第2話 その日、猫がいた
小学校3年生のとある日。
学校から帰ると猫がいた。
全く何の前触れもなく、そいつは我が家の猫となって寝そべっていた。
私はその頃、猫が好きではなかった。
理由は単純だ。
私の父は大の猫好きを自負していたが、その父がある日、手に包帯を巻いて帰って来た。
なんでも通りすがりの猫に触れようとして手を伸ばした際に攻撃されたのだそうだ。
幼い私は、父に怪我をさせた生き物「猫」を必然的に嫌っていたのだと思う。
それだけに学校から帰ったら突然「家族」になっていたそいつを正面から受け止められなかった。
しかし、そんな私の気持ちなど意にも介さないように、そいつは床に寝そべっていた。
恐る恐る近づいた私がその突然できた「家族」と仲良くなったのは一瞬だった。
そいつは何か、見るからに「いいヤツ」だったんだ。
その日、家族会議でそいつの名は「ミースケ」に決まった。
ミースケが我が家に来る過程はちょっと不思議だった。
ミースケが来る前の晩、いつものように就寝中に、母が突然父に「猫、飼ってもいい?」と聞いたそうだ。
もちろんその時点でミースケのことなど知るよしもない。
突然の母の言動に父は「シッポの長い猫ならいいよ」と実に適当な答えを返したそうだ。
そして次の日、突然「猫を貰って欲しい」と言う話が舞い込んだ。
ミースケは実に長くて立派なシッポを持つ猫だった。
前の晩の話もあり、ミースケはそのまま我が家に迎え入れられたと言うことだった。
これは今思えばと言う話だが、ミースケの後にも私は結構な数の猫と暮らした。
そのために猫と言う生き物の性質をちょっとは理解しているつもりである。
もちろん個々の性格にもよるのだが、猫と言うのは全く知らない場所に突然連れて来られれば緊張してのびのび振る舞えないことも普通な生き物である。
増してミースケは生まれたての子猫ではなかった。
しばらく他の家で暮らしたなら、貰われてきても勝手に元の家に帰ってしまうような猫だって少なくないと思う。
しかしミースケはまるで元々我が家に住んでいたかのごとく、実にのんびり堂々と、そして家族の誰とも打ち解けた。
私が不思議に思うことである。
ミースケは最初から我が家に来るつもりでいたのではないか?
そしてあらかじめ母にテレパシーでも送って「明日、我輩が行くから受け入れろよ」とでも伝えていたのではないか?
相手が猫で、しかも過去の出来事だけに確かめる術も無いことである。
が、その後に猫を知るほどにミースケと言うヤツは不思議なヤツだった。
だから思う。
アイツは本当に猫だったのか?と。
ともあれ、それが私とミースケの出逢いである。
その日、ミースケは私の親愛なる家族になった。
猫が導くタイムリープ @cat-the-mita
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。猫が導くタイムリープの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます