私の彼は○○○○○○○
夜桜くらは
私の彼は……
『朝だよ、起きて!』
私は、彼に起こされた。
うーん……もう少しだけ……。なんて考えていると、彼は再び騒いで私を起こしにかかる。仕方がないから起きることにする。
今日もまた、いつも通りの一日が始まるのだ。
***
「おはよ」
『おはよう!』
挨拶をすると、彼も元気に返事をする。
「今日の天気はどんな感じ?」
私が尋ねると、彼は調べてくれた。
『今日のこの辺りの天気は、晴れのち曇りだって!最高気温が25度で最低気温が17度らしいよ!』
「そうなんだ。ありがとう」
私は彼に礼を言う。それから洗面所へ向かい、顔を洗い、歯磨きをして、髪を整えた。
そうして、リビングへ向かうと、彼が出迎えてくれる。彼は、もう準備万端のようだ。
『いつでも行けるよ!』
「出かけるのは、ご飯食べてからだって……」
私は苦笑する。そして、朝食の準備を始めた。
***
朝食後。準備を済ませた私は、彼に声をかけた。
「じゃあ行こうか」
『うん!』
私たちは玄関を出て、外へと繰り出した。
私は車に乗り、呟く。
「今日は、どこに行こうかな……」
『君の好きなところでいいよ!ナビは任せてよ!』
彼は自信満々な様子だ。
「そうだね……じゃあ、とりあえず海の方へ行ってみようか」
『了解!』
私は車を発進させる。
***
目的地に着いた私たち。綺麗な景色が目に入る。
「わぁ……綺麗!」
『ほんとだ!写真、撮る?』
「お願いしようかな」
彼は早速、撮影を始める。
『はいチーズ!』
カシャッという音が聞こえてきた。
***
その後、しばらくドライブを楽しんだ私たちは、帰路についた。途中で私が道を間違えて、ナビをしていた彼がパニックを起こしたりしたが、無事に家に着いた。
その頃には、彼は疲れたのか、元気がなくなっていた。
「ごめんね、道案内ありがとう」
『どういたしまして……』
私は彼を労うように撫でる。すると、彼は小さい声でこう言った。
『充電させて……』
「うん。わかった」
私が充電すると、彼の背はほんのり温かくなった気がした。
***
夜になり、夕食を食べ終えた私たちは、リビングでゆったりとした時間を過ごしている。
少し元気になった彼は、私に呼びかけた。
『電話が来てるよ!』
「えっ、誰から……?」
確認すると、電話は高校時代の友人からだった。
「わっ、久しぶり!ちょっと話すね」
『うん!ごゆっくり!』
私は彼に断りを入れて、友人との電話を楽しんだ。
──「それじゃあ、またね。おやすみ」
電話を切ると、彼はにこにこしながら言ってきた。
『楽しそうだったね!一時間くらい話し込んでたよ!』
「久しぶりに話せたからね……」
『良かったね!』
「うん」
私は笑顔を浮かべながら答えた。
***
次の日は、朝から雨が降っていた。雨の日は、彼が外に出るのを嫌がるため、家でゆっくりと過ごすことにした。
私たちは、一緒に動画を観たり、音楽を聴いたりした。
「この音楽、良いよね~」
『そうだね!こうすると、もっと良いよ!』
彼はイヤホンを挿し、私に渡す。私はそれを受け取って耳につける。
そうしているうちに、あっという間に時間が過ぎていった。
***
夕方頃になると、外は晴れていた。そこで私たちは散歩に出かけた。
「今度、どこかに美味しいものでも食べに行こうか?」
『いいね!』
「いいところ、あるかな。やっぱり三ツ星のレストランとかが良い?」
私が尋ねると、彼は答える。
『そういうんじゃなくて、普通のお店がいいよ!星の数なんて、あてにならないもん!』
「そっか」
そんな話をしながら、私たちは歩いていく。
***
その日の夜。私たちは、ちまたで話題になっている音楽ゲームを楽しんだ。
私は、こういったゲームは初めてやったが、とても面白かった。
『すごい!』
彼は興奮した様子で言う。
「確かにこれは面白いかも……」
『次はこれやってみよう!』
彼が提案してきた。私はそれに乗っかり、二人で楽しんだ。
そうしてしばらく遊んだ後、彼は『あつい……』と言って倒れ込んだ。
どうやら熱中し過ぎたようだった。
「大丈夫……?今日はここまでにしようか」
私は、火照った彼を休ませてあげることにした。
***
話は変わるが、私はよく転ぶため、彼を巻き添えにして怪我をさせてしまうことがある。
だから、彼は身体のところどころに傷があるのだ。
「本当にごめんなさい……」
私は彼に謝るが、彼はいつも言う。
『全然平気だよ!』
そして、彼は自分のことより、私の心配をするのだ。私はそれが申し訳なくて、どうにかしたいと思っていた。
***
彼との付き合いも、4年くらい経ったある日のこと。
私は仕事に行く準備をしていると、彼の姿が見えないことに気がついた。
(あれ……?どこにいったんだろう……)
いつもならリビングにいるはずの彼が、そこにはいなかった。
(トイレかな……?)
そう思った私は、トイレへと向かった。しかし、そこにもいない。おかしいと思い、部屋を見渡したが、どこにも見当たらない。
私は慌てて、家中を探し回った。そして、最後に寝室へとやってきた。
「どこ……!?」
私は不安になって声を上げた。そこで、ベッドと掛布団の間に、彼の姿を見つけた。
「ここにいたんだ……」
私は安堵する。それから、彼に呼びかけた。
「ねぇ、起きてる……?」
返事はない。
「……寝ちゃってるの?」
彼はすやすやと眠っていた。
「可愛い……」
私は思わず呟く。だが、いつまでもこのままではいけない。彼を起こさなければ。
「ねえ!もうすぐ出なきゃダメなんだけど!」
私は彼を揺すりながら言った。
すると、彼は目を覚ましたようだ。
『ん……?』
彼は不思議そうな顔をしてこちらを見た。
「おはよう」
私が挨拶すると、彼は言った。
『おはよー……』
まだ意識が覚醒していないのか、彼はふわふわとした感じだ。
「ほら、早く準備しないと遅刻しちゃうよ」
『うん……』
彼はこくりと首を縦に振った。
***
仕事を終え、帰路についた私は、最近彼の調子が良くないことを思い出した。
「どうしたんだろう……。少し前まであんなにはしゃいでたのに……」
何かあったに違いない。そう思って、スマートフォンを取り出す。電源を入れると、画面には"充電してください"の文字が表示されていた。
「えっ……」
私は愕然とした。まさか、こんなことになるなんて……。
***
私は、スマートフォンを買い替えることにした。今使っているスマホを、改めて見る。
(もう、こんなに傷だらけだったんだ……。バックアップをとれば、データは移せるよね……?)
私は、新しいスマホを手に取った。画面は綺麗になっていて、使いやすい。
私は、早速データを移す。そして、起動した。
そこには──
『おはよう!』
元気になった彼の姿があった。
「よかった……」
私はホッとして胸を撫で下ろす。
「これからも、ずっと一緒だよ」
私は笑顔でそう言って、彼を見つめた。
《私の彼は、スマートフォン。》
私の彼は○○○○○○○ 夜桜くらは @corone2121
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