第13話
それを聞くと、鷹の心は歓びではちきれそうになりました。
「また、夢はやってくるのか。
俺はまた、飛ぶことができるのだな。
……なんということだ!
あんな日々は、もう、二度と来ないと思っていたのに……!」
その日から、鷹の心はとても安らかになりました。
これからも飛べる、何度でも飛べるかもしれないという希望が、彼の心を明るく照らしました。
静かな心で、鷹はその日の来るのを待ちました。
そして、あの日見た夢をくり返し思い出しては丁寧になぞりました。
すると彼の中で、それはますます鮮やかになっていくのでした。
鷹は何度も、自分が今、本当に飛んでいるような気持になりました。
夢を思い出しているのか、記憶の中の自分を思い出しているのか、それとも実際にとんでいるのか、彼は時折、区別がつかなくなりましたが、それはもう、どうでもよいことでした。
どれであっても、同じことになっていましたから。
そしてそれらがすっかり合わさってひとつになったとき、鷹の裡に全ての感覚がよみがえってきたのです!
次に月が訪れた時、鷹は気がつきませんでした。
身じろぎもせず、黙ったまま立ち尽くしていました。
しかし、月には、鷹がその時、心と記憶の風景の中を飛んでいるのだということがわかりました。
「ああ、お前さんは、飛んでいるのだねえ。
…今は、野の上を飛んでいるのかい?」
はく製の鷹は、何も言いませんでした。
「…山の上を飛んでいるのかい?」
鷹はやはり、黙ったままでした。
「…よかったのう、……本当に、よかったのう……」
月は吐息のように言いました。
そして、それ以上話しかけることなく、そっと帰っていきました。
そしてそれっきり、月が鷹を訪ねてくることは、二度とありませんでした。
鷹は何もかも忘れて飛んでいました。
休むことも、獲物を探すこともなく、ずっと飛び続けていました。
一心不乱に、何も考えず、ただただ両の翼を動かし続けていました。
野の上を、山の上を、海の上を、そして何故か行ったことのないはずの場所さえも。
けれど、鷹が気づくことはありませんでしたが、その景色に夜が来ると、月は黙って、飛び続ける鷹の姿を静かに照らしているのでありました。
(了)
鷹 紫堂文緒(旧・中村文音) @fumine-nakamura
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