第2話 白馬の『自称“神様”』降臨

 ――やってしまった……。



 ――――――と。 そう誰もが落胆し、死を覚悟した瞬間だった。



「ま、眩しい――!」


 白い光に視界を覆われ、パーティの一行は目を瞑った。


 ミネラが技を放ち――確かに命中した。


 だが――――命中した場所が羽であることやドラゴンを倒せたのかを確認できる猶予すらなく、白い光がリクトたちを包み込んだのだ。


「な、なによこれ! 何なの! ……あ、あれね! ドラゴンを倒せなくてやられる――かと思いきや白い光と共に神様が現れて倒してくれるみたいなあれね!」


「バカみたいなこと言ってる場合じゃないんですよ!」


「バカみたいって何よ!」


 ミネラとリンは顔面蒼白。だが冷静なリクトは叫ぶ。


「うるせぇお前らとにかく走れ! 何が起こってるか分からん! この光が途絶えるまでとにかく走って逃げろ! 勢い余って壁にぶつかったりするなよ!」


「はいっ!」


「い〰〰や〰〰だ〰〰! 死にたくな〰〰い! 神様が助けに来てくれるのよぉ!」


「…………うっ……」


 ミネラに対して、『いやそんなわけないだろ』と心の中でツッコミを入れるのをやめたリクトとリン。ハクマは前が見えない恐怖にさらに怯え、声も出せずに固まっていた。


 すると――



「――な、なんでわかったんだああああああ⁉⁉⁉」



 ――どこかから謎の声が聞こえた。


「なんだ誰の声だ? 冒険者か?」


「冒険者? いや白馬の王子様ね。きっとピンチの私を助けに来てくれるのよ」


「発狂する王子様がいてたまるか。それにピンチなのはお前だけじゃないからな。俺たちも視野に入れろ」


「あー聞こえない聞こえない……」


「………………ぅうぅぅうぅうううぅううぅうぅうぅうう……」


 耳を塞ぐミネラと、激しく震えだすハクマ。


 ――するとまた、



「――私は冒険者じゃなぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!!!!!」



 ――妙にテンションの高い声がダンジョン内に響き渡った。リクトは警戒するが、無論ミネラはいつも通りに、


「やっぱ冒険者じゃない? ダンジョンに来るのなんて冒険者以外いな――あ、モンスターか」


「ちがうちが〰〰う!! 何言ってんのさキミ。酷いよボクをモンスター扱いするなんて」


「じゃあ何なんだ?」



「ボクは――――神様です!!」



 姿の見えない謎の声は、声を張り上げて言った。


「ほらやっぱり神様!」


「幻覚か? それともただの変人か?」


「あ、確かにこの強い光を浴びてたら幻覚が見えてもおかしくはないんじゃ――」


「――ストップすとーーっぷ!!! ちょっと待って。幻覚じゃない。幽霊でもない。はっきり見えてるでしょ。ボクは本当に神様だよ。……で、えーと光でしょ? えーと、ちょっと待ってね。あ、これだ!! ポチッ!」


 自称神が言うと、白い光は刹那のうちに消え、一行は仲間を目視できるようになり――そして。


「ドラゴンがいない……? どこへ行った?」


 ドラゴンは、一度見つけた敵を逃さない。彼らが少し走って逃げたくらいでは、すぐに追いつかれるはずなのだが……。


「ああそれね。えっとドラゴンは光に弱かったみたいなんだよね。強い光を浴びたことによって倒れた。ボクはただ演出で光を出しただけなんだけれど……まあいいや。


「未来は変わってない? どういう意味だ?」


「ああいいのいいの。どうでもいいことだから」


 光が消えて、姿が認識できるかと思う彼らだが、自称神の姿はそこにはない。声だけが頭の中に聞こえてくる感覚で、彼らは背筋が凍った。


 ……ミネラでさえ静かだった。沈黙する彼らを見越してか、次に切り出したのは自称神の方だった。「どうしちゃったの?」と言ってから、


「まず自己紹介しとくね。ボクの名前はルイス。適当に読んでくれ」


「じゃあ……『ルイ』って呼ぼうか」


「私は……下の方を切り取って『イス』さんって呼びます」


「それなら私は、文字を入れ替えて『居留守イルス』って呼ぶわね」


「う〰〰ん最後のは良い気がしないなぁ。でもまあいいや。適当にって言ったのはボクなんだし。それでさー、ミネラ。なんでボクが神様だって知ってるのさ?」


 ルイスはミネラに問い――ミネラは当然のように答える。


「それはもうオーラが全然違いますので」


「でもボク姿見せてないんだけど……」


「え…………」


 瞬殺論破。何も言い返せないミネラ。


 ――と、その時、リンはふと疑問を抱いた。


「あのぅ、イスさんはなんでミネラさんの名前を知ってるんですか? 知り合いですか?」


「え? そんなの神様だからに決まっているだろう? ミネラとは初対面だよ。ちなみに、ボクは神だから、キミたちの名前も知っているよ。リンに、リクトに、それでハクマだろう」


「な、なんで知って……」


「怖っ……ギルドに伝えておくか、不審者がいるって」


「そ、そうですね……」


「だから不審者じゃなくて神様なんだって!!!!」


 必死な神様。――に、「ププッ」と笑いそうになるミネラ。それを何とか堪えて(顔は笑ってる)――ミネラは彼らの会話の意味が分からず突っ立っていた。


「神様でも不審者であることに変わりないのでは?」


「不審な人間が不審者なのであり不審な神様は不審者ではないんだよ!!」


「神様なんて信じられません〰〰。神を名乗る不審者〝ルイス〟ってギルドに伝えておきま〰〰す」


 意味不明な理屈を語るルイスを煽るリクト。


「頼むからやめてくれぇ!!」


「ほらほら神様なら別にやめてもらう必要ないだろ」


「だからそういう問題じゃなくてボクのプライドが……」


「いつまでやってんだ‥…それ……」


 やっと緊張が解けて口を開いたハクマ。固まった表情も解け、呆れた表情を見せる。ルイスとリクトの論争の熱が、ハクマの氷を溶かしたのだろう。


「あのぅ、2人とも何の話をしてるのよ。私にも詳しく説明しなさいよ」


 飽きたミネラがリクトを指でつつく。それにイラっときたリクトは、


「お前の頭がもう少しよくなったらなっ!!」


「ぐへっ‼ 私のが年上なのにっ⁉」


 殴られるミネラ。そして、


「あのさっ! そういえばっ! ドラゴンはどこにッッ‼ 言ったんだッッッ‼」


 目の前の光景にイライラして、言葉に合わせて大剣を振り始めるハクマ。


「ああそうだね。ボクがいちから説明してあげるよ」


「ああ、それは頼む。ドラゴンの倒し方の参考になるかもしれん」


「そ、そうですね。こんな残念なパーティでも倒せる方法が見つかるかもしれないですね!」


「い、いや……参考にはならないと思うけど……まあでも、きっとキミたちが考えもしないことだよ。……それはね――」


 ルイスは、当然のように言い放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『バッドエンド』が待っている! 星色輝吏っ💤 @yuumupt

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ