第26話迎撃戦 第一幕

 渓谷に魔に892体の魔物が到達。

 ムサス連合隊との戦いが幕を開けた。


 ◇


 魔物の先頭を駆けてくるのは灰色狼グレー・ウルフなど、足の速い魔物だ。

 ザムスさんはギルドメンバーに指示を出す。


「弓矢隊、攻撃、開始!」


「「「おう!」」」


 弓を持つ冒険者たちは、一斉に弓矢を放つ。

 ザムスさんとマリナも自ら率先して、弓矢を放っていく。


 ヒュン! ヒュン!  ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 無数の矢の雨が、魔物に襲いかかる。


 グシャ! グシャ! グシャ!


 相手は防御も回避をしていない。

 面白いように矢が突き刺さっていく。


 隣ではレイチェルさん率いる正規軍も、弓矢を放っていた。

 かなりの数の魔物を仕留めている。


「まだまだ、来るぞ! 第二射、第三射、いくぞ!」


 魔物死骸を乗り越えて、次々と新たな魔物が突撃してくる。

 味方の死に、相手は恐れる様子もないのだ。


 ヒュン! ヒュン!  ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 グシャ! グシャ! グシャ! グシャ!


 ヒュン! ヒュン!  ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 グシャ! グシャ! グシャ! グシャ!


 数が揃った弓矢は、集団で凄まじい効果を発揮する。

 渓谷はあっとう間に、魔物の死骸で埋まっていく。


「ちっ、次が来るぞ! 大きいぞ!」


 ザムスさんが思わず舌打ちする。

 岩猪ビッグ・ボア……巨大な猪の集団が、迫ってきたのだ。


 子馬ほどの大きさで、表皮が岩のように硬い魔物。

 遠距離の弓矢では、それほど効果は薄い相手なのだ。


 ヒュン! ヒュン!  ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 グシャ! ガキン! ガキン! グシャ!


 予想通り、弾かれてしまう矢が出てきた。

 マリナのように専門職じゃないと、あの表皮は矢で貫通できないのだ。


 ザムスさんとレイチェルさんは、すぐさま次の戦術に移行する。


「槍隊、前に!」


「無理はするなよ! 構えているだけでいい!」


 次に前線に出てきたのは槍隊。

 丸太で作った柵から、鋭い槍先を突きだしていく。


『ブォオオオン!』


 岩猪ビッグ・ボアが吠えながら、丸太の突撃してくる。


「「「はぁああ!」」」


 槍隊は踏ん張りながら、相手を迎え撃つ。


 グュシャ! ズシャッ! ブフゴー!


 見事に鋭い槍先が、岩猪ビッグ・ボアを捉える。

 魔物の悲鳴が、渓谷に鳴り響く。


 ドスン! ドスン!


 そんな槍先を掻い潜り、無数の岩猪ビッグ・が丸太の策に到達してしまう。

 だがザムスさんは冷静に指示をだす。


「魔術師隊、向かい撃て!」


「「「はい!」」」


 サラたち魔術師隊が、攻撃魔法を発動。

 動けない岩猪ビッグ・ボアに止めを刺していく。


「よし、このまま近くの魔物から仕留めていくぞ!」


 女領主レイチェルさんも部下に、指示を出していく。

 正規兵と市民兵は柵の内側から、必死で魔物に攻撃を加えていく。


 魔物はかなり多い。

 だがこちらには間合いの長い武器と、戦術という英知があった。

 一方的な攻撃によって、魔物を仕留めていく。


 気が付くと、第一陣の魔物は全て倒してしまう。

 死骸は粒子となり、大地に吸収されていく。


「よし! 今のうちに魔石と矢を回収するぞ! 見張り班は、頼むぞ!」


 魔物を倒すと、必ず魔石を落とす。

 魔術師の魔力回復も出来るので、今回の戦いでは回収は必死。

 矢も長期戦は補充が必要。


 体力が残っている者たちが、柵から出て回収していく。

 今のところ待機を指示されていたオレも、手作業で魔石と矢の回収を手伝う。


 回収しながらザムスさんと会話する。


「ザムスさん、お見事です! なんとかイケそうですね!」


「そうだな。今のところ相手は、危険度E以下の雑魚ばかりだからな」


「そう言われてみれば、たしかに。油断はできませんね」


 オレの【探知】によると、もう少しで第二陣が到達する。

 反応は先ほどよりも、少し大きい。

 おそらく危険度E上やD下が、いるかもしれない。


「ちなみにオレの出番は、もう少し後ですかね?」


「そうだな。お前の支援魔法は奥の手だ。それに強力すぎて、渓谷ごと破壊しかねんからな」


 そんな話に、近くのいたサラが混じってくる。


「そうですよ、ハリト君。前回のドラゴン戦のように危険な竜巻化でもされたら、私たちまで吹き飛んでしまいますから」


「あっはっはは……面目ない」


 サラとザムスさんの指摘は正しい。

 力加減の出来ないオレは、こうした集団戦の攻撃強化が苦手。


 更に女弓士マリナも話に混じってくる。


「そんな落ち込まないでよ、ハリト。後で期待しているか」


「ありがとう、マリナ。とりあえず作戦通り、防御系の魔法で頑張っておくね」


 防御系の支援魔法なら、渓谷に被害を出す心配はない。

 丸太の柵や陣地の強化に、目を配っておくことにする。


 そんな時、見張り役の声が響き渡る。


「第二陣が来るぞ! 子鬼ゴブリンの大軍だぞ!」


 次に迫ったてきたのは人型の魔物。

 武器で武装した子鬼ゴブリンだった。


「ちっ、弓矢持ちもいるな」


 遠目に観察しながら、ザムスさんが舌打ちする。

 敵の弓矢は厄介だ。


 何しろ矢は、丸太の柵を超えてくる。

 味方に被害が出る危険性があるのだ。


「あのー、ザムスさん。オレの方で、敵の矢は防御しておきましょうか?」


「ん? 出来るのか、ハリト?」


「はい、支援魔法で敵の飛び防具を、“少しは”無効化できますので」


 防御系なら、味方に被害を出す心配はない。

 自分が出来ることを提案する。


「そうか。それなら頼む」


「はい! 分かりました」


「うっ……ハリト君の“少しは無効化”ですか……とんでもない無効化がきそうなので、今から心の準備をしておきます、私は」


 こうして第二ラウンドの戦いが、幕を開ける。


 子鬼ゴブリン部隊は先ほどの魔物とは違い、知恵を使って攻めてきた。

 まずは弓矢や投石で遠距離攻撃してきた。

 数にものを言わせて、攻めてきたのだ。


 だが作戦通り、オレは支援魔法を発動する。


「えーと、【遠距離物理攻撃防御】! 【支援魔法広域化】!」


 ビュイーーン! ブワーーン!


 無事に支援魔法を発動できた。


 集結軍の頭上に、半透明な防御壁が展開される。

 物理的な遠距離攻撃を、少しだけ防御できる魔法だ。


 ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! ヒュン! 


 子鬼ゴブリンから豪雨のような矢と、投石が飛んでくる。

 直撃したら危険な遠距離攻撃だ。


 ガキン! ガキン! ガキン! ガキン!ガキン! ガキン!ガキン! ガキン!


 だが防御壁は無事に、効果を発動。

 全ての矢と投石を、跳ね返していく。


「「「な、なんだ、これは……?」」」


 連合部隊に動揺が走る。

 いきなり敵の攻撃が無効化されたので、混乱しているのだろう。


「あっ、その防御壁は、こちらかの矢は通ります。なので攻撃しても大丈夫ですよ!」


 混乱している人たちに、大声で伝える。

 反撃しても大丈夫だと。


 レイチェルさんは、すぐさま部下に指示を出す。


「あの支援魔術師の言うことを信じろ! 子鬼ゴブリンどもを射殺せ!」


「「「はっ!」」」


 おお、ナイスタイミングです、レイチェルさん。

 お蔭で正規兵が反撃を開始。

 見事な弓攻撃で、一方的に子鬼ゴブリンを倒していく。


 一方、冒険者ギルドメンバーも負けてはいない。


「ハリトに負けないように、私たちも頑張るわよ!」


「「「おう!」」」


 マリナは弓矢隊に指示を出し、ギルドメンバーも斉射していく。

 一方的に子鬼ゴブリンを倒していく。


『ギャっ⁉』


『ギャルワァア!』


 今度は子鬼ゴブリンたちが混乱していく。

 何しろ自分たちの遠距離攻撃は、見えない壁によって完全に通じない。

 逆に一方的に遠距離の攻撃を、受けてしまうのだ。


『ギャルワァア!』


 混乱したら子鬼ゴブリンは、やみくもに突撃してくる。

 その隙をザムスさんは見逃さない。


「よし、向かえ討つぞ!」


「「「おう!」」」


 丸太の前に押し寄せる敵を、冷静に迎撃していく。

 さすがAランク冒険者なザムスさんだ。


 そのまま第二陣の戦いは、一方的に進んでいく。


 気が付くと渓谷に残ったのは、子鬼ゴブリンの死骸と魔石だけになる。


「よし! 今のうちに回収するぞ! 見張り班は、頼むぞ!」


 体力が残っている者たちが、柵から出て回収していく。

 またオレも手作業で魔石の回収を手伝う。


「いや、皆さん、今回もお見事でした!」


 集合軍の皆に声をかけていく。


 でも皆の反応がおかしい。

 オレのことをビビりながら、なんか避けている。


 アレ、もしかして先ほどの防御壁、皆には不評だったのかな?


 そんな落ち込んでいるオレに、女領主レイチェルさんが声をかけてくる。


「いや、それは違うぞ。みんなは慣れていないから、戸惑っているのよ、ハリト」


「えっ、戸惑っている? 何にですか、レイチェルさん?」


「規格外の支援魔術師に対してよ。だから気にしないで、この後も頼んだわ、ハリト」


「えっ? あっ、はい。精いっぱい頑張ります!」


 何かよく分からないけど、レイチェルさんに期待されている。

 これなら第三陣も頑張ろう。


 さて、ザムスさんたちの方に戻るか。


 連合部隊は今のうちに、魔法による体力回復や、矢の補充をしていた。

 魔石や武器の予備は、今回は十分にある。


 このままのペースで戦っていけば、何とかなるだろう。


 ――――だが、そんな時だった。


 見張り役の悲痛な声が、渓谷に響き渡る。


「第三陣くるぞ! くそっ! 大鬼オーガの群れだ!」


 大鬼オーガは危険度C下。

 今までの雑魚の魔物とは、強さのレベルが違う。


 ムサス連合部隊は最大の危機に、見舞われるのであった。

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