COWは良い……じゃなくて可愛い!?

「あ、あずまさん、少し休憩を……」

「甘えるな! オラ走れ!」

「も、ダメ……」

「笑顔を忘れてる! 罰としてもう一キロ追加!」

「えええ……」



 隣を走る空木うつぎくんは、もうへろへろだ。

 陸上部で鍛えた私の足についてくるのは相当キツいだろう。だけどこれも彼が自信をつけるための一歩、頑張ってもらうしかない。


 何事もまずは体力。

 空木くんは、歌もダンスもついていくだけで精一杯という感じだった。でも体力をつければ余裕ができる。余裕は自信の基盤、余裕から自信が生まれれば彼もカイくんみたいに楽しんでライブができるかも……と私は考えた。


 そこで空木くんのレッスン終了後、私がコーチとなって体力増強トレーニングをすることにしたのである!



「東さん、聞いてもいい?」



 本日も特訓を終えて公園で一休みしていると、空木くんはそっと尋ねてきた。



「どうしてビーフィートのファンのこと、秘密にしてるの?」


「……似合わないから」



 絞り出すように私は答えた。



「商店街の広場でやってたビーフィート結成初ライブに、偶然居合わせたんだ。それで見とれてたら、一緒にいた仲良しの男子に言われたの」



『男みたいな顔してアイドルが好きとか、似合わねー!』



「私、その子のこと好きだったんだ。だから、すごくショックだった。私は男としか見られてないんだ、恋愛対象外なんだって」


「僕は違うと思う」



 当時のことを思い出して泣きそうになっていたら、空木くんの静かな声が耳を打った。



「その男子も、東さんのこと好きだったんじゃないかな。だから東さんが他の奴に目を奪われてるのが悔しくて、つい悪態をついちゃったんだよ」



 薄っすらと涙で滲んだ視界に、空木くんが映る。



「東さんこそ、自信を持つべきだよ。こんなに可愛いのに」


「か、可愛い? 私が?」


「うん。厳しいけど優しいし、すごく可愛いって思ってた……って僕、何言ってるんだろうね!? 今日はもう帰ろう!」



 慌ただしく去っていく空木くんの後ろ姿を、私は呆然と見送った。


 可愛い……私が?


 胸がドキドキする。カイくんに言われたようで嬉しかったから?

 でも私、空木くんをカイくんとして見たことなんかない。眼鏡をかけてるとか雰囲気が違うとかじゃなくて――ヘタレだけど頑張り屋で、泣き言は漏らしても諦めることはしなくて。

 空木くんのいいところを少しずつ知って、学校でも気付けば目で追っていたことに今更気付く。


 どうしよう、ますますドキドキが止まらない!

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