胸がギューッとして痛い
本日は、明日日曜の本番に向けての通しリハーサル。会場は結成ライブをした商店街広場、だけどリハはスタジオで行うそうだ。
私も見学に参加させてもらった。
しかも何と、御本尊様のカイくんも病院からいらしてたの!
車椅子だったけれど元気そうで安心したわ。ああ、カイくんのお隣に並ばせていただけるなんて何たる僥倖!
しかしリハが始まると、私は側に本物のカイくんがいることも忘れてステージに見入った。
最初に見たレッスンとは全然違って、
「
カイくんがそっと言う。
「でもあいつ、皆に気を遣って後ろに引っ込んでばかりだった。だから殻を破るきっかけになればと思って、俺が代役に推したんだ。俺の目に狂いはなかった、そう思わない?」
微笑んだカイくんに、私も笑顔で頷いた。
きっとライブはうまくいく、そう確信した。なのに。
「昴、どうした?」
「大丈夫、今度こそ成功するよ」
ミスくんとサガくんが、向かい合って腕を組んだ状態で不意に静止した空木くんに声をかける。けれど彼は首を横に振った。
「……無理です、できません」
そのまま飛び出して行った空木くんを追い、私も慌てて走った。
空木くんはスタジオの裏手で、建物の壁にもたれて項垂れていた。
「あの技、
私が声をかけるより先に、彼は理由を話してくれた。聞けば二人が組んだ腕に飛び乗り、宙返りするという大技らしい。
「輝にできなかったことが、僕にできるわけがない。僕なんか」
「そんなことない!」
私は彼の両肩を掴んで、真正面から告げた。
「空木くんならできるよ。この短期間であんなに成長したんだもん。昴はできる奴だって、輝くんも言ってた。だから」
「
手を振り解き、空木くんは私を睨んだ。
「僕の無理だできないって言葉はスルーしたくせに! 僕はカイじゃない! 輝にはなれない! もううんざりだ!」
怒りを顕にする空木くんに、私は気圧されて声を失った。
「いっそ東さんが代わりをやればいい! 僕より体力もあるし、僕なんかよりずっとカッコイイんだから!」
カッコイイ。その言葉が胸に刺さる。
痛くて痛くて、涙が零れた。
私の涙に気付き、空木くんが言葉を止める。再びその口が開く前に、私は逃げ出した。
わかってた。
私なんか、女の子として見てもらえるわけないって。
それでも、空木くんにだけはカッコイイなんて言われたくなかった。
胸が痛くて苦しい。すごく、悲しい。
家に帰って部屋にこもっていたら、スマホにラインの通知が来た。空木くん、じゃなく
『明日ビーフィートのライブ行かない?』
メッセージを見て、また心が沈む。私なんかが行ったって……。
そこではっとした。
私も自分なんかって思ってた。空木くんと同じで、無理だできないって諦めてた。
私も変わらなきゃ。余裕も自信もないけど、空木くんに伝えるにはこれしかない!
思うが早いか、私は茜に電話をかけた。
「茜、お願いがあるの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます