ミスジとサガリも美味なり

 放課後、私は空木うつぎくんとまた校舎裏で落ち合い、事情を聞いた。



 カイくん――本名、空木ひかるくんはダンスの大技の練習中に足を骨折して入院中だという。

 しかし、結成三年の記念ライブが迫っている。そこで双子の弟のすばるくん、つまり空木くんに代役の話が回ってきたんだそうな。


 でも。



「僕に輝の代わりなんて無理にも程があるよ」



 自嘲的に笑う空木くんに、私は確かにと密かに頷いた。顔と声は瓜二つでも、空木くんとカイくんは全く雰囲気が違う。

 輝くんはいつもキラキラした陽のエネルギーに満ちていた。対して空木くんはどよよんと負のオーラを放っているもの。



「でもやるしかなくて……ねえ、あずまさんはビーフィートの、カイのファンなんだよね?」


「なな何故バレたし!?」


「だって一目で僕のことカイだって見抜いたし」



 焦り狂う私に、空木くんはさらっと答えた。



「今日もレッスンなんだ。良かったらアドバイスくれない?」


「ええ!?」



 さらに驚きの提案をされ、私は再び声を上げた。



「ファン目線で指摘をもらえたら、少しはマシになるかもしれない。東さん、どうかお願いします!」



 空木くんが懇願する。推しによく似た尊み溢れる上目遣い攻撃にやられ、私は頷いた。



「わ、わかった。でも私がビーフィートのファンだってこと、誰にも言わないでくれる? 皆には秘密にしてるから」



 空木くんは不思議そうな顔をして、けれどすぐに了承してくれた。




 レッスン用のスタジオには、本物のビーフィートメンバー達が待っていた。

 リーダーでミスジ担当のミスくんは落ち着きのある佇まいが尊いし、サガリ担当のサガくんは芸術的なまでの美貌が尊い。でも先に最推しそっくりさんを見ていたおかげで、比較的緊張せずに挨拶できた。



 で、肝心のレッスンはというと。



「全然ダメだね」



 見学を終えて外に出るや、私は空木くんに告げた。



「カイくんはあんな暗い声で歌わない。あんな覇気のない踊り方しない。何より、あんな自信なさげな表情しない!」



 すると空木くんはしゅんと俯いてしまった。やば、キツく言い過ぎたかも?



「やっぱり僕には無理だよね。自信なんて持ったことないし」



 自信……そうだ!


 閃いた私は自分より背の低い空木くんの前に屈み、顔を寄せた。



「私に任せて。空木くんに自信をつけてみせる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る