『バッドエンド』が待っている!

星色輝吏っ💤

第1話 不幸に塗れた始まりで

 ある冒険者パーティが、ダンジョンを探索していた。


 第1層――。


 ダンジョンとは人間が出現したことで地上から排斥されたモンスターたちの巣窟となった場所。地下に大樹が根を張るように広がっており、潜れば潜るほど凶悪なモンスターが棲み、危険が増していく。


 といっても、ダンジョン第5層までは比較的道が整備されていて、雑魚モンスターと呼ばれるくらいの低レベルの奴しか生息していない――というのが常識なのだが。


 そんなありふれたダンジョンの第1層で、その冒険者パーティーは…………膠着していた!


「おいおいうそだろ……」


 ――彼らは、目の前に出現した、彼らの三倍ほどの体躯を持つドラゴンに進路を塞がれていたのだ。その大変な状況にほとんど全員が言葉を失うが、その中で一人だけ楽観的な奴がいた。


「ねえリンちゃん。全員が生き延びる方法はある? ――ないわよね。わかってるわよ、ドラゴンだもの。それじゃあ次に、が生き延びる方法はあるかしら? ――あるわよね。ええきっとあるわ。だっておかしいもの。ダンジョンの第1層で私が死ぬなんてあるわけ——」


「そ、そんな方法ありませんありませんっ! 私、まだダンジョンに入れるようになったばっかりなんですっ! 魔法はほとんど使えません! 実戦経験で言えばミネラさんのほうが上じゃないですかっ!」


 ミネラとかいうクズ女に対して、杖を胸の前で抱えておどおどしている少女が言い返す。しかしミネラは両耳を塞ぎ、下手な口笛を吹く。


「ぴゅっぴゅ~。あー聞こえない聞こえないな~んにも聞こえない。誰かどうにかして〰〰!」


「………………ぁ、ぇっ……」


 騒がしいミネラ。その横ではがたいの良い男が顔を青白くして硬直している。感情をあまり表に出さないからわかりづらいが、きっと彼はドラゴンを目の前にして怯えているのだろう。


「くっ……なんでこんなところにドラゴンが……っ!」


 危機的状況に慌てふためく一行……!(一人を除く)


 そもそもドラゴンが第1層にいること自体がおかしいのだ。


 なぜドラゴンが出現したのか―—その疑問は思考を重ねるごとに増すばかりだが。


 —―だが、彼らにそんなことを考えている余裕などなかった!


 彼らが慌てている間にもドラゴンは彼らを敵とみなし、ゆっくりと歩みを進めている。


「っ…………」


 それを見たパーティの長——そう、パーティーリーダーであるリクトは、唇を嚙み、冷静に思考を巡らせていた。


 この状況にも屈しない強靭な精神——それこそがリクトがリーダーになった所以である。


 だが——リクトは残念なことにこの状況をひっくり返せるほどの頭脳を持ち合わせていなかった!


 諦めたリクトは仲間たちの顔を窺ってからこう言った。


「おいどう逃げるかどうかだけを考えろ。俺は頭良くないんだ。ハクマは何かいい方法思いつかないか?」


「………………」


 リクトが戦闘経験も多いハクマに問いかけたが、ハクマは沈黙を貫く。ドラゴンの気迫に怯え、声も出ない様子だ。


 それを見たリクトは、「チッ……ダメか」と言ってから、今度は副リーダーの方を振り向いて、


「おいミネラ。今までの失敗を生かしてできることはないか?」


「失敗を生かせるほどの失敗をしたことがないんですけど」


「そんなこと当然のように言われても困るんだが⁉」


 副リーダーであるミネラもまた冷静になっていた!


 ミネラは最初死を恐れて少し慌てていたが、すぐには死なないと分かった今、まあ大丈夫っしょ状態に陥ってしまっているのだ!


 彼女はただ、この状況をよく理解していないだけである。つまり、ただの馬鹿だったのだ!


 そんなミネラが副リーダーに選ばれた理由。それは、単なる戦闘経験だ。年齢は……秘密らしいが、彼らの中で一番のベテランなのは間違いない。


 しかしその戦闘経験というものも——酷いものだった。


 。第1層にたくさんいる雑魚スライムたちですら倒したことがない。七転八起で倒すどころか出会った瞬間敗北する。 ムゲンムゲン 起だ。


 だが——


「私に任せて。ドラゴンは羽が弱点って聞いたことあるわ」


 慣れない手つきで愛用の槍(当たったことない)を振り回しながらミネラ。


 リクトはどの口が、と思ったが今はそんな場合ではないと口を噤んだ。


 無論、ミネラもこの状況が危機だということは理解しているのだ。


 だが、戦闘数は最多でも、戦闘をして学んだことは微塵もないミネラは、第1層でドラゴンに出会うその意味を全く理解していないのだ。


 これまで何度もこの場所で死んだくせに(というかここまで来るのも初めてなくせに)、『第1層なら大丈夫でしょ』という謎の思考がミネラを支配していた。


「おいミネラ、本当に大丈夫なんだろうな?」


「そ、そうですよ。死んでも知りませんからね!」


「いや弱点分かってるから余裕よ。羽。は〰〰ね。あんなペラペラの羽に私の槍が突き刺さらないわけないわ」


「突き刺さったって倒せるとは限らないんですよ! しかも見てくださいよこの巨大な体! 接近すればあの大きい爪で即死ですよ」


 リンは必死に説得するが――


「そんなの投げればいいじゃないの」


「投げて刺さらなかったらどうするんですかっ! 刺さっても倒せなかったらどうするんですっ! 私の魔法も効かないでしょうし、リクトさんの短剣も接近しないといけないので危険です。ハクマさんも固まってしまっていますし……」


「だ〰〰か〰〰ら〰〰。私が一発で決めればいいんでしょ。私に全員の命が託されたってことでしょ。わかってるわよ私がこんなところでやられるわけないもの」


 楽観的思考。誰の言葉も聞き入れない独自の思考により、傍から見れば意味不明だが自分の中では筋が通っちゃってる理論を導き出しているのだ!


 いつものことではあるが、ミネラの『やられるわけないもの』がフラグにしか聞こえないリクトとリン。死への危機が迫っている今、死亡フラグはすぐに回避しなければならない。


「じゃあ行くわよ!」


「おいちょっと待て!」「待ってくださいミネラさん!」


 彼らの変人奇人を見るような眼差しを期待のしるしと受け取ったミネラには、誰の言葉も届かない。


 ミネラに槍の能力があるかどうかは誰も知らない。まともに戦った試しがないため、自分自身ですら理解していないだろう。


 だがミネラは『なんか冒険者っぽい』という理由で高値で買った槍を乱暴に振り回して――思いっきり叫ぶ……!


「うぉーりゃー行っくぞ〰〰!」


 そして――――ミネラは使ったことのない技名を叫び、一度も成功したことのない初心者級の技を——繰り出す!



百連突きミリオスラスト!!!」



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