第27話支援魔法、発動

 渓谷での迎撃戦は、佳境に突入。

 大鬼オーガの群れが迫ってきたのだ。


「オ、大鬼オーガだと……」


「し、しかも、あんなに沢山……」


 オレの周りの集結軍は、声を失っていた。

 何しろ大鬼オーガは単体でも、強力な魔物。


 体長は三メートル以上で、半裸で鬼のような凶暴な顔。

 手に丸太のような棍棒で、家すらも吹き飛ばす攻撃力。

 未熟な冒険者や市民兵は、何人集まっても敵わない相手なのだ。


 そんな悲痛な陣内で、ザムスさんが吠える。


「怯むな! ここが正念場だぞ!」


 怯えている仲間に声をかけていく。


「「「うっ……でも……」」」


 だが、集結軍の士気は高まらない。

 この大鬼オーガの群れを退けたとしても、魔物はまだ半数以上も残っている。


 特に大多数を占める市民兵が、及び腰。

 不安と恐怖が、陣内に広まっていたのだ。


 そんな光景にザムスさんが気付く。


「ふう……仕方がない。レイチェル、そろそろ、アレと使うぞ」


「分かったわ。総員、衝撃に備えて!」


 ザムスさんとレイチェルさん。

 何やら大作戦を実行するらしい。


 いったい何だろう?

 ドキドキしてきた。


「サラ、準備はいいか?」


「はい、兄さん。心臓が張り裂けそうになりますが、今は街のために私も覚悟を決めておきます」


 何やらサラも準備をしている。

 いったい、どんな壮大な作戦が始まるんだろうか。


 そんな時、オレに向かって、ザムスさんは声をかけてくる。


「さて、ハリト、少し早いが出番だ。サラの攻撃魔法に支援魔法を頼む」


「えっ? オレの出番ですか⁉ はい、もちろん!」


 まさかの御指名。


 でも嬉しい。

 ようやく役に立つ時がきたのだ。


 さて、いくぞ。

 オレは真剣を集中していく。


 よし。

 今回は相手の数が多いから、張り切っていっちゃおう!


「サラ、先に発動していいよ! 後かけ支援魔法を発動するから!」


「えっ⁉ 支援魔法を後から追加できるんですか、ハリト君は⁉ わ、分かりました、では先に行きます……【麻痺】!」


 サラが攻撃魔法を発動。

 前回の盗賊団と同じ、相手を無力化する魔法だ。


「よし、いくよ……【探知】&【追尾】&【魔法全強化】!」


 同時に三個の支援魔法を発動。

 発射されたサラの魔法を、オレは強化する。


 ビュュイーーーーーーーン!


 サラの杖から発射された、一本の攻撃魔法の光。

 それは数百以上に膨れ上がり、天に昇っていく。


 直後、雷光のように、前方の大地に落ちていく。


 ジャッシャーーーーーン!


 ビリビリビリビリビリビリビリビリ!


 目の前に迫っていた、大鬼オーガの群れに命中。

 全身を痙攣けいれんさせながら、バタバタと倒れていく。


 よし、これで相手を無力化できたぞ!


 ザムスさん、今です。

 柵から出ていって、止めを刺しましょう!


「ああ、分かった、ハリト。全員、突撃だ!」


「「「おーーー!」」」


 連合部隊は雄叫びを上げて、突撃していく。

 指一本も動かせない大鬼オーガを、確実に仕留めていく。


 ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ! ズシャッ! 


 ふう。

 なんとか全ての大鬼オーガを仕留めることに、成功したぞ。

 強敵を倒して、集結部隊の士気は高まる。


「なぁ、あのサラって子の魔法、凄かったな!」


「ああ、そうだな! よし、この戦法なら、この後の第四波以降も、いけるじゃないか⁉」


「よし、魔石を集めて、柵に戻るぞ!」


 サラの攻撃魔法を、誰もが絶賛している。

 そんな中、レイチェルさんがオレに近づいてくる。


「ハリト……相変わらず規格外の支援魔法だったな。その調子で、第四波以降も頼んだぞ!」


 有り難い言葉をかけてもらった。


 でもレイチェルさんは何か勘違いしている。

 訂正しておこう。


 あのー、あと魔物の群れは攻めてこないですよ?


「ん? それは、どう意味だ? ん? ま、まさか……」


「はい、レイチェルさん。さっき一撃で残りの魔物を全て、麻痺させてあります!」


 今回の支援魔法は、ちょっと奮発した。


 探知魔法で認識できた魔物は、全てロックオン。

 サラの麻痺の攻撃の数も、その分の数だけ増やしていた。


 だから魔物は一匹も残っていないのだ。


「なっ……なっ……あの一撃で、数百の魔物を戦闘不能にしたのか⁉」


「はい。えーと、聖山に残っていた魔物も、ロックオンしておきました。なので正確には1928体の魔物を、麻痺させあります。麻痺時間は一週間ですが、念のために止めを刺しに行きましょう!」


「あっ……ああ……」


 ん?

 総大将のレイチェルさん、何やら様子がおかしい。

 オレの説明が分かり辛かったかな。


 こんな時はザムスさん、お願いします!


「レイチェル、元気を出せ。あまり深く考えすぎるな」


「ええ……ありがとう、ザムス。でも、でも、もしかしたら、今回は最初からハリトが、一人だけでも全て解決できた? そうと思うと、私の心が……うっ……」


「その件に関しては、考えないようにしよう。とにかく今は全ての魔物を、倒すのが先決だ」


「ええ、分かったわ……ふう。よし、全軍、進軍するぞ! これより全ての魔物に止めを刺しにいくぞ!」


「「「お、おおー⁉」」」


 連合部隊は雄叫びを上げる。

 でも誰もイマイチ分かっていない。


 だが士気が高まり、全員で進軍していく。

 渓谷を直進していく。


 よし、オレたち《東方の黄昏たそがれ団》も後れをとらないようにしないと。


 ん?

 だがサラの様子がおかしい。


 サラは先ほどから立ったまま、硬直している。

 ザムスさんに担がれていた。


 えっ……もしかして麻痺の攻撃を、自分の受けてしまったのだろうか⁉


「いや、サラは大丈夫だ。ただ現実を直視できずに、魂が抜けているだけだ。さぁ、オレたちも行くぞ!」


「あっ、はい?」


 よく分からないけど、サラは精神的なショックを受けているらしい。

 とりあえずザムスさんに任せておくことにした。


 オレたち連合部隊は魔物に止めを刺しに向かう。


 ――――その後の討伐戦は、けっこう楽な仕事だった。


 道中で麻痺して転がっている魔物の群れを、ひたすら全員で止め刺していく。


 一応、オレの支援魔法も発動。

 全員の【武器強化】と【体力強化】を強化しておく。

 これで武器の切れ味と、体力の消費の心配がなくなった。


 あと全員の食糧や重い装備品、回収した魔石と素材は、オレが収納で持ち歩く。

 全員に【体力強化】もかけてあるので、スムーズな行軍が可能だ。



 後は単純な作業の連続。

 オレの探知魔法に従って、魔物の群れを全て探していく。

 全員で止めをしていく仕事だ。


 そんな光景を見ながら、サラは「うっ……これが全て私の……ハリト君の……うっ……」と頭を抱えていた。

 でも一人で歩けるようになったのです、大丈夫そうだ。


 ――――そのまま連合は聖山まで進軍していく。


 かなり危険度が高い魔物が、聖山にはいた。

 でもサラの麻痺攻撃のお蔭で、全部置きもの状態になっている。


 道中と同じように、止めを刺していく単純作業だ。


「こ、こんな危険度の高い魔物まで、私の……うっ……」


 サラは聖山でもダメージを受けていた。

 あと集結軍の皆も、だんだんと騒然としていた。


 動けない危険度の高い魔物を、ひたすら止めを刺していく。

 自分たちが何をしているのは、もはや分からなくなってきたのだ。


 ――――そんな行軍に終着点が訪れる。


 聖山の最深部に、近づいてきたのだ。


「皆さん、止まってください! この先に、まだ動ける魔物がいます!」


 探知に魔物を発見した。

 オレは全員に後退を提案する。


「ここから精鋭部隊で行った方がいいです、ザムスさん」


「そうか。それなら選抜していくぞ」


 選抜部隊は《東方の黄昏たそがれ団》と、レイチェルさんの合計五人となった。


 残りは聖山を降りて、ムサスの街へと戻っていく。

 何かあったら、遠距離通信の魔道具で連絡することにした。


「よし。それは前進するぞ!」


 ザムスさんが先頭になり、更に聖山を進んでいく。

 目指すは動ける魔物がいる最深部。


 今までとは違い、全員の緊張感が高まる。


 そんな中で、レイチェルさんが訊ねてきた。


「ハリト。危険な魔物か、どんな種類か分かるのか?」


「えーと……サラの麻痺が効いていないみたいなので、前回のドラゴンよりも、かなり危険ですね」


「なんだと⁉ ドラゴンよりも危険な魔物だと⁉」


「あっ、いました、アレです!」


 聖山の最深部に、三体の魔物がいた。

 人に形は似ているが、明らかに人ではない。


 ぞくに言う“魔族”という種類の魔物だ。


「ん? あの三匹は?」


 魔族の顔の見覚えがあった。

 つい数日前に騒動を起こした三人に、よく似ていたのだ。


「ア、 アレックス⁉」


 なんと魔族……魔族化していたのは勇者アレックス一行だったのだ。

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