第28話魔族と化した者たち

 魔物が溢れ出していた聖山の最深部。

 そこにいたのは三体の魔族。


 魔族化した勇者アレックスパーティーだった。


 ◇


「なっ? アレックス⁉」


 まさかの知り合いが魔族化していた。

 思わず声を上げてしまう。


 動揺しているオレの前に、ザムスさんが立つ。


「ハリト、気をつける。あの三人は既に“魔”に飲まれている」


 急激な魔の瘴気を受けると、人は魔族化すると言われている。

 アレックスたちは魔族化してしまったのだ。


 だが耐性が高い勇者パーティーが魔族化したなど、今まで聞いたことはない。

 一体、ここで何が起きたのだろうか?


『うーん? 最高の気分だな、魔族化は? なって良かったぜぇえ!』


 魔族化アレックスが口を開く。

 声の雰囲気は人の時と同じだが、明らかに人ざらぬ声だ。


 そんなアレックスに対して、ザムスさんが鋭い言葉をかける。


「その言葉……なるほど。自分から魔族化したということか、お前らは?」


『ああ、そうだぜ! あの方は強大な力を、オレたちに与えてくれると、言ってくれたからなぁ! 魔族化しない方が愚かだぜぇえ!』


 ザムスさんの指摘は的中。

 アレックスたち三人は、自らの意思で魔族化したのだ。


 でも、どうして、こんな場所で魔族化を?

 というか何故、アレックスたちは聖山にいたのだ。


 ザムスさんは相手を牽制しならが、情報を仕入れていく。


『まったくこんな辺ぴな場所に任務できたが、とんだ拾いもんだったな、この力はよぉお!』


「なるほど。その言い分だと、使命を受けて、この聖山に調査に来たのか、お前たちは? だが魔の誘惑を受けて、屈して魔族化した……という、ところか?」


『ああ、正解だぜぇ! こんなクソ山にわざわざ来てみたら、なんと魔への入り口があったのさ! ここでオレ様たちは“あの方”の声を聞いたのさ! この偉大な力を与えてくれた声を! だから聖山の封印を破壊して、オレ様たちはこの力と、魔物の軍勢を授かったのさ!』


 なんと、聖山の封印を、アレックスたちが壊していたのだ。

 しかも、あの魔物の大軍を操っていたのは、こいつらだったのか⁉


「なるほど。そういうことか。だから魔物の大軍は、ムサスの街に進軍してきたのか。おおかたハリトと、オレたちを狙って逆恨みをしたのだろう?」


『当たり前だろう! このオレ様を、コケした奴は許さねえ!』


 そうか……だから魔物の大軍、は一直線にムサスに向かってきたのか。

 魔族化アレックスに、強引に進軍させられていたのだ。


「だが頼りの魔物の大軍は、すでに全滅したぞ。降参しろ」


『はぁ? 何を言っているだ、お前⁉ あんな雑魚の集団がいなくても、オレ様たち三人の力だけで、最初から十分だのさ! 今から見せてやるぜ!』


 ――――あれは、まずい!


 魔族化アレックスが黒い剣を、振るおうとしている。

 明らかに危険な攻撃の初動。


 直後、アレックスが攻撃を放ってくる。


『死ねぇええええ! 【黒炎斬】んん!』


 魔族系の剣技を発動。


 ゴウォオオオオオオオ!


 漆黒の巨大な斬撃が、オレたちに迫ってくる。


 これはマズイ!

 オレは意識を集中、即座に魔法を発動。


「いくぞ……【対魔防御】!」


 シュイーーーーーン!


 オレたちの周囲に、光の防御壁が展開。

 漆黒の巨大な斬撃と、正面から衝突する。


 ドッッガァーーーン!


 凄まじい衝撃波が襲ってくる。


 何とか防御はできた。

 後ろの皆には怪我はない。


 だがギリギリのところだった。


 必死なオレたちを見て、魔族化アレックスは高笑いを上げる。


『はっはっは……! 見たか、オレ様の偉大な力を! この力さえあれば、勇者のクソみたいな力は不要だぜぇ! ここまでお前たちを皆殺しにして、そのあとはムサスの街のクソ野郎どもの皆殺しだ! その後は王都に行って、クソ国王と他の奴らも血祭りにあげてやるぜぇえ!』


 アレックスは既に人としての正気を、失っている。

 魔族化したことによって、負の感情が前面に出ているのだ。


 その言葉を聞いて、女領主レイチェルさんが悲痛な声をあげる。


「ム、ムサスの街が……このままでは……」


 魔族化したアレックスの力は、尋常ではなかった。

 辺境の小さな街は一瞬で、瓦礫と化してしまうであろう。


 領主としてレイチェルさんは、絶望に襲われていたのだ。

 そんなレイチェルさんに、ザムスさんが声をかける。


「気を強く持て、レイチェル。ここでアイツ等を倒すぞ! 街を守るためにも!」


「ええ、分かっているわ。でも、どうするのか、ザムス⁉ アイツは普通じゃないわ! ドラゴンどころの話じゃないのよ⁉」


 レイチェルさんが悲痛な声を出すのも、無理はない。

 魔族化アレックスの圧力は凄まじい。


 更に後ろに魔族化エルザと、魔族化ウルルも控えている。

 普通に考えたらSランクパーティーか、他の勇者パーティーの力が必要なのだ。


「そうだな。正直なところオレにも自信はない。だが、うちにも“規格外”の奴はいる」


「あっ……そうだったわね。忘れていたわ」


 二人の視線が、オレに向けられる。

 期待の眼差しだ。


「えっ……オレですか?」


 まさかの視線に、オレは思わず声を上げてしまう。

 ザムスさんは訪ねてくる。


「ああ、そうだ。魔族化したあいつを相手にいけそうか、ハリト?」


「えーと、さっきの感じだと、防御は何とかなると思います。でも皆さんの攻撃の強化は、やってみないと分かりません」


 何しろ魔族は、異常なまで耐久性が高い。

 特に対魔法防御は、ドラゴンの数倍。

 どうなるか試してみないと、オレも分からないのだ。


「そうか。だが防御だけでも有り難い。頼むぞ、ハリト!」


「はい!」


「サラとマリナも聞いていたな? 全力でいくぞ!」


「オッケー、ザムス! エルザとウルルへの遠距離攻撃は、私たちに任せて!」


「はい、です、兄さん。でも……魔族化した勇者と、規格外のハリト君に挟まれての戦い。嫌な予感しかしませんが、私も全力を尽くします」


 こちらの戦術は決まった。


 剣士であるザムスさんとレイチェルさんが、魔族化アレックスを攻撃。


 マリナとサラは遠距離攻撃で、相手の後方の魔術師エルザと神官ウルルを攻撃。


 オレは味方全員を支援魔法で、全員をサポートしていく作戦だ。


『ギャッハッハハ! オレ様たちに立ち向かうつもりなのか⁉ いいだろう、遊んでやるぜぇえええ!』


 こうして魔族化した勇者パーティーとの戦いが、幕を上げるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る