アーンツマパ

@szk24

アーンツマパ

うっそうした茂みの中、つるりとした白い石が土から少し顔を出している。石の傍らに鈴蘭が咲いており、花は雫を湛えていた。


次の瞬間、雫が石に落ちた。何の音もしなかったが、石にはひびが入っている。ひび割れは次第に大きくなり、オレンジ色の何かが入っているのが見える。


オレンジ色の何かは、するりと石から抜け出すと、大きく背伸びをした。


「うーん…。広い世界は気持ち良い。」


オレンジ色の何かは「アーンツマパ」である。


アーンツマパは、きょろきょろと周りを見回し始めた。特に何もない茂みなので、アーンツマパは、少し散策してみることにした。

しばらく歩いていると、舗装された道があることに気付く。


「この道を進めば、どこかへたどり着くだろう。さて、右に行くか、左に行くか。」


風が左に吹いているので、結局、左に進むことにしたようだ。アーンツマパは、「よっ…と!」と言うと体を変化させ、T型フォード自動車になった。

車はすいすいと進む。道は大きな川と並走するように走っている。しばらく走ると、道と川はぐるりと大きく弧を描いた。そして、アーンツマパ、は大きくもなく小さくもない街に着いた。


アーンツマパは元の姿に戻ると街中を歩いていく。


「ごきげんよう。アーンツマパと申します。」と、すれ違う人に声を掛けるが、「ひぇ、おばけだ」「ぎゃあ、助けてくれ」と皆逃げて行ってしまう。


「ここには私の居場所はないのかもしれない」


アーンツマパは、悲しい気持ちになりました。アーンツマパの気持ちを表すかのように空は暗くなり、大粒の雨が降ってきました。



夜になっても雨の勢いは衰えず、川が氾濫しそうになりました。街は川を大きく曲がったところにあり、もし川が氾濫すれば街は水没してしまいます。人々は土嚢を積んだり、避難を始めました。

アーンツマパは、人々が困っているのを見て、「助けなければ」とブルドーザーやショベルカーに変化し、堤防に土を盛り始めました。それでも足りないと思ったアーンツマパは、飛行船に変化し、山から大きな石や岩を何度も運搬しました。その甲斐もあって堤防は決壊せずに済みました。


雨も止み、堤防が無事なのを確認した人々は、一生懸命頑張ってくれたアーンツマパに口々に「ありがとう」とお礼を言いました。


◇◇


街を救ったアーンツマパは子供たちに大人気。アーンツマパも滑り台やシーソー、ジャングルジム等の遊具に変化し、子供たちと楽しんでいました。

テレビ局の人は、アーンツマパの活躍や、子供たちに大人気な様子を配信しました。その放送が配信されると、一夜にしてアーンツマパは世界中の人に知られることになり、一躍人気者になりました。


街を歩いていると「ごきげんよう、アーンツマパ」「こんにちは、マパ」「やぁ マパ、元気かい」と声をかけられるようになりました。


アーンツマパは「私にも居場所ができた。しばらくはここでのんびりと暮らそう」と人と暮らしていくことを決めたのでした。

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