第30話戦いの後

魔族化アレックス一行を討伐してから、日が経つ。

《東方の黄昏たそがれ団》は無事に、ムサスの街に戻ってきていた。


街には平和な日常が戻っている。

オレたちはいつものように冒険者ギルドに向かう。


「ん? なんか街の様子は賑やかじゃない」


街の中を歩いてオレは、あることに気が付く。

異様なほどに活気に満ちていたのだ。


そんなオレの疑問に、隣りを歩くザムスさんが答えてくれる。


「どこかの誰かのお蔭で、“二千近い魔石”を一気に街が入手できたからな。景気も潤っているんだ」


「あっ、そういうことだったんですね!」


魔物から得られる魔石は、貴重な品。

そのため外貨として、他の街にも輸出できる。


今回は押し寄せきた魔物の大軍から、大量に魔石を回収。

中には危険度が高い魔物もいた。


その高品質な魔石のお蔭で、ムサスの街が潤っていたのだ。


「いやー、これもサラの麻痺の魔法の、お蔭だね!」


一緒に歩いているパーティーメンバーを、素直に褒め称える。

ほとんどの魔物は、サラの魔法で麻痺化。

集結隊で止めをさしていったのだ。


「ふう……でもそのお蔭で、私は集結隊の皆さんから、畏敬と畏怖の目で見られるようになってしまったんですよ。どうしてくれるんですか、ハリト君⁉」


「いやー、ほら、オレは支援しただけだから?」


支援魔法は単独ではあまり意味ない。


今回の魔物討伐戦で、一番活躍したのは《東方の黄昏たそがれ団》。

サラの魔法とマリナの弓矢、あとザムスさんの剣技と指揮能力で、圧倒的に勝利を収めたのだ。


そんな話にマリナも混ざってくる。


「でも、そのお蔭で、街の人たちも、私たちに凄く親切よね? この間も買い物でおまけしてもらったわ」


「本当に、マリナ⁉ いいなー。オレなんて一度もないよ」


「ふう……二人のその能天気なところは、本当に羨ましいです。私も見習わないとですね」


「あっはっはは……ありがとう? かな、一応は」


とにかく街の人たちに頼られるのは、冒険者として悪いことではない。

ムサスの街も無事に平和が戻ったので、とにかく嬉しい。


「あっ、そういえばザムスさん。アレックスたちの討伐の件は、どうなりましたか?」


歩きながら、気になっていたことを訊ねる。

何しろ魔族化したとはいえ、勇者パーティーの三人を、討伐してしまったのだ。


女領主レイチェルさんとザムスさんは、事後処理をしてくれていた。

経過を聞いてみる。


「その件に関しては、心配はいらない。レイチェルが王都の担当者に、ちゃんと報告してある」


魔石を使った魔道具には、遠距離の直中の音声通話が出来るものもある。

かなり貴重な品なので、ムサスには数台しかない。


その内の一つは領主の館にあり、王都と直中で繋がっている。

領主であるレイチェルさんは、既に王都に報告していたのだ。


「なるほど。それは有りがたいですね」


「今回は魔族化の魔石もあったからな。アレックス一行が魔族化した証拠にもなる。オレたちは特にとがめられないはずだ。だが王都の城では、かなり騒ぎになっているらしいがな」


勇者パーティーは大陸に、五組しかいない精鋭部隊。

近いうちに復活する可能性がある魔王を、倒す候補者たちなのだ。


それが敵である魔族と化してしまった。

勇者パーティーを管轄している王城は、蜂の巣をつついたようになっているのだろう。


「それだと世間的も、大変になりそうですね、ザムスさん?」


「いや、王都では今回の件は、公開はしないらしい。何でもアレックス一行は既に、勇者の資格を剥奪されていたらしい」


「えっ? そうだったんですか⁉ サラの指摘とおりだったんですね」


勇者パーティーは常に首から、勇者証を下げる義務があった。

だがムサスの街にきたアレックスたちは、身につけていたかった。


激論になった時の、サラの指摘は正解だったのだ。


「これからムサスの街は、どうなるんですかね……」


「今のところ問題はないはずだ。聖山の封印も、サラとハリトが張り直してくれたからな」


アレックス一行を討伐した後、魔物が噴きだして魔穴を発見。

サラの魔法の発動を、オレは少しだけ支援したのだ。


「そっか。改めて、ありがとう、サラ!」


魔穴を封印してくれた仲間に、感謝する。


「いえいえいえ、何を言っているんですか、ハリト君! 私は短期間だけ効果がある【除魔】を発動したのに、ハリト君が凄すぎて、とんでもない結界が展開されてしまったのですよ! あんな強力な結界を作って、どうするつもりなんですか⁉」


「あっはっはは……面目ない。アレックス戦の直後だったんで、オレも加減を忘れていたんだ」


魔族化アレックス一行との戦いで、オレは力を多めに発動した。

久しぶりの《強》を使って、なんか変なテンションになっていたのだ。


「でも、ハリトの結界強化のお蔭で、ムサスの街の、しばらくは平和になりそうよね?」


そんな話にマリナもサポートしてくる。


「ふう……そうですね、マリナ。その点に関してはハリト君には感謝しています。でも今後は《強》使う時は、必ず確認してからにしてください、ハリト君!」


「あっはっはは……肝に命じておきます」


未熟な支援魔術師であるオレは、どうしても加減が出来ない。

今後はまた《小》の精度を鍛えて、メインに発動していこう。


「でも魔物が少なくなったら、私たち冒険者は困らない? 食いっぱぐれよね?」


マリナの指摘は正しい。

基本的にムサスの冒険者は、魔物の魔石を売って、利益を出している。

武器や防具の維持費や経費として、依頼料はほぼ消えてしまうのだ。


だから、魔物が急激に減ったムサス冒険者は、少し仕事が減る。

特に唯一のランクAの《東方の黄昏たそがれ団》は最近、仕事が無くなってきたのだ。


「オレたちの仕事が無いということは、ムサスの街が平和だということだ。問題はない」


「でも兄さん、収入がないのは困ります! 特にマリナはお父さんの治療のために、お金を稼がないと駄目ですから」


「たしかに、そうだな。少し考えてみるか。今後の《東方の黄昏たそがれ団》の活動について」


平和になってきたムサスの街では、オレたち高ランカーは稼げない。


打開策としては、他の大きな街に拠点を移すことが一番。

だが地元を愛するムサスさんには、苦渋の選択かもしれない。


――――そんなことを話しながら、歩いていた時だった。


到着した冒険者ギルドの前に、誰かがいた。


「ん? ザムス! ようやく、来たか!」


待ちかまえていたのは女領主レイチェル。

どうやら《東方の黄昏たそがれ団》のことを待っていたらしい。


かなり急いでいる様子。

いったいどうしたのだろう?


ザムスさんが用件を聞く。


「どうしたレイチェル? そんなに慌てて」


「ザムス、すまないが、新しい依頼を頼みたい」


「依頼だと? どんな依頼だ?」


「これを……例の魔族の魔石を、王城まで届けて欲しい。証拠物件として」


えっ……?

王都への依頼。


アレックス一行の魔石を?


でも王都はかなり遠い。

ムサスの街を長期間、離れることになる。


最短でも数ヶ月かかるかもしれない依頼。

街を愛するザムスさんは、どう答えるんだろう?


「かなり急だな? 何かあったのか、レイチェル?」


「ああ、王城で少し揉めているらしい。だから証拠物件として早く提出しないと、ムサスの街にも政治的な影響があるのだ……」


レイチェルさんの顔は神妙だった。

それだけ今回の勇者が魔族化したのは、王城で問題になっているのだろう。


「そうか。それなら依頼を受けるもいいぞ。お前たちはどうする?」


ザムスさんは迷うことなく答える。

街のために一肌脱ぐのだ。

パーティーメンバーのオレたちにも確認してきた。


「もちろん兄さんに付いていきますよ! しばらくはムサスの街も大丈夫そうだなので」


妹サラも了承。

あとはマリナとオレの意見だ。


「私も大丈夫よ。この中じゃ王都は一番詳しいから、任せておいて!」


マリナも了承。

残すはオレだけ。


「オレも大丈夫です。王都でも精いっぱい頑張ります!」


もちろん自分も賛成だ。

これれ《東方の黄昏たそがれ団》の満場一致。


レイチェルさんから魔石と親書を、ザムスさんは受け取る。


「では、早速、長旅の準備をするぞ」


「「「はい!」」」


こうして《東方の黄昏たそがれ団》は住み慣れたムサスの街を、離れることになったのだ。

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