より短いスカートなんて初めてだったけど、長い足を見せた方がいいという親友の言葉を信じた。髪も茜がアイロンで外ハネにしてくれて、メイクも教わりながら頑張った。
今日の私は、自分史上最高に可愛い女の子。こんな私を見れば、
けれど、そんなお節介は不要だったようだ。
空木くんは本当にすごかった。リハ以上にカッコ良かった。全身から放つ輝きは名前の通り、まさに
けど最後に披露する新曲の大技になると、私は息を飲んで祈った。
頑張れ、頑張れ、頑張れ!
祈りが通じ、空木くんは今度こそ華麗に飛んだ。でも着地は失敗。
「ダッセー!」
転んだ彼に向けて心無い野次が飛ぶ。その声に、あの男子の言葉が重なった。
似合わない、ダサい……そんなの関係ない。もう他人の言葉に惑わされたりしない!
「カイくん、カッコイイ! 転んでもカッコイイよ! カイくん最高!」
思わず、私は叫んでいた。釣られて周りからも、カイくん最高コールが巻き起こる。
幸い怪我はなかったようで、カイくん――空木くんは起き上がり、私に笑顔を向けた。
「ありがとう! 君こそ最高に可愛いよ!」
その言葉に――私の脳は歓喜で溶けて爆散した、気がした。
その日の夜、私は昨夜の公園に向かった。
「昨日はごめん。八つ当たりでひどいこと言った」
先に来ていた空木くんは、私の顔を見るや頭を下げた。
「それと、ありがとう。
何だか照れ臭くて、私は笑って受け流した。
「それと今日の東さん、その、すごく可愛かった。これも伝えたくて」
ライブと違って不器用な言い方。
でもそこが空木くんらしくて、すごく嬉しいと思った。ライブの時よりもっとずっと嬉しい。
「あのさ、誤解しないでね。僕は東さんを男みたいだなんて思ったことないから。カッコイイっていうのは人として憧れるみたいな意味で……でも、憧れ、だけでもなくて」
空木くんの声が小さくなる。が、次の瞬間、彼は真っ赤になった顔で大声を張り上げた。
「東さん、次のライブにも来てくれないかな! もう一度代役をやることになったから! その時にあの大技が成功したら、東さんに伝えたいことがあるんだ!」
「は、はい!」
そう答えた私の顔も、空木くんと同じくらい真っ赤だったと思う。
秘密の推しから生まれた、今はまだ秘密の恋。
でも秘密じゃなくなる日は、近い――かもしれない。
了
アイドル・コンプレックス 節トキ @10ki-33o
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