アーンツマパの人魚島


大雨が去った次の日、町から川沿いの道を少し下った先にある海岸に散歩に来ているアーンツマパ。海岸にジタバタと動くものを発見し、近づきます。


ジタバタと動くのは、浜辺に打ち上げられ、ひっくり返った亀でした。亀はアーンツマパを見ると「すみません。そこを行くお方、ひっくり返って戻れないのです。助けて頂けないでしょうか?昨日の大波にさらわれて、ひっくり返ってしまったのです。」と、必死に訴えてきます。


アーンツマパは、「それは大変ですね。助けましょう」と、ひっくり返った亀を助けます。


「助けていただき、ありがとうございます。私、キャラパスと申します」

「ご丁寧にどうも。私はアーンツマパと申します。では、散歩の途中なので、これにて失礼いたします。」

アーンツマパが立ち去ろうとすると、キャラパスが慌てて言いました。


「ま、待ってください。助けていただいたのに、そのまま返してしまっては、亀の名折れ。もし良ければ、人魚島へいらっしゃいませんか?

人魚の歌声は世界一です。大海賊、耳の肥えた各地の王族、ひいては、かの冥府の王までが聞き惚れたという歌声です。是非、お礼に聞きにいらしてください。」

「人魚島ですか。話には聞いたことがあります。一度行ってみたいと思っておりました。是非、ご一緒させてください。」

アーンツマパは快諾しました。体を船に変化させると「良ければ乗ってください。無理な体勢で長い時間居たのでしょうから、お疲れでしょう。」と、キャラパスを乗せました。


「本来なら私の背に乗っていただくのですが、乗せていただき、ありがとうございます。」

「それで、どちらの方向へ進めばよいですか?」

「南へ南へお願いします。南十字星が見えて、日が昇ればすぐです」

「南ですね。では出発しましょう」

アーンツマパとキャラパスは、海岸から出発し、南へと進んでいきます。


「私が泳ぐより速いですね」「人魚島はどんなところですか?」等とたわいもない会話をしながら、真っ直ぐに人魚島へ向かって進んでいきます。





人魚島へ着くと、アーンツマパは、キャラパスに聞きました。

「ここが人魚島ですか。どこから島へ上陸したら良いですか?」

「あの辺りに接岸してください。あそこに人魚が見えますね。あれ、何か様子が…」


アーンツマパは船から姿を戻すとキャラパスと一緒に、あたふたしている人魚に近づいていきます。


「私はアーンツマパと申します。何か、お困りのようですが、どうされたのですか?」

「サーラ?いったいどうしたのですか?」

アーンツマパとキャラパスの問いかけにサーラという人魚が答えます。


「母から受け継いだ大切なイヤリングを岩の間に落としてしまったのです」

今にも泣きそうな顔でサーラは答えました。


「そうであれば、私がとってきましょう」とアーンツマパが提案すると、サーラは少し困ったように呟きました。

「あなたの大きさでは、腕も岩の隙間には入らないでしょう?」

「こちらの方は、色々なものに変化することができるのです」とキャラパスは言葉を繋げました。


「まぁ、本当ですの? では、岩場の隙間に入ることもできるのですか?」

「できますとも。それでは、蛇に変化して探してまいりましょう」

そういうと、アーンツマパはニョロリと蛇に変化し、岩場の隙間へスルスルと入っていきました。


アーンツマパが、薄暗い岩の間をスルスルと進むと、つるりと光るものを発見しました。

蛇の体から触手を出し、イヤリングを包み込むようにして掴むと、岩場の隙間から抜け出しました。


「ありがとう存じます」と、イヤリングを胸元を胸元で握りしめながら笑顔でサーラは言いました。


「お礼に、あなたのために歌を歌わせてください」と、サーラは歌い始めました。

その歌声を、アーンツマパはうっとりと聞きほれています。


サーラの歌声を聞いた人魚たちが集まってきて、一緒に歌い始め、合唱になりました。

しっとりとした歌から楽しげな歌へ、幾つもの歌を人魚たちは歌ってくれました。





「マパさん、助けていただいたお礼に、こちらの貝殻をお土産にお持ちください。

これで、いつでも人魚の歌声を聴くことができるでしょう」

とキャラパスが幾つもの貝殻を差し出しました。


「とても素敵なひと時を送ることができました。ありがとう。

人魚の歌声をいつでも聞けるなんて素敵な貝殻ですね。沢山の貝殻をいただき、ありがとうございます。」

「貝殻に込めた歌は、何度でも聞くことができます。これを聞いて、私達のことを思い出して、また何時でも人魚島へいらしてください。」

とサーラは名残惜しそうに、アーンツマパに言いました。


アーンツマパは、キャラパスやサーラ、他の人魚たちに別れを告げると、来た時と同じように船に変化し、帰路に着きました。





帰宅後、アーンツマパは月を見ながら、貝殻から流れる歌声を、うっとりと聞くのでした。




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アーンツマパ @szk24

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