失われたネバーランド
紅きダイヤモンドリング
39とアインが眠っていると2人の耳に少女らしき声が頭に響いた。
ーネバ…ラ… セイ…ン…イ…リエ
ツキ…カ…リ…リング…アナ…ヒ…クー
「なんだよ…うるっせぇな。」
39は頭に響く声と雑音に目が覚めた。
アインも同じだったのか39と同じく目を覚ます。
しかしアインに声の文字がハッキリ聞こえたらしい。
「39もなにか聞こえたのか?」
「あぁ…ネバーランド 入江?って…
ダメだ…あんまりはっきり聞こえなかったから。」
39はぐしゃぐしゃと髪を掻きむしる。
「同じ言葉が聞こえたのか分からないが。
ネバーランドはセイレーンの入江に
月明かりが消え光のリングが海の穴開く。
どういうことだ?」
「今どき、セイレーン族の住処が入江?
月明かりが消えるってことは新月か?」
「海に穴と言うのもよく分からない…
でも、ネバーランドを探すという話から聞こえた声だからなにかの手がかりであることは間違いないよな。」
2人が外に出ると船員の1人が話しかけてきた。
「船長、5日後に月食があるらしくルナ属が活発になるという情報が入ってきました。」
「5日後に月食!?」
39は頭を抱えた。
ルナ族というのは通称であり、実際は月詠族と言われている。
この種はなぜか男がいなく、髪の毛は銀に光り、目は深紅に染る。
一説によると種の存続をかけた大戦争があった何千年前から大地を捨てたとして、影の世界の月に無理やり移住させられたと言われている。
だからか、ルーモスタウンに住んでいるものが少なかったりする。
元は好戦的でなかった種族だったのに今では追いやられた者の末裔として扱われていたせいか、かつての世界を取り戻したいと好戦的になっていたらしい。
あわよくば支配すらも目論んでいると噂されているため、罪なき者たちの平和を脅かす存在とされ39が食い止めていた。
「表の世界を守るためにどうします?」
(こんな時に月食が重なるとは…)
39は深いため息をついた。
「どうする?」
「月食は5日後だろ?今から少しくらい時間が欲しいとこだな…
アインさっきの言葉あとでメモをしておいてくれ。」
「安心しろ、もうしてある。」
39はアインに笑いかけさすがだなと言った。
「とりあえず二手に別れて船長と行動するやつはルナ対策。
俺と行動するやつは解読とネバーランドの捜索ってことでどうだ?」
「あぁ、それでいこう。でもまずはみんなにネバーランド探しをするにあたって船に乗るか降りるかも聞かねぇとな…。
場合によっちゃ俺が一人で行くことになるかもしれねぇ。」
39は寂しそうに笑うと船員のいる甲板へ出ていった。
「そんなことねぇと思うけどな…。タイミング悪く月食なんてな……。」
アインはため息を吐いた。
その数時間後。39は船員全員に集まってもらい、今後のことについて話しを始めた。
「よし、改めて集まってもらったのは他でもない
俺の今後やらなきゃならねぇことが出てきちまって
この地図にない島を目指すことになったんだ。
しかも、そんなことが決まった矢先に月食のルナ族の襲撃も来るってことだ。
そこでお前たちにはひとつ決めてもらいたいことがある。
俺についてくるか、俺が船を降りるか」
39の言葉に16人の船員はザワついた。
「どういうことですか?船長が船を降りるなんて!」
「そうっすよ!?普通はついて行くか降りるかじゃないんですか!?」
みんな、39に対して声を挙げる。
「あぁ、しかし俺のケジメにお前たちを巻き込むのも気が引けるんだ。
今、決めてほしい。」
39の言葉と鋭い片目の奥にある決意を皆それぞれ感じたのか黙ってしまった。
「お、俺はついて行きたい!
どうせ、俺には人を動かすくらいの頭もねぇし。
行くあてもないからな。船長には降りないでもらいたいと思ってる。」
1人がそう言うと他の船員も降りなくていい、ついて行くと活気付いた。
アインは39に耳打ちをした。
「みんな、簡単には離れねぇよ。
独りよがりも程々にな?」
ニヤリと笑うアインにホッとしたように39も微笑んだ。
「船長!これからの予定は?」
「明後日のルナ族襲撃に備えておけ、
地図から消えた島に向かうのはそれからだ。
じゃあお前ら!よろしく頼むよ。」
海賊らしい唸り声が影の世界の海に響き渡った。
5日後
予想通り、影の世界の紅月が月蝕を始める。
するとどこからともなく女性の笑い声が響いた。
「来るぞ…!」
39は愛用の片手剣を握りしめ構える。
それにならって、船員たちも戦闘態勢に入った。
月蝕が始まりいつもの海がさらに暗く深い闇に包まれていく。
39はギラリと目を光らせ1人のルナ属の女を切りつけた。
それを合図にルナ属と海賊の戦闘が始まった。
「おいおい、いい加減諦めて共存てものを考えてくれても良いじゃねぇか?」
腕に負った傷を庇いながらルナ属はハンと鼻を鳴らす。
「うるさいうるさい!
あんたらがいるからあたしらはいつまでも表の世界に行けないんだ!」
「それは向こうを襲った事例があるからじゃねぇか。それにこんなご丁寧にお仲間さん引き連れて、旅行とかには見えねぇぞ?」
やれやれと呆れ、ため息がつい漏れる。
39の言う通りルナ属は数十人という人数で海へやってきた。
しかし、39たちの敵ではなかったが…。
「ちっ」
ルナ属の女は赤い目を光らせ39を睨む。
それに習いほかのルナ達も目を光らせた。
「う…あたまが…!!」
仲間が次々と苦しそうに悶え始める。
激しい頭痛が海賊たちを襲った。
「バカヤロウ!気をしっかりもちやがれ!
目を見るんじゃねぇぞ!」
39は辺りを見回し叱咤した。
ルナ属は海賊たちが、苦しみ自分たちを拘束する縄を切ると笑いながら赤き月へと帰って行った。
月蝕が満ち当たりが真っ暗になる。
しばらくすると赤いダイヤモンドリングが海を照らした。
紅いダイヤモンドリングが反射する海の異変に39は気がついた。
「なんてことだ…」
ザザァーっと水が勢いよく、まるで滝のような音を立て穴が現れる。
「39!何が起きてるんだ!」
アインが慌てたようにやって来て、その光景を見ると絶句した。
39はハッとして海賊たちに指示を出す。
「…海に穴?そうか!そういうことだったんだな!?
アイン!あの穴に入るぞ!帆を張れ!」
「正気か!?まだそこに行っても無事かどうか分からないんだぞ!!
それに作戦と全く違うじゃないか!
目を覚ませ!焦っても仕方ないんだぞ!」
アインはガシッと39の肩を掴む。
「ネバーランドの入口かもしれねぇんだ!
ここはもともとセイレーンの始祖種族、人魚がかつて暮らしていた入江がこの辺にあるだろ?
月明かりが消え、海にリングが現れる。
つまり月蝕のことだ!そのリングが反射したそこが入口なんだきっと!だから俺は行く。
もし嫌なら俺一人でも行くが?」
39の言葉にアインは舌打ちをする。
「なるほどな。エクスマキナはあくまで過去データからしか引っ張れない思考回路が仇になったな。まるで下手くそな、なぞなぞみたいだ。
仕方ない。ここでお前を1人にしたらオレの顔が立たねぇだろうが…」
「…決まりだな。てめーら!今からあの中に落ちていく!死にたくねぇやつぁ、とっとと船を下りろ!」
39の怒号が鳴り響くが、仲間はうぉぉぉ!とさらに力強い雄叫びを上げた。
「帆を張れ!取り舵11時の方向!」
グイッと船は大きく旋回し揺れ動く。
「さぁ、幻のネバーランドとやらに行ってみるか。」
こころなしかアインには39がワクワクしているように見えた。
ネバーランドの影 黒河内悠雅 @96ra_na_ku6
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