第23話招かざる勇者パーティー

 勇者パーティーを解雇されたオレは、新しい街で謙虚に生きていくことを決意。

《東方の黄昏たそがれ団》に幼馴染マリナと共に加入して、冒険者として活動開始。


 そんなある日、ムサスの街にアレックス勇者パーティーが来た。


 ◇


 勇者アレックスは、オレとマリナを追放した張本人。

 顔を合わせて、気持ちが良いものではない。


「マリナ、宿に戻ろうか?」


「ええ、そうね」


 ――――冒険者ギルド前から、立ち去ろうとした時だった。


 ギルドから三人組が出てきた。

 アレックス勇者パーティーだ。


 ヤバイ!


 野次馬たちがざわつく。

 勇者パーティーをひと目でも見ようといるのだ。


 今がチャンスだ。

 早くここから立ち去ろう。


「ん? おい、見ろよ! 面白い二人がいるぞ!」


 しまった。

 知らないフリをしようと思ったが、先に気がつかれてしまった。


「えっ、アレックス様? あら、本当ですわ!」


「あら、本当! どこの誰かと思ったら、クズな支援魔術師のハリトと、使えない女弓士のマリナじゃない!」


 女神官ウルルと女神官エルザもいた。

 相変わらず、三人とも嫌な言い方だ。


「えっ……ハリト君とマリナ、勇者パーティーと知り合いだったんですか?」


 事情を知らないサラが、唖然としていた。

 何が起きたか、理解できていないのだ。


「ああ、少しだけな。でも今は関係ない。行こう、サラ」


 こままいたら間違いなく、サラにまで不快な思いをさせてしまう。

 オレたちは立ち去ろうとする。


「おい、今の聞いたか? 『勇者パーティーと知り合いだったんですか』だってよ! おい、言ってやりなよ、ハリト! お前とマリナは『使えなさ過ぎて勇者パーティーを追放された』ってな! あっはっはは……!」


 うん。相変わらずアレックスはダメな奴だ。

 あんな奴に関わることはない。


 さぁ、いこう、マリナ、サラ。


 ――――だがウチの女性陣の様子がおかしい。


 まずはサラが身体をプルプルさせて、アレックスに向かって叫ぶ。


「ふう……今のやり取りで、全てを察しましたよ、私は。貴方たちは『ダメな勇者パーティー』なのですね!」


「な、なんだと⁉ どういう意味だ⁉」


 見知らぬ少女から口撃をくらい、アレックスは怯む。


「当たり前じゃないですか、このハリト君を使えない支援魔術師だと言っている時点で、自分たちの無能さを、ムサスの街全体に公開しているに等しいのですよ!」


 サラは凄い剣幕だ。

 いつもの辛口が何倍にもキレている。


 それに対して女魔術師エルザが吠え返す。


「な、何を言っているのよ、あんたは! だったらハリトが有能だとでも言うの? そんな使えない支援魔術師なんて、他にゴロゴロしているじゃない⁉」


 でもサラも負けていない。


「それならお聞きします、アナタたちは勇者パーティーを名乗っているみたいですが、勇者パーティーの証はどこですか? 見たところ指定位置の首に、証を下げていませんよね? つまり剥奪か、一時はく奪をされたのではないですか? おそらくハリト君を解雇した後に調子が落ちたのではないですか? 戦闘でも思うように力を出せない感じで?」


「「「な…………」」」


 サラの指摘の前に、アレックスたち三人は言葉を失っていた。

 何も言い返せない。


 そんな中、沈黙を守っていたマリナが、口を開く。


「ありがとう、サラ。それじゃ私も指摘させてもらうわ。たしかにハリトが抜けた後は、アレックス勇者パーティーは何回も任務に失敗していたわ。私も最初は気が付なかったけど、理由は間違いなくハリトが抜けたから。つまり追放したアレックスたちの方が、最初から無能だったのよ!」


 マリナがこんなに感情を露わに怒るのは、オレも初めて見た。

 アレックスたちに対して、凄く怒っている。


 だが相手の女神官ウルルが、口を開いて反撃してくる。


「な、何を証拠にそんなことを言っているのよ? マリナは幼馴染だから贔屓ひいきしていつだけでよ?」


 すかさずマリナが反撃する。


「証拠はあるわ。この右手を見て」


「えっ⁉ あの呪いで、絶対に回復できなかった右手が、回復している⁉」


「ええ、これもハリトの支援魔法で、治してもらったのよ。《弱》で」


「えっ……そんな……」


 ウルルは言葉を失う。

 前の話ではウルルは最大魔法でも、マリナの右手欠損の呪いは回復できなかった。


 つまりウルルは完全に論破されたことになるのだ。

 そんな論破されたウルルに変わって、女魔術エルザが前に出てくる。


「さっきから一方的なのよ、あんたたちは! そんなにハリトの支援魔法が凄い訳ないでしょ!」


 そんなエルザに対して、サラが再び口を開く。


「いえ、証拠はマリナの右手だけではありません。これを見てください。ドラゴンの魔石です。私の【大風斬ハイ・ウィンド・カッター《中》】で一撃に倒しました、もちろんハリト君の支援魔法を受けて」


「えっ……そんなドラゴンを【大風斬ハイ・ウィンド・カッター《中》】で一撃だなんて、倒せる訳ないのに……はっ⁉ もしかして、昔、私たちがドラゴンを一撃で倒せたのも、まさか、ハリトが……⁉」


 エルザは何かに気が付き、言葉を失う。

 オレの顔を見ながら、顔色を悪くしている。


 そんな時、少し回復したアレックスが、再び前に出てきた。


「論破されて使えない女たちだな! たしかにハリトがいた時は、調子がよかったかもしれない! だがそれは運だ! そしにオレたちこれら、もっとデカい任務があって、ここに来た! だから今まで以上に名声を手にいれにいくんだぜ! そんな使えない支援魔術師なんでいなくてもな!」


 もはやアレックスの言っていることは、話にならない。

 ギルドから出て聞いている、ギルドメンバーたちもイライラしている。


 ――――そんな時、アレックスの背後に近づく者がいた。


「おい、誰が使えない支援魔術師だって」


「ザムスさん!」


 オレは思わず叫んでしまう。

 やって来たのは、パーティーリーダーのザムスさんだった。


「ひっ⁉」


 対してアレックスは、腰を抜かしてしまう。

 剣士として格上な相手の圧に、ビビッってしまったのだ。


「話は少し聞いていた。うちの大事な仲間をさげすむ奴らは、たとえ元勇者パーティーでも容赦しないぞ、お前ら?」


「ひっ⁉ くそっ! 覚えてやがれ!」


「あっ、待ってください、アレックス様!」


「置いていかないでよ、アレックス!」


 三人は情けない姿で、ギルド前から立ち去ろうとする。

 野次馬たちも、もはやアレックスたちの味方はいない。


「「「偽勇者め!」」」とギルドの人たちは、アレックスたちに酒をかけている。


 アレックスたちはどこかに消えていく。

 あの様子では、もはや街の中にはいられないのだろう。


 そんな雰囲気の中、誰かが叫ぶ。

 ギルドメンバーだ。


「邪魔者がいなくなったところで、飲み直しだ!」


「「「おお!」」」


 皆は冒険者に戻っていく。

 そしてギルドの併設されている酒場で、盛大な酒盛りが始まる。

 誰もが清々した顔をしていた。


 そんな中、ザムスさんがオレの声をかけてくる。


「大丈夫か、ハリト?」


「はい、オレは大丈夫です。サラとマリナが、オレのことを守ってくれたので。ありがとう、二人とも!」


 二人に向かって頭を下げる。


 先ほどはアレックス一行に対して、マリナとサラは立ち向かってくれた。

 オレのことを守ってくれたのだ。


「れ、礼を言われるまでもありませんよ。ハリト君のことを辛口で攻められるのは、私だけの特権なんですから……」


「そうね。私も大事な幼馴染で仲間だからね。礼はいらないわ、ハリト」


「二人とも……でも、ありがとう。本当に嬉しかったよ、さっきは!」


 オレは自分のことを、未熟な支援魔術師だと思っている。

 でもアレックスたちに言われるのは、さすがに頭にくる。


 だからオレのために、本気で怒ってくれた二人。

 サラとマリナには本当に感謝しかない。


「ふっ……さて、オレたちも飲み会に混ざるか、ハリト? 中でギルドの連中が、待っているぞ、お前のことを」


「えっ、あっ、本当だ? でもどうしてだろう? オレなんかために?」


「お前がムサスの街で頑張っていたことを、皆も知っているからさ。オレたちと同じで」


「そ、そうですか……それじゃ、いってきます!」


 この後の飲み会は、最高に楽しかった。


 ギルドメンバーとムサスの街について色んな話をして、美味しい酒を飲んでいった。


 もちろんザムスさんとザラ、マリナも一緒に親睦を深めたのだ。


 ◇



 ◇


 だが、それから数日後。


 ムサスの街に大事件が起きる。


 近くの“聖山”に、膨大な数の魔物が出現。


 ムサスの街に危機が迫っていたのだ。

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