第29話ラストバトル

 魔族化した勇者パーティーとの戦いが、幕を上げる。


 まずは遠距離攻撃の女性陣が動き出す。


「いくわよ……【強射ハイ・ショット】!」


 マリナは弓系の攻撃スキルを発動。

 強化された矢を放つ。


 狙うは魔族化した女神官ウルルだ。


 ビューン……バギン!


 だが魔族化ウルルは矢を跳ね返す。

 周りの見えない防御壁が、展開されているのだ。


 サラも同時に動く。


「いきます……【大風斬ハイ・ウィンド・カッター《中》】!」


 攻撃魔法を発動。

 杖から巨大な風の刃が、高速回転で発射されていく。


 狙うは魔族化した女魔術師エルザだ。


 ビューン、グルッル! ガギン!


 だが魔族化エルザも魔法を跳ね返す。

 魔法防御用の防御壁も展開されているのだ。


「くっ……あれは、固いわね、サラ」


「ええ、そうですね。私も全力で術を発動したのですが……」


 自分たちの攻撃が全く効果なし。

 マリナとサラは眉間にしわを寄せる。


 予想はしていたが魔族化した相手は、かなりの防御力を有しているのだ。


 そんな中、次の動いたのは剣士の二人。

 パーティーリーダーのザムスさんと、女騎士レイチェルさんだ。


 仁王立ちしている魔族化アレックスに向かって、二人で斬り込んでいく。


「いくぞ、レイチェル!」


「ええ!」


 息の合ったコンビネーションを発動。


「はぁぁあ……【鋭斬撃ソリッド・スラッシュ】!」

「いくわ! 【鉄斬ガード・クラッシュ】!」


 長剣の攻撃スキルを発動。

 二人同時に左右から挟撃だ。


 ズッッシャァ、ガギンーー!


 ブァァ、ガギンーー!


 だが二人の斬撃の連携も、アレックスの防御壁に跳ね返されてしまう。

 凄まじい魔族の防御力である。


 巨大なドラゴンを一刀両断した連携が、魔族化アレックスには通じないのだ。


「ちっ、下がるぞ、レイチェル!」


「ええ!」


 二人はたまらず後方に下がる。

 魔族化アレックスと距離を置く。


『ギャッハッハッハ……何だ、今のは攻撃だったのか⁉ あまりに弱すぎて、分からなかったぜぇええええ!』


《東方の黄昏たそがれ団》の攻撃に対して、アレックスは笑い声を上げる。

 自分の防御力に自信を持つため、ワザと仁王立ちしていたのだ。


『さて、次はこっちから攻撃するぞ! 頼むから一撃で、死なないでくれよなぁああ!』


 まずい!

 アレックスたちは攻撃モーションに入る。


 後衛のオレは意識を集中。


『死ねぇええええ! 【黒炎斬】んん!』


 アレックスは魔族系の剣技を発動。


『……【黒炎弾】!』

『……【暗黒衝撃波】!』


 エルザとウルルも魔族の攻撃を発射。


 ゴウォオオオオオオオ!

 ブォオオオオオオオ!

 ビュィイイイイン!


 漆黒の巨大な斬撃と、暗黒魔術が迫ってくる。


 オレは意識を集中、即座に魔法を発動。


「【対魔防御】!」


 シュイーーーーーン!


 オレたちの周囲に光の防御壁が展開。

 漆黒の巨大な攻撃と、正面衝突する。


 ドッッガァーーーン! ドッッガァーーーン! ドッッガァーーーン! 


 凄まじい衝撃波が襲ってくる。

 何とか防御はできた。

 皆には怪我はない。


 だがギリギリのところだった。

 防御壁から外れた地面が、攻撃でえぐり取られている。


 そんな必死なオレたちを見て、魔族化アレックスは高笑いを上げる。


『ギャッハッハハ……見たか、オレ様たちの力を⁉ これで半分くらいの威力なんだぜぇ! あと何発まで耐えられるか見ものだなぁああ!』


 今の攻撃で半分の威力だという。

 それを聞いてレイチェルさんの顔が青くなる。


「くっ……まさか魔族が、ここまでの強さとは……」


「気を強く持て、レイチェル。恐怖は魔族の力を増長させるぞ!」


「ええ、そうでね。でも、どうすれば。相手の防御壁は普通ではないわ……ドラゴン以上よ……」


 レイチェルさんが絶望に襲われるのも、無理はない。

 何故なら自分たちの最高の威力の攻撃力が、相手には全く通じない。


 先日のドラゴン戦以上の絶望感が、彼女に押し寄せているのだ。


 そんな光景に、アレックスは更な高笑いを上げる。


『ギャッハッハハ……だから言っただろう! そんなクソみたいな支援魔術師に認めている時点で、お前たちは無能なんだよ! ハリトなんてクソな支援魔術師は、結局なんの役にもだよぉおお!』


 アレックスは歓喜の雄叫びを上げていた。

 魔族化して増長した負の部分が、既に全身を犯しているのだ。


 そんな相手の圧を受けて、サラも弱気な声を出す。


「に、兄さん、流石に今回は分が悪いです。撤退した方が良いのでは?」


「それはダメだ、サラ。ここでオレたちが退けば、アイツは間違いなくムサスを襲いにいく。ここで仕留めるんだ!」


「たしかに、そうですが……でも、どうやって、あの防御壁を破るのですか? 先ほどの感触では、頼みのハリト君の支援魔法でも、難しいかもしれません……」


 サラの指摘は正しい。

 魔族化したアレックスたちの防御力は、凄まじいものだった。


 オレの未熟な支援魔法では、相手の防御壁を貫通できないのだ。


「ああ、そうだな。たしかに《中》だとラチが明かないな。ふう……仕方がない。ハリト、“もっと強力なヤツ”を頼む」


「ん? “もっと強力なヤツ”ですか? いいんですか?」


 ザムスさんから指示が飛んできた。

 でも前のドラゴン戦の後の話し合いで、“もっと強力なヤツ”は禁止されていのだ。

 一応確認してみる。


「この場合は仕方がない。背に腹は代えられぬ、だからな」


「はい、分かりました! それじゃ、いきますよ……」


 ザムスさんから許可が出来た。

 オレは意識を集中。

 複数の支援魔法の準備をする。


「ハリトの支援魔法が来るぞ! 準備をしておけ、お前たち!」


「ええ、分かったわ。ダラクの街のために、命を賭けるわ!」


「はい、兄さん。今にも恐怖で心臓が張り裂けそうですが、もう全てを諦めていきます!」


「ハリトの“もっと強力なヤツ”か……私も初めてだから、気合いれないとね!」


 みんなの準備は万端だ。

 よし、オレもいくぞ。


 意識を集中して、魔力を高めていく。


 対象は全員の武器と、サラの魔力に対して。

 あとマリナとザムスさん、レイチェルさんは身体能力も強化だ。


「いきます……【対魔攻撃力・強化】&【魔法・威力強化】&【身体能力・強化】!」


 ビュィーーーーーン! ブワァーーーーーン! ブワーーーーーン!


 よし、無事に発動できた。

 全員の全身と武器が、黄金色に輝く。


 だがアレックスはまたもや高笑いを上げる。


『ギャッハッハハ……何だ、それは⁉ またハリトの曲芸か⁉ 何をやっても無駄だというのが、分からねぇえのか、馬鹿どもが!』


 相変わらず余裕の態度。

 自分たちの防御壁に、絶対の自信をもっているのだ。


「みなさん、頼みます! オレの分まで!」


 支援魔術師であるオレは、攻撃はできない。

 後は仲間たちに全てを託す。


 ――――そして《東方の黄昏たそがれ団》が動く。


 まず遠距離の女性陣から。


「ハリトの想いを乗せて……いくわ! 【強射ハイ・ショット】ォオ!」


 マリナは弓系の攻撃スキルを発動。

 狙うは魔族化した女神官ウルルを狙い、強化された矢を放つ。


 ビューーーーーーン!


 放たれた矢は、巨大な黄金色の巨大な矢と変化。


 ガッ! ズッュッシャーーーー!


 そのまま魔族の防御壁を、一瞬で貫通。

 魔族化ウルルを吹き飛ばす。


 その光景を見て、アレックスが声を上げる。


『バ、バカな⁉』


 その隙を狙いサラも動く。


「ハリト君の《強》……怖すぎます。でもいきます! 【大風斬ハイ・ウィンド・カッター《中》】!」


 攻撃魔法を発動。

 杖から巨大な黄金色の風の刃が、高速回転で発射されていく。


 狙うは魔族化した女魔術師エルザだ。


 ビューーーーン、ズッュッシャーーーー!


 魔族の防御壁を、一瞬で貫通。

 魔族化エルザを吹き飛ばす。


 その光景を見て、またアレックスが声を上げる。


『バ、バカな⁉ たった一撃で、二人がやられた、だと⁉』  


 目を丸くして、顔を醜く豹変させていた。


 二人の腕利きの剣士は、その隙を見逃さない。

 ザムスさんとレイチェルさが斬り込んでいく。


「レイチェル! ハリトの支援魔法の勢いに任せて、いくぞ!」


「ザムス⁉ 自分の身体が変なんだけど⁉ でも、いくしかないのね!」


 黄金色に全身を光らせながら、二人の剣士は突撃していく。

 唖然しているアレックスの間合いに、一瞬で入り込む。


「はぁああああ、いくぞ! 【鋭斬撃ソリッド・スラッシュ】!」

「いくわ! 【鉄斬ガード・クラッシュ】!」


 同時に長剣の攻撃スキルを発動。

 二人同時に左右から挟撃だ。


 ズッッシャァアアアアアンー!


 ブァァァアアアアアアー!


 二人の斬撃は防御壁を貫通。

 アレックスの身体を、両側から一刀両断する。


『なっ……?』


 斬られてから、アレックスは声を上げる。

 ようやく自分が切断されたことに気がついたのだ。


『バ、バ、バカな……まさか、これが、支援魔法の威力だというのか⁉ あの役立たずなハリトは……本当は、凄い支援魔術師だったのか……?』


 そして驚きの表情で、オレのことを見てきた。

 魔族はなく、人らしい感情の表情で。


 そんな魔族化アレックスに、ザムスさんが止めを刺す。


「ああ、そうだ。ハリトは最高の支援魔術師なのさ!」


 ズッシャ!


 魔族の体内の魔核を突き刺し、完全に破壊。

 アレックスは粒子なって大地に吸収されていく。


「あっ……エルザとウルルも……」


 オレは思わず声をもらす。

 アレックスに続き、魔族化した二人も粒子として消えていくのだ。


 二人は魔族化アレックの眷属化されていたのだろう。

 だから主が死んで、彼女たちも消えてしまったのだ。


「周りは……他に、いないですね」


 オレは念のために周囲を、念入りに探知。

 危険な魔物や魔族はいない。


 つまり脅威は全て排除したのだ。


「ふう……良かった……」


 こうして魔物大量出現の事件と、勇者アレックス魔族化事件は無事に幕を閉じたのだった。

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