第12話

 …気がつくと、鷹はいつもの暗い部屋におりました。

 さっきのように羽根を動かそうとしましたが、びくともしません。

 足を蹴って飛び立とうとしました。

 ……駄目です。


「…おや、どうしたことか」


 ふと思いましたが、そんなことより再び飛ぶことのできた歓びのほうがはるかに勝っていました。

 疲れても、飽くことなく飛び続けた心地よい疲労が、まだ体中にしっかりと残っておりました。



 飛んでいた時の感触と豊かな気持ちが、鷹の心と体をいっぱいに満たしました。



「ああ、今はまた身動きできない自分に戻ってしまったが、俺は飛んだぞ。

 確かに飛んだぞ。


 ああ、ああ、なんと嬉しいことか…!…」




早くこのことを話したいと、鷹は月の来るのを待ち焦がれました。

 それで、月の来てくれた晩、その晩はカーテンが隙間を作っていて、そこから月の光が細く射していたのでしたが、鷹は息せき切って話し出しました。



「お月さん、お月さん、俺、飛んだんです。

 とうとう、また飛ぶことができたんです。


 今はまた元に戻ってしまったけれど、あの日、俺は本当に飛べたんです。


 だって次の日、目が覚めたら、俺の身体には飛んだあとの疲れが残っていたんですから、確かなんです。


 …ああ…、素晴らしかったなあ……」



 鷹の話すのをじっくりと聞いていた月は、静かに口を開きました。


「それは夢というものかもしれん。

 

 おまえさんは、夢を見たのかもしれん。


 …しかし、そうかい、また飛ぶことができたのかい。


 よかったねえ、本当に、よかったねえ……」



「夢? 夢というものだったんですか、あれは?


 …それは、また来てくれるんでしょうか?


 俺、また、飛ぶことができるんでしょうか?…」



「……ああ、また見ることができるよ。

 何度でもできるよ。

 きっと、できるとも」




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