第25話迎撃陣
勇者アレックス一行を論破していから、数日後。
ムサスの街が慌ただしくなる。
近隣の聖山に異変が発生。
魔物が溢れて出しているのだ。
ムサスの街はすぐさま臨戦態勢に入る。
892体の魔物の迎撃戦の準備していた。
◇
領主の館での会議、翌日になる。
オレたち《東方の
来ていたのは《東方の
「よし、陣の整備を急げ!」
「「「はっ!」」」
女領主レイチェルさんとムサス守備兵と、市民兵も一緒。
あと冒険者ギルドのメンバーもいた。
ムサスの街の戦力のほとんどが、この場所に集結。
892体の魔物の大軍を、迎え撃つ準備をしているのだ。
誰もが忙しそうに、迎撃の準備をしている。
一緒に作業しているザムスさんに、オレは声をかける。
「あのー、ザムスさん。本当にここで迎撃するんですか? 街の城壁の方が、良かったんでは?」
「ムサスの街の防御力は低い。今後のことを考えたら、ここが最適だ」
「あっ、たしかに……」
ムサスの街は一応、城壁で周囲を防御している。
でも王都のように立派で、強固な城壁ではない。
身の軽い魔物なら、ひとっ飛びで乗り越えてしまえる程度しかない。
だから街から離れたこの場所に、ムサス連合部隊は陣を敷いているのだ。
「それに大軍を迎え撃つのなら、地形的にここが有利だ」
「そう言われてみれば、たしにか!」
オレたちがいま陣取っているのは、狭い渓谷の入り口。
荷馬車が二台通れるくらいの幅しかなく、両側は険しい断崖に絶壁になっている。
たしかに大軍を迎え撃つには、ここが最適だろう。
「魔物の動きは、どうだ、ハリト?」
「えーと、真っ直ぐ、こっちに向かってきています」
オレは【探知】の魔法で、前方の広範囲を索敵。
縦に長い赤い点の集団……892体の魔物が、真っ直ぐこちらに向かってくる。
あと数時間で、渓谷の向こう側の入り口に、魔物の先陣が押し寄せてくるだろう。
「そうか。読み通りだな」
ザムスさんとレイチェルさんで、今回の作戦を立てていた。
聖山からムサスの街まで、基本的には一本道。
最終的にはムサス渓谷を通っていくしかない。
だからこの有利な場所に、連合部隊は陣を敷いているのだ。
ザムスさんと話をしていると、サラがやってきた。
「兄さん。あっちの陣の補強も終わりました」
「ご苦労だ、サラ。あまり魔力は使いすぎるな。これからが本番だ」
「はい、そうですね。魔石で魔力を回復しておきます」
魔物を倒すと手に入る魔石は、術者の魔力を回復することも可能。
《東方の
必要に応じて、魔法使いのサラに手渡している。
「そういえばハリト君が魔石で魔力を回復しているところを、見たことがないですね?」
「えっ、オレ? そう言われてみれば、たしかに。オレは今まで魔力が、欠乏したことが無いかな?」
「えっ……一度もですか⁉ あんなに凄い支援魔法を、連発で使ってですか⁉」
「まぁね。オレは基本的に
オレは《弱》以外の強度でも一応、支援魔法は使える。
でも魔法は強度を上げていくほど、消費魔力も増えていく。
そして精度の低い魔法は、その分だけ無駄な魔力ロスも多い。
だから自分が得意な《弱》を好んで使っているのだ。
「な、なるほどです……ハリト君の基準は規格が違うので、私は《中》で頑張っていきます」
「うーん、そうだね。人の好みと得意は、それぞれだからね」
そんな魔法の話をしていると、女弓士マリナもやってきた。
「ザムス。あっち罠も設置も終わったわ!」
「ああ、ご苦労。後は待機して、備えてくれ」
「あいよ。あれ、ハリトも休憩中?」
「うん、そうだね。ほら、オレはやり過ぎちゃうから、しばらくは待機なんだ」
今回オレの出番はまだない。
ザムスさんから『お前が陣と罠を作ると、全てが狂う。魔物が見えてくるまで待機』と釘を刺されていたのだ。
「あっはっはは……そっか。たしかにハリトの魔法は支援系だから、戦いが始まるまで出番がないね。でも始まったら期待しているよ」
「ああ、任せて、マリナ! オレ、頑張っちゃうから!」
「マリナ、言い過ぎです。ハリト君が頑張りすぎると、とんでもないことが起きますよ! あとハリト君も発動前には一応、確認してください。私たちパニック状態になってしまうので!」
「あっはっはは……そうだね」
オレの支援魔法は、他の人と少し違うらしい。
だから迂闊に使わないように、いつも皆に言われている。
前回のドラゴン戦の直後のような、辛い空気を味わうものオレは嫌だし気をつけよう。
そんな中、マリアとサラが雑談をする。
「でも、どうして魔物の群れは、ムサスの街を一直線に目指しているの?」
「たしかにマリナの指摘通りですね。いくらは近隣に集落がないとはいえ、ハリト君の探知の感じだと、異様ない行動原理で進んできていますからね?」
マリナとサラが話していることは、ムサス連合部隊の全員が思っていること。
何かの統一された命令で、魔物の大軍が進軍してくるのだ。
そんな会話にザムスさんが入ってくる。
「その辺の調査は後だ。まずは魔物の大軍を、ここで潰すぞ」
「「はい!」」
ちなみに今回の作戦は単純だ。
狭い渓谷に、丸太で迎撃用の柵を設置。
結構頑丈で何重に敷いているので、魔物の大軍もある程度は止められる。
その間にムサス連合部隊は、弓矢による遠距離攻撃。
サラたち魔術師も魔法で攻撃。
またマリナたち弓士や狩人が設置した罠でも、魔物の数を減らしていく。
今回の防衛戦のために、ムサスの街は全資材を投入している。
武器や矢も徴収して、数は十分。
魔石も集めて、攻撃と回復の魔法に使う予定だ。
そんな中でも、マリナとサラの不安は尽きない。
「ふう……でも、見た感じ市民兵が、どこまで持つか心配よね?」
「そうですね、マリナ。彼らは魔物との戦闘に慣れてない兵士もいるので……
今回の連合部隊の大多数は、ムサスの市民兵だ。
彼らは普段は普通の生活をして、有事の時だけ武装して戦う。
一応は定期的な戦闘訓練も受けているが、戦闘力はそれほど高くない。
あとムサス正規兵も一応はいる。
女領主レイチェルの直属の部下で、専門的な軍人だ。
だが数はそれほど多くはない。
辺境にある小規模なムサスの街は、それほど防衛的に意味はない。
だから最低限の兵士しかいないのだ。
代わり数がけっこう多いのが、冒険者ギルドのメンバー。
この集結隊の三分の一を占めている。
街の規模に対して冒険者が多いのは、ムサス周辺は魔物が多いからだ。
高値で売れる魔石と素材を求めて、近隣から冒険者が集まっていたのだ。
そんな冒険者についても、マリナとサラは話していく。
「でも、こうして見ると腕利きは、そこまで多くないのね、ムサスは?」
「はい、そうですね。みなさん、ランクCを超えると、大きな街に行ってしまうので……」
マリナの指摘とおり連合軍には、腕利き冒険は多くない。
一番上のランクで、オレたち《東方の
次点でランクCのパーティーが二組だけ。
後はランクDとランクEが大多数だ。
一応、元ランクAのギルドマスターも駆けつけているが、初老のためにスタミナは少ない。
今回のように長期戦では、あまり当てには出来ない。
「ふう……つまり私たちが張り切らないと駄目なのね、今回は」
「そうですね。兄さんが冒険者ギルドの指揮官なので、やりやすいですのが不幸中の幸いですね」
「そうね。頑張りましょう、サラ!」
「はい。故郷のムサスのために頑張ります!」
連合軍のほとんどがムサス地方出身の者たちだ。
彼らの士気は高い。
今回、この防衛ラインが破られてしまうと、ムサスと周辺の村は魔物に襲われてしまう。
大事な故郷を守るために、全員が志願してきたのだ。
そんな女子の話に、ザムスさんが声をかけてくる。
「いい気合だな、二人とも。だが撤退の命令の時は、迷わず逃げるんだぞ。第二の策で、街に籠城もあるからな」
今回の作戦は二段構え。
この渓谷で出来れば、魔物を殲滅する。
失敗して突破されたら、すぐに退却する作戦。
その後は街に撤退して籠城。
周辺の援軍が駆けつけるまで耐えていく作戦だ。
援軍要請の早馬は、既に出発済み。
数日あれば援軍が来てくれる予定だ。
「分かりました、兄さん。でも出来たら、ここで勝負を決めたいですね」
「ああ、そうだな」
自分たちの後ろには、無防備な集落も点在している。
892体もの魔物が来たら、小さな村はひとたまりもないであろう。
だから何とか、この渓谷で魔物を殲滅したのだ。
「よし、話は終わりだ。準備するぞ」
「「「はい」」」
魔物の反応が、近くなってきた。
戦いの時間が迫ってきたのだ。
オレたちは自分の持ち場に移動。
息を飲んで待機する。
◇
そして……“その時”」が来た。
渓谷の奥の見張りは、警鐘を鳴らす。
「来たぞぉ! 物凄い数の魔物だぁ!」
ついに魔物の大軍の先発が、渓谷に到達。
こうしてムサス地方を守るための迎撃戦が、幕を開けるのであった。
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