第3話 青髪の女性

 逃げていると思われる女性のもとに急いで駆け寄ったフェイは、状況を尋ねた。


 「俺はあなたを助けに来た。手短に状況を教えろ」


 悠長に話している場合ではないと判断したフェイは、互いの自己紹介を省いてすぐさま状況の把握に動いた。


 「わかりました。私は父と出かけているところを盗賊に襲われて、攫われたのですが、隙を見て先程脱抜け出してここまで走ってきました。おそらく追手がきているはずです」


 これまでの事情を聴きながら女性を観察する。

 服装は高級そうなもので、髪は青く瞳はルビーのように赤く、スタイルもよい美人で年齢はフェイと同じくらいに見えた。

 おそらく彼女は貴族で、貴族が乗っている馬車が盗賊などに狙われることは少なくないので、今回も同じ例だろう。

 フェイとしてはこのまま彼女を放っておくことはできないので、すぐに街へ送ることにした。


 「事情は分かった。ひとまず街へ送るから、それまで護衛を引き受けよう。俺の名前はフェイだ」


 フェイが名前を名乗り、護衛をすると言うと女性も慌てて名乗った。


 「すみません、自己紹介が遅れました。私の名前はシオン=フィオーレと申します。これからよろしくお願いします」

 「ああ、よろしく。それで、盗賊は何人いたかわかるか?」

 「襲いにきたのは三人ですが、目隠しで馬車に運ばれたので、中に何人いたのかは、正確にはわかりませんが少なくとも一人はいたはずです」


 敵は四人で、貴族相手に物怖じせずに襲ってくるのだから、実力はあると考えたほうがいいだろう。

 過小評価して負けるよりは過大評価して戦ったほうがいい。

 彼女が逃げ出したのが先程なら、今この瞬間にも襲ってきたとしてももおかしくない。

 彼女の安全を確保するためにも、街へすぐに移動したほうがいいだろう。


 「ひとまず森で身を潜めてから、周りの安全を確保してすぐに街へ向かおう」


 すぐそばの森へ隠れれば追ってを巻きやすく、すぐに夜になるので見つけられる確率は低くなるだろう。


 「はい、それで大丈夫です。どうぞよろしくお願いいたします」


 方針が決まった二人はすぐさま移動を開始したのだが、少し遅かったようだ。


 「フィオーレ、俺の後ろに居ろ。誰かが近づいてきている、おそらく追ってだ」

 「はい、わかりました」


 もうすぐのところで森に入れたのだが、追いつかれてしまったようなので、フィオーレを自分の後ろに移動させて足音がした方向へ剣を構えた。

 敵は男性が三人、それぞれ剣、槍、杖を持っており、先手を取られる前にまとめて倒そうと剣に魔力を込めるフェイだが、技を放つ前に剣を持った男から話しかけられた。


「ちょっと待ってくれ。少し話をさせてくれないか?」


 明らかに怪しかったが、敵が何のつもりでフィオーレを攫ったのか確かめるために、少し会話をすることにした。


 「なんだ?」


 フェイが返事をすると会話ができる相手だと安堵した男が、質問してきた。


 「あんたはその女の護衛か? 襲った馬車にはいなかったと思うが」


 どうやらフェイは馬車を襲った時にいなかった人物なので、フィオーレの関係者なのか確認をしておきたかったのだろう。


 「そうだ。俺は彼女の護衛だが、お前たちは敵か?」


 フェイが肯定したとたん表情を変えた男たちは、一歩また一歩とじりじりと近づいてきた。


 「関係者じゃないなら見逃してやろうと思ったんだが、護衛ならそうはいかないな。その女を渡してもらうぜ」


 フィオーレの関係者は全て殺せでも言われているのか、フェイが護衛だと名乗った途端に殺意を遠慮なく振りまきながら三人同時に動き出した。

 もはや話し合いは不可能だと判断したフェイは、敵の動きを観察し始めた。

 フェイから見て、右から剣使い、正面から槍使い、そして左から杖を持った男が接近し始めた。


 「ライトランス」


 フェイは魔法陣を九個展開して、それぞれ三本ずつ敵に牽制のつもりで光の槍を飛ばすが、一人は槍で弾き、一人は立ち止まり土を隆起させて自身の目の前に盾を作り、一人は横に跳ぶことで回避した。

 

 「くそっ、厄介な能力者がいるな」


 ただ飛んで回避されただけならばよかったのだが、その回避速度が尋常ではなく、おそらく加速能力者だろう。

 様子見で放った魔術だったが、あっさりと対処されたことに焦るが、今の攻撃のおかげで敵の能力が少しわかったので、すぐに作戦を考える。


 今、フェイたちの選択肢は二つ存在する。

 戦わずに二人で森の中に逃げ込むか、このまま戦って三人を倒すかのどちらかだ。

 前者はまず、森にたどり着くことが難しく、仮にたどり着いたとしても追われている状態では、森に入ってもあまり意味がない。

 後者の場合はフィオーレを守りながら、貴族を襲うような相手に三対一で戦わなければならない。


「やるしかないか。ライト・オブ・アーマー」


 フィオーレと共に逃げ切れるのは確率が低いと判断したフェイは、逃げる選択肢を捨てて、能力で身体能力を強化する。

 三対一で戦えば勝機は薄いが、すぐに一人倒せば状況はひっくり返すことができる。


 「フィオーレは俺より前に絶対に出てくるな。何かあったら、大声で叫べ」

 「わかりました。あなたもお気をつけて」


 近くに他の敵がいないことを確認したフェイは、魔術師と思われる杖を持った男をまず狙った。

 残りの二人は近接主体だと考え、遠距離から邪魔をされると厄介な魔術師から倒すことにする。


 「ストーンランス!」

 「ライトガード」


 男の正面に魔法陣が三つ現れ、そこから岩の槍が射出されるが、それを盾の魔術で防ぎながら、最短距離で突き進む。


 「なんだと! ストーンランス!」


 先程よりも数を増やして、四つの岩の槍が再びフェイに向かって放とうとするが、今度は盾を出さずに突き進む。


 「ライト・オブ・アクセル!」


 移動速度を一時的に強化したフェイは、槍が射出されるより早く接近して剣を振り下ろした。

 突然の加速に対応できなかった男は、フェイの一撃を防御することができなかった。

 フェイの剣は杖使いの身体を肩から斜めに切り裂き、男から鮮血が飛び散る。

 魔術師はそのまま倒れ、意識を失ったせいで制御できなくなった土の剣は、明後日の方向に飛んでいった。

 最初にフェイたちを逃さないように三方向から攻めてきたせいで、味方の援護が遅れていたので、フェイは三人合流する前に遠距離攻撃手段を持つ男を倒すことができた。


 敵を一人倒して一息つく前に、背後から迫る気配を感じたフェイは横に勢いよく跳んで距離をとる。

 その判断は正しく、横に跳んでいくフェイの顔すれすれに剣が振り下ろされた。


 「危ないな、一瞬でも飛ぶのが遅れてたら切られていた」


 冷静に自分の状況は分析しながら、視線を自身の横に動かすと仲間を倒されたことに怒った剣使いの男がフェイを睨んでおり、すぐそばには槍使いの男が接近していた。

 だが、二人が近くで固まっているのはフェイには都合がよいので、魔力を剣に込めて放つ。


 「ライト・オブ・セイバー!」


 剣に溜め込まれた魔力を光へと変換し、その光を解き放つ。

 剣から放たれた小規模な光の奔流は、フェイのすぐそばにいた敵二人を飲み込み、日が沈みかけていて暗くなっていた荒野を一瞬、眩い光が照らす。


 だが、そんな眩い光の中から、剣がフェイに向かって迫って来ていたが、油断せず構えていたフェイはその攻撃を危なげなく躱した後、剣士に攻撃を仕掛けるが、高速移動で回避されて反対に攻撃を食らってしまう。

 傷は浅く、胸を少し切られる程度で済んだが一歩間違えば、致命傷になっていた。  

 

 「高速移動の能力か、めんどうだな」

 「こっちは仲間が二人もやられてんだ。お前を殺して、女も奪ってやるよ!」

 「ライトシールド」


 怒り狂った剣士は高速で剣を振ってフェイを攻撃してくるが、それを盾の魔術で防ぎながら、槍使いはどうなっているか確認する。

 槍使いは無傷の剣士とは反対に着ていた装備がひどく損傷しており、全身満遍なく怪我をしていた。

 本来よりもダメージを受けていることから、剣士のダメージを代わりに受ける能力だったのだろう。


 「早めに倒すことができてよかった」


 後々剣士にとどめを刺すときにこの能力を使用されていたら、反撃で倒れるのはフェイの方だった可能性が高い。

 ただでさえ、高速移動の能力の相手を倒すことは困難なのに、攻撃を肩代わりされていれば、フェイのほうが圧倒的に不利だっただろう。

 倒した槍使いのことは一旦忘れ、目の前の剣使いに集中する。


 「おらおらどうした!」


 どうすれば対処できるか考えようとするが、剣士は容赦なく攻撃を次々と仕掛けていき、フェイに考える時間を与えない。

 反撃をするがこちらの攻撃は高速移動で避けられ、反対に徐々にフェイの身体に傷が増えていき、血が流れていく。

 ライト・オブ・セイバーのような高速移動でも避けきることのできない範囲攻撃をすれば倒せるかもしれないが、先程打ってしまい溜めも少なからずある技なので、もう一度効くとは思えない。


 「どうした、どうした! そんなもんか、護衛さんよ!」


 対処できずに防戦一方になっているフェイを剣士は容赦なく追い詰めていく。

 致命傷をギリギリ防ぎながら頭を働かせた末に、勝つための方法を思いつく。


 「できればやりたくないが、仕方がない」


 もう少し時間があれば他のアイデアを思いついたかもしれないが、このままでは弱ったところを簡単に殺されてしまうだろう。

 思いついた作戦も一歩間違えれば死ぬ可能性があるが、このまま何もできずに殺されるよりはましと思うことで、覚悟を決めて作戦を実行に移す。


 「ライト・オブ・アクセル!」

 「遅い!」


 技を叫びながらフェイは正面から剣士に近づいて首を落とそうとするが、剣士の速度はフェイよりも遥かに早く、攻撃をなんなくとかわしてフェイが空ぶった隙を狙う。


 「死ね」


 速度では完全に上回れ、魔術の発動すら間に合わない状況になったが、フェイは笑っていた。

 

 「アクセル!」


 フェイは今、加速能力を発動することで剣を振り下ろされる前に、剣士の腕を掴んだ。


 「これなら加速も何も関係ないな」

 「くそっ! この手を離せ!」


 剣士は抵抗して攻撃しようとするが、腕力を強化したフェイに力では勝てず、剣を持っている方の腕をつかまれたことで反撃ができない。

 フェイはその隙を逃さず、剣士の胸を剣で一突きにする。

 剣はたやすく剣士の胸に突き刺さる。


 「この人殺しが……」


 剣を抜くと胸から血が溢れ出し、身体から力が抜けた剣士は最後にそう言い残して、倒れた。

 フェイはその様子を見届けた後、自身も倒れてしまった。

 今日は朝から任務をこなし、その後鎖男と盗賊たちとの連戦により、疲労が限界まで溜まっていた。

 そのうえ、剣士の攻撃により多くの血を流してしまったことで、立っていることすら限界だった。


 「フェイさん!」


 薄れゆく意識の中で、誰かに名前を呼ばれたのを最後にフェイの意識は落ちていった。

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攫われ少女と護衛冒険者 健杜 @sougin

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