第24話動かない会議に
勇者アレックス一行を論破していから、数日後。
ムサスの街が慌ただしくなる。
近隣の聖山に異変が発生。
大量の魔物が溢れて出していると、狩人から情報がもたらされたのだ。
◇
このまま放置しておけば、街に魔物が襲ってくるかもしれない。
蜂の巣をつついたように、ムサスの街は慌ただしくなる。
……「おい、急いで避難の準備を!」
……「でも、どこに逃げるというのだ⁉」
……「何でもいい、武器をくれ!」
……「街の城壁の補強を!」
無力な市民は、街から避難する準備を。
力ある者たちは、魔物を迎え撃つ準備をしていた。
そんなムサスの街の中、領主の館で戦力が集中している場所がある。
レイチェルの住んでいる屋敷であった。
無数の武装した兵によって、戦場の陣地が庭に敷かれていた。
……「おい、予備の武器をもっと用意しろ!」
……「近隣への要請は済んでいるのか⁉」
……「馬が足りない! 非常事態宣言で、徴収してこい!」
まさに戦時のように、兵士たちは殺気だっていた。
そんな屋敷の中で、今緊急会議が開かれている。
場所はレイチェル邸の、一番大きな部屋。
“迎賓の間”に無数の者たちが集結している。
「それでは今日の緊急会議を始めるぞ!」
集まっていたのは領主レイチェルと、街の有力者たち。
各商工ギルドの代表と、各町会の代表者。
その中にザムスさんと、オレたち《東方の
長いテーブルの上で、各代表たちによって激しい論議されていた。
……「聖山で何が起きているか、説明を、領主殿!」
……「原因は不明。見張りの者によると、凄まじい数の魔物が溢れ出している
……「この街はどうするつもりだ⁉ 避難か、残るのか⁉」
……「それを決めるのが、この会議の場だ!」
会議の内容は、大きく二つに分かれている。
質問をする市民側と、答える領主と関係者側。
あと全市民避難を推す派と、徹底抗戦を推す派だ。
長い議論が進んでいく。
そんな難しい議論をオレは、ザムスさんの後ろで立って聞いている。
でも、かなり内容が難しい会議だ。
なぜ一介の冒険者であるオレが、こんな重要な会議に参加しているのだろうか?
隣のサラに小声で聞いてみよう。
「ねぇ、サラ。どうしてオレたち、ここにいるの?」
「ん? それは私たちが、ランクAの冒険者パーティーに昇格したからです。登録場所に危機があった時は、規則によって強制的に会議に参加が、義務付けられているのです」
「あっ、そうか。でもパーティーリーダーのザムスさんだけで良くない?」
「それも規則によって決まっているのです。先日の昇格書類を見ていなかったのですか、ハリト君?」
「あっ、あれか……ごめん」
「ふう……やっぱりですね。私たちに議決権はありませんが、発言権はあります。何か緊急な時は、挙手して発言できます。まぁ、私たちが発現することは、無いと思いますが」
「あー、ですよね。それじゃ、静かに聞いておくね」
だいたいの情報は聞けた。
つまり何も言わずに黙って聞いておけ、ということなのだろう。
なかなかランクAの冒険者パーティーも難しい立場だ。
(それにしても聖山か……そんなモノがムサスの街の近くにあったんだ……)
会議の話によると、この街の近くに“聖山”という場所があるという。
徒歩で一日くらいの場所。
何もない場所だが、昔から魔力が集まりやすく、“聖山”と呼ばれていたらしい。
でも数日に事件が起きる。
聖山で無数の魔物の群れを、地元の狩人が発見。
ムサスの街に報告。
冒険者ギルドのCランクパーティーが討伐に行った。
しかし報告の数倍の魔物が、聖山に溢れかえっていた。
そのため冒険者パーティーは大急ぎで撤退して、領主に報告。
今日の緊急会議となる。
ちなみにムサスの街の領主レイチェルさんだけど、街の運営は協議会によって行われている。
商工ギルドの代表と、町内の代表者で今回のように決定しているのだ。
――――それで話は戻る。
住民の避難か、徹底抗戦かでもめているのだ。
議長あるレイチェルさんは、まとめるもの大変そうだ。
あー、早く終わらないかな、この不毛な会議。
とりあえず魔物が増えすぎる前に、数を減らしていった方がいいと思う。
あと非戦闘員は退避がいいかな。
家や財産も大事だけど、命が何より大事だからね。
うーん、まだ会議が終わらないな。
本当に会議が不毛で、更に長くなりそうな感じだ。
よし暇だから、聖山の様子でも確認してみよう。
無詠唱で魔力を抑えて……【広範囲探知】!
ピコーン。
よし、聖山方面の魔物を探知したぞ。
うっ……これは酷いな。
聖山らしき中心部は、物凄い魔物の密集地になっている。
小物がほとんどだけど、魔物の数は千以上。
あと大きめな魔物が何体もいる。
ん?
この中心部にいる三体の魔物だけ、やけに強力だな。
前回のドラゴンの倍くらいは強そうだ。
こいつらが原因なのかな?
――――そんな時だった。
「あっ、まずい!」
探知に異常を発見。
オレは思わず声を出してしまう。
「あっ……? みなさん?」
声を出したタイミングが悪かった。
ちょうど会議が、シーンと静まり返った瞬間だったのだ。
ジロリ
参加者の全ての視線が、オレに集まる。
ほとんどの者は、あまり気にしていない感じ。
だが数人は不吉な視線を向けている。
冒険者ギルドのギルドマスターと、女領主レイチェルさん、《東方の
その中でレイチェルさんが、真剣な顔で質問していく。
「……『まずいか』……か。どうしたハリト?」
「えっ、オレ、発言してもいいんですか?」
「ああ、構わない。発言権はあるからな」
「あっ、そうでしたね。それでは報告します。聖山に湧き出た魔物の内、約半数が……えーと、正確には892体が、このムサスの街に向かって、移動を開始しました! 到着予想時間は、この感じだと……三日後の午前中です!」
「「「なっ……⁉」」」
会議の他の参加者は、変な声を出す。
そしてすぐに嘲笑が響き渡る。
「あっはっはは……何を言いだすかと思えば、魔物が892体だと⁉」
「何を根拠に、そんな数が出てきたんだ⁉」
「ここから聖山までは、遠く離れているんだぞ⁉ どうやって分かったんだ⁉」
「しかも到着時間まで⁉ はっはっは……」
オレの話を、各代表たちは信じてない感じだ。
無理もない。
パッとしない風貌の支援魔術師が、いきなり奇怪な報告をしたのだ。
オレが逆の立場でも、同じ反応するかもしれない。
だが参加者の中でも、ギルドマスターとレイチェルさんだけは真剣だった。
ギルドマスターは席を立つ。
「レイチェル殿、私は先にギルドに戻ります。待機しているメンバーに、臨戦態勢を取らせます」
「ああ、頼む。準備が出来たら、この屋敷の庭に集結してくれ!」
「はっ!」
二人は既に臨戦態勢にはいっている。
オレの言葉を信じているのだ。
だが各代表者たちは、更に嘲笑する。
「領主殿、あんな若造な支援魔術師の話を、聞くのですか⁉」
「そんな簡単に信じては、領主として務まりませんぞ!」
「これだから若いもんは……」
今度は矛先を、レイチェルの無能さに向けている。
かなり旗印は悪い。
そんな困っているレイチェルを見て、ザムスさんが動き出す。
「おい、ハリト。今すぐ“出して”」くれ」
「えっ? 出す、ですか? 何をどこに出せばいんですか? ザムスさん?」
「先日の素材を、そこの窓の外の庭に出してくれ」
「えっ? あんな邪魔なものをですか? 庭も傷つけちゃうし、レイチェルさんにも怒られちゃいますよ?」
「いや、大丈夫だ。オレが保証してやる」
何やらザムスさんには、考えがあるらしい。
それなら仕方がない、従うことにした。
オレは会議室のベランダから、外に庭に出る。
意識を集中して、魔力を高める。
「えーと、それじゃいきます、【収納】!」
貯めこんでいた“前回の素材”を出す。
シュッ、ドーーーーーン!
直後、凄まじい地鳴りが、屋敷を揺らす。
あまりの大きさに揺れてしまったのだ。
ふう、これでいですか。ザムスさん?
でも、こんなことに何の意味が?
ん?
レイチェルさんを攻めていた各代表者の様子が、変だぞ?
みんな言葉を失って、目を点にしている。
オレが出した巨大なドラゴの素材を、誰もが凝視しているのだ。
「な……あれは……巨大なアレは……なんだ⁉」
「あ、あれは、まさかドラゴンの素材では⁉」
「まさか……そんな……というか、どうやって出てきたんだ⁉」
「まさか、さっきの支援魔術師が……出した……だと⁉」
誰もが理解できずにいた。
何か怒られそうだから、ちゃんと皆に説明してしないと。
「えーと、みなさん。これは先日オレたち《東方の
よし、これで説明は終わり。
皆さん、安心してくれたかな?
シーーーン
各代表は静かになる。
どうしたんだろう?
そんな静寂の中で、レイチェルさんが口を開く。
「これで“あの支援魔術師”の力が分かったであろう? つまり魔物892体が三日後に襲撃してくるのも事実だ。各代表者は戻って、これに対応にするべし!」
「「「は、はい!」」」
レイチェルさんの指示に従い、各代表は一斉に席を立つ。
蜂の巣をつついたよう、みんな部屋から出ていく。
そしてみんな出ていく時に、オレの顔を見ていく。
とても怖がっている感じだ。
ん?
どうしたんだろう?
そんな中、レイチェルさんが近づいてくる。
「ありがとう、ハリト。それにザムスも。二人のお蔭で何とか、迅速に魔物への対応ができそうだ」
「えっ? はい?」
「街を守るためだ。礼は無用だ。それより、魔物を迎撃する準備をするぞ、レイチェル」
こうしてムサスの街は臨戦態勢に突入。
892体の魔物の迎撃するための、戦の準備をするのだった。
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