第31話新たなる旅立ち
《東方の
「よし、これで準備はOKだな!」
今回は少し長い度になる。
オレは常宿の荷物も、全て引き払い部屋を出ていく。
この宿を使っていたのは、それほど長い期間ではない。
だが愛着が湧いていたので、寂しい気持ちになる。
「いままでありがとう!」
部屋の中に挨拶。
部屋を出て宿の玄関に向かう。
既にザムスさんが準備を終えていた。
「遅かったな、ハリト」
「いやー、ごめんさい。何となく去りがたくて」
「永遠の別れになる訳ではない。王都で仕事を終えたら、戻ってくるんだぞ」
「あっはっはっは……そうでしたね」
今回の任務は、王都までの往復。
移動が大部分で、ひと、ふた月くらいの任務。
でも届け終わったら、すぐに戻ってくるのだ。
そんな時、女性陣もやってきた。
「お待たせしました、兄さん。こっちも準備は万端です」
「私もOKよ」
女魔術師サラと女弓士マリナも準備万端。
長旅用の背負い袋を背負っていた。
「ん、ハリト君? 随分と荷物が少なすぎますね? まるで近所に散歩にいくようですが?」
「あっ、これ? 荷物は全部【収納】してあるからね」
「うっ……そうでしたね。私がついに会得できなかった収納魔法ですか。こんな時は悔しいです」
「うーん、サラも収納の会得は、惜しいんだけどな? もしもよかったら、サラの【魔力線】を解放してあげようか? “少しは魔力が高まる”けど?」
「うっ……ハリト君の“少しは魔力が高まる”ですか。嫌な予感しかしないので、今は遠慮しておきます。もう少し地力が付いてから、お願いします」
「あっはっはは……そうか。いつでも言ってね!」
魔法使いとしての才能が、サラの方があると思う。
きっとオレの師匠に教わったら、今よりも凄くパワーアップできるとはず。
そんな中、パーティーリーダーのザムスさんから合図がある。
「それじゃ、準備はいいか? いくぞ」
「「「はい!」」」
主人に挨拶をして、宿屋を後にする。
そのまま街に西の正門へと歩いていく。
オレは歩きながら、今回の依頼の確認をしていく。
「そのザムスさんが預かった三個の魔石を、今回は王都の担当者に渡すだけなんですよね?」
「ああ、そうだ。先方にはレイチェルから連絡がいっている」
遠距離通信の魔道具で、既に女領主レイチェルさんが段取り済み。
オレたちは魔石の運搬係りなのだ。
「でも魔石を運ぶだけなら、騎馬隊とか行商人でも出来そうですね?」
「ああ、そうだな。だが道中で“何かが起こる”かもしれない。だから普通の者には無理だ」
「えっ、妨害ですか⁉」
「ああ、そうだ。アレックスたちは明らかに、上級魔族以上の存在だった。しかも勇者が魔族化した魔石など、今まで聞いたことはない。つまりこの魔石を狙う者は多い」
「あっ……そうか。なるほどです」
魔物を倒した時に落ちる魔石は、強い魔物ほど強力になる。
そして取引される価値も、跳ね上がっていくのだ。
「おそらく、この魔石三個で、小国が買える価値がある」
「えー、小国が⁉」
「ハリト君! 声が大きいです!」
大きな声を出しそうになって、サラに口を押えられる。
こんな街中で朝っぱらから話す、金額の内容じゃないのだ。
それにしても今回の依頼の魔石に、そんな膨大な価値があったのか。
「そ、そ、それじゃ、道中は……?」
「ああ、そうだな。もしかしたら野盗や、暗殺者。あと魔族も襲撃してくるかもしれない」
人の噂には戸を付けられない。
今回のことは既に、広まっている可能性も高いのだ。
「だ、大丈夫ですかね、オレたちの旅は……」
「大丈夫よ、ハリト! 何しろ私たちはAランクパーティーよ? 返り討ちにしてやりましょう!」
「マリナ……うん、そうだね」
たしかにオレたちは高ランク冒険者パーティー。
普通の野盗団や魔物は、何とかなるであろう。
そんなことを話していたら、西の門にたどり着く。
「ん?」
西の門の広場に、人の集団がいた。
こんな早朝にしては珍しい光景だ。
ん⁉
もしかしたら強盗団が、待ち伏せしていたのか?
集団は武装している。
警戒しないと!
「大丈夫だ、ハリト。あれはギルドのメンバーだ」
「えっ? あっ……本当だ!」
ザムスさんの指摘の通りだった。
門の前にいたのは、冒険者ギルドのメンバー。
街を代表して旅立つオレたちを、見送りに来てくれたのだ。
「おい、ハリト。道中は気を付けていきなよ!」
「不愛想なザムスの面倒を、ちゃんと見てやるんだぞ!」
広場に到着。
皆は温かい言葉を、オレたちに送ってくる。
「皆さん、ありがとうございます! こんな……朝早くから起きて、見送りに来てくれて……」
まさかの温かい言葉に、オレは胸が熱くなる。
自分がムサスの街にいたのは、それほど長くはない。
でもギルドのメンバーは長年の友のように、オレたちを見送ってくれたのだ。
そんな感極まっていたオレに、ザムスさんが声をかけてくる。
「おい、ハリト。一つ訂正してやる。コイツ等はわざわざ早起きしたんじゃない。朝まで酒場で飲んで、そのまま来ただけだぞ」
「え? あー、本当だ! みんな、酒臭い!」
まさかの事実に、感動が一瞬で吹き飛ぶ。
「あっはっはは……バレちまったかー!」
「ほら、最近は平和だからなー!」
「それに、魔石ラッシュのお蔭で、懐も温かいかならなー!」
ムサスの街の周囲には、しばらくの間は強力な魔物が出ない。
だからギルドメンバーは昨夜、ハメを外して飲んでいたのだ。
「まったく、もう。オレの感動を返してくださいよ」
「今回はハリト君が悪いですよ。こんな酒臭い集団に気がつかないのが」
「そうよ、ハリト。あっちで泥酔して寝ている人もいるじゃん!」
「あっ、本当だ! はっはっは……面目ない」
どうやら気が付いていなかったの、オレだけだったらしい。
急に恥ずかしくなったので、笑って誤魔化す。
そんな時、街の方から新たに、誰かがやってきた。
「ザムス!」
やって来たのは、馬に乗った女騎士。
女領主レイチェルさんだ。
馬から降りて、オレたちの前に立つ。
「どうしたレイチェル? 今回の仕事の最終確認は、昨日したはずだが? もしかしたら変更でもあったのか?」
まさかの依頼人の登場に、ザムスさんは訊ねる。
何か用があるのかと。
「い、いえ、別に変更はない。偶然、散歩の途中に、ここを通りかかっただけだ……」
レイチェルさんは少し顔を赤くしている。
しかも明らかに理由を誤魔化していた。
あっ……もしかしたら、ザムスさんを見送りにきたのかな?
でも素直じゃないから、なかなか言い出せない感じ。
そして相変わらず不器用なザムスさん。
二人の歯車は噛み合っていない。
よし。
ここは、ここは支援魔法で、またオレがひと肌脱ごうとするか。
――――そう思った時だった。
「じ、実はザムス……見送りにきたのだ、私は。これはお守りだ!」
何とレイチェルさんが大胆な行動に出た。
お守りをザムスさんに手渡しのだ。
「「「…………」」」
西の城門の広場に、一瞬で緊張が走る。
ギルドメンバーとオレたちは固唾を飲んで、ザムスさんに注目。
あのお守りはどう見ても、レイチェルさんの手作り品。
ムサス街で一番の堅物な剣士が、どう答えるか怖いのだ。
そんな緊張感の中、ザムスさんが口を開く。
「ああ、有りがたく受け取っておく、レイチェル。無事に任務を完了してくる」
おおお!
ザムスさんが素直に受け取った。
自分の首にお守りをかける。
(((ほーーーー)))
ギルドのメンバーは静かに安堵の息を吐く。
西の広場が修羅場にならずに、誰もがほっとしているのだ。
そんな中、顔を真っ赤にしていた、レイチェルさんが口を開く。
「ああ、待っているぞ! い、いや、待っているのは、報告をだぞ! 王都に無事についたら、遠距離通信の魔道具を借りて、報告をするのだぞ、私に!」
「ああ、分かった、約束する」
相変わらず二人とも素直じゃなくて、歯車が微妙にあっていない。
でも何となく距離は縮まったような気がする。
そんなこともあり、見送りの時間は終わる。
「さて、そろそろ、いくぞ」
「「「はい!」」」
オレたち《東方の
後ろからギルドのメンバーとレイチェルさんが、見送ってくれる。
何ともいえない温かい雰囲気。
街道を進んでいく。
「なんか、こういうもの良いよね、マリナ?」
「そうね。前回、私たちは王都から、追放された感じの旅立ちだったからね?」
「あっ、そうか。そうだったね。今考えると、懐かしいね」
今から少し前。
王都の高級酒場で、オレは勇者だったアレックスから、追放を言い渡された。
その後は当てもなく、東の辺境に一人で旅立つ。
偶然、たどり着いた先が、ムサスの街だったのだ。
「そういえば最初は、サラに声をかけてもらったんだ。えーと、たしか『良かったら、私たちのパーティーを助けてくれませんか!』って言われて」
「へー、そうだったんだ。その時のサラは、まだ辛口じゃなかったのね、ハリトに対して?」
「うっ……マリナ。私も好きで、ハリト君を責めるようになった訳ではないです。規格外の支援魔法を受け続けて、心を保つために仕方がなく、こうなっていしまったのです」
「そうなんだ。たしかに私もハリトの支援魔法に慣れるまで、数年かかっているのかもね」
「うっ……数年もですか。ふう……これから先が思いやられます」
女子同士は楽しにそうに話をしていた。
オレは男同士で話をする。
「そういえばザムスさんの方は、最初から変わらない感じですよね? オレに対する態度は?」
「ああ、そうだな。最初の
「えっ⁉ それって、どういうことですか⁉」
「あまり気にするな、ハリト。それがお前と付き合っていく、コツだ」
「うーん。褒められているのか、
ザムスさんは不愛想で怖い。
だが誰よりも人情味があり、頼りになるパーティーリーダーだ。
オレはこの《東方の
これから頑張っていこう。
「よし、それじゃ、王都まで張り切っていきましょう、みなさん!」
気持ちを新たにして宣言する。
今回の任務を無事に遂行することを。
でも今回の依頼は、移動時間が長すぎるよな。
出来れば少し早く、王都に着きたいな。
あっ、そうだ。
いいことを思いついたぞ。
「ザムスさん、王都までけっこう距離があるので、もしもよかったらオレの支援魔法で時間短縮しませんか?」
「ん? 例の長距離移動の支援魔法か?」
長距離移動用の支援魔法は、スタミナと脚力を強化する魔法。
《東方の
「いえ、今回は違います。えーと、【転移】という支援魔法です!」
「「「っ⁉」」」
オレの言葉を聞いて、三人は言葉を失っていた。
表情もかなり硬い。
あっ。
もしかして、転移の魔法は駄目だったかな?
やっぱり冒険者らしく、徒歩で移動した方がいいのかな?
そんな中、最初に口を開いたのは、魔術師のサラ。
「いえいえいえ、違いますよ! というか、ハリト君、転移魔法なんて特殊魔法を使えたんだです⁉」
「え? うん、そうだよ。一応、複数人は同行できるけど、前に行ったことがある場所にしかいけないから、不便だけどね」
「いやいやいや! それでも十分に凄すぎますよ! しかも一人じゃなくて、複数人を一緒に転移できるんですか⁉」
「うん、そうだね。試したことはないけど、最大で百人くらいまでなら可能かな?」
「うっ……ひゃ、百人も同時に……大陸の輸送の概念が、根底から覆ることが……に、兄さん……ハリト君が、ここにきて……」
「ふう……気にするな、サラ。それが心を保つコツだ」
いつものようにザムスさんが、サラを落ち着かせてくれていた。
相変わらず仲の良い兄妹だ。
マリナが話かけてきた。
「へー、そんな便利な魔法があったんだ。でも、ハリト、転移魔法は今まで一度も使ってなかったよね?」
「うん、そうだね。ちょっと事情があって、転移魔法は使うと、バレちゃうんだ。だから今までは使わないようにしていたのさ」
転移魔法は特殊な術式を、展開する必要がある。
だから他の人に探知されやすいのだ。
そんな話に、回復したサラが混じってくる。
「バ、バレるって、誰にですか、ハリト君? 嫌な予感がするのですが⁉」
「えーと、オレの師匠だよ、サラ」
「えっ……えっ……このハリト君の師匠に⁉ というか今はバレても、いいんです⁉」
「うん。ほら前回のアレックス戦で、オレ
オレの師匠の魔法はなかなか厄介。
強い魔法を使うと、大陸のどこにいても探知されてしまうのだ。
「でも、その割にハリト君は、余裕そうですね? 師匠から家出してきたんですよね? 追ってくるんでよね? 規格外のハリト君を作り上げた、規格外の師匠が⁉」
「オレも前はそう思っていたんだ……でも、よく考えると、師匠は人混みが極度に嫌いだから、大丈夫なはず。王都までは追って来ないよ、たぶん」
ウチの師匠はとにかく駄目な人だ。
見た目は麗しくスタイルも良いが、他は問題だらけ。
性格は我がまま横暴で、自己中心的で、酒癖が強く、色男に弱いくせに、他人と関わるのが嫌い。
あと自己評価が異常に高過ぎる、問題だらけの性格なのだ。
「うっ……そうなんですか。嫌な予感しかしないですが、もう遅いですね。王都が火の海にならないことを祈ります」
「あっはっはは……それじゃ、転移の魔法を準備していいですか、ザムスさん?」
「ああ、やってくれ」
パーティーリーダーの了承は得られた。
オレは意識を集中して、転移魔法を発動の準備。
「いきます……【転移】!」
シュウィーーーン!
オレたち四人は眩しい光に包まれる。
これは転移魔法の発動の光。
このまま王都へと転移していくのである。
遠目にムサスの街が目に入る。
(ムサスの街、またね。それじゃ!)
シュン。
こうして《東方の
王都の街外れに、一瞬で移動するのであった。
◇
◇
◇
◇
そんな《東方の
「見つけたわ、ハリト! あんな所にいたのね! ん? 向かった先は“王都”⁉ ちっ! あんな人が多い所に⁉」
観察していたのは、麗しい容姿の女性。
肌の露出が多い服に身を包んだ、怪しげな女魔術師だ。
「ハリト……ハリト……私の可愛い愛弟子……くっ! 連れ戻しにいかないと!」
女はハリトの師匠。
ハリトを幼い時から育てきた、親代わりでもある。
突然、家出をしたハリトのことを、ずっと魔眼で探していたのだ。
「久しぶりの人里か……吐きそう! でも、連れ戻さないと!」
彼女の名前はルシェル。
かつて魔王を倒し、世界を救った《大英雄ルシェル》本人。
「また魔王が復活する前に、ハリトを連れ戻さないと!」
そして、またの名を魔神ルシェル。
魔王と喧嘩して、倒しちゃっただけの英雄の自覚がない存在。
王都に戻ったハリト一向に、新たな危機が迫っていたのだった。
◇
◇
◇
「おー、久しぶりの王都だ! よし、頑張っていこう!」
そんなことも梅雨知らず。
王都でも《東方の
◇
第1章【完】
◇
最後まで読んで頂きありがとうございます。
なんとか今のボクで書けるところまで、書ききることが出来きました!
このお話は、ここで一度完結になります。
今後の予定は未定です。
でも、書籍化したいので、色んな編集部に持ち込みをして、コンテストにも応募もする予定です。
万が一、成功した時は、また報告します!
ボク的には、この作品は好きなので、もっと書きたいです!
◇
あと「面白かった!」「いつか、また続きが気になる!」と思ったら
評価の☆で応援していただけると、私も嬉しいです。
あなたの評価と応援が、今後の作者の励みと力になります!
◇
勇者パーティーをパワハラ追放された【自己評価の低い】支援魔術師、実は魔神に育てられた最強の男でした ハーーナ殿下 @haanadenka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます