おとぎ話の島
軍区画を後にするとまっすぐにアマンダの店へ向かう。
アマンダはまだ店を開けていないが39はお構い無しに入っていく。
「アマンダ、何か手がかりは掴めたのか?」
酒場の準備をしていたアマンダは首を横に振った。
「何もなかったわ、みんなFのつく船長は知らないって。
歴史に名を残す人にもFのイニシャルを持つ人はいなかったの。」
「手がかりなしか…まぁ、ガキの話なんて当てにはならねぇよな。」
「でも、一つだけヒットする人がいたのよ。
ただあなたは信じるかどうか…。」
39は眉をひそめる。
アマンダは一呼吸すると言葉を続けた。
「少年ピーターと愉快な迷子に登場するのがFじゃないかしら?」
「それは子どもに寝てもらうためのおとぎ話じゃなかったか?
しかもそこに出てくる海賊はカギって意味でフックと呼ばれてる。」
「それがFなんじゃないかなって」
「おいおい、冗談はよせよ。
フックのスペルはHだぞ?鉤爪フック船長は
HOOKだろ?」
「隠し文字でFを使う人はいるわ。」
「じゃあ、仮におとぎ話のフックを見つけたとして俺の目をやったのはおとぎ話のピーターってか?」
「そうとは…ねぇ、お願い最後まで聞いて?
フック船長のモデルがフランソワって言う海賊一族じゃないかっていわれてて。」
39がダンと力強くカウンターをたたいた。
「おとぎ話に付き合ってる余裕はねぇんだよ。
フランソワってのは実際いた海賊なのも知ってる。」
アマンダは黙り込んだ。
そしておもむろに地図を広げた。
「ネバーランドって知ってる?
ピーターの話にも出てきた島。」
「アマンダこれ以上何かを言うと…」
「実際にあった島なのよ。
そこにはインディアンという古代人やセイレーンの始祖である人魚の入江があったの。」
「あぁ、何故滅びたかは分からない島のことだろ?
どうせ海面上昇やら地盤沈下やらで…」
「それがその、海面上昇や地盤沈下でなくなったと言うより隠された可能性があるらしいのよ。
時々島があった場所に行くと子どもだけいなくなって、ある日突然その子が戻ってきたり
海賊Fを探してるって記録にあったの。」
39は鼻で笑った。
「なぁ、なんでそんなにおとぎ話を聞かせようとするんだ?」
アマンダはハッとする。
別に押し付けるつもりもなく、ただ39の力になればと思った。
39の視界を奪ったやつにやり返して欲しいと。
でも先程から自分が言ってることがめちゃくちゃなのも分かっていた。
「ごめんなさい…でもほんとに私はただ。
おとぎ話にしては重なることもあって。」
39は地図をじっと見つめ地図の片隅に書いてある文字を読み上げた。
「ジェームズ・フィル・フック」
ジェームズ・フックが本名なのは有名な話だ。
ではここにある名前は誰のものだ?
「なぁ、この名前の…誰か分かるか?」
アマンダは39の指さす文字を見つめる。
「いいえ、ジェームズ・フックなら分かるけど。
……まさか?」
アマンダは39が何を言いたいか察しがついた。
「隠し名のことかもなFは…
キャプテンFがもしこいつだとしたら、ネバーランドはどこに?」
「表の世界と影の世界の狭間?髪隠しじゃあるまいし?」
39はニヤリと笑った。
「なるほど消えた島を探させるのが相手の目的だとすると…
これは行く価値が無いわけではなさそうだな。」
39は表の世界の地図と自分が持つ影の世界の地図を照らし合わせる。
「ここがよく俺が向こうから来る場所でここに行き着く。
これが面白いことに正反対は寸分狂わねぇんだよ。
ここがネバーランドだとしたらこっちでも島はあったはず。
しかし影の世界にネバーランドはなかった…。
これって何か行き方が隠されてるってことだよな?」
数千年前に何があったんだ?
なぜネバーランドがこっちの地図には生きてたのか?
アマンダは39の表情を見て息を飲んだ。
「まさか探し出して行くの?行く確証も帰って来れる保証もないのに?」
39はニヤリと笑った。
「だったらフックとやらを拝みに行こうと思ってな?」
ある程度、地図の位置に目星を付けると39は全てをまとめ鞄に入れた。
アマンダは自分で言ってて辻褄が合わないしおとぎ話だと否定してた男の目がいかにも面白そうというワクワクした表情をしていることに気がつくと微笑んだ。
「全く…あなたは…行き方は分かるの?」
「いや、これから調べる。もしかしたらアインが何か分かるかもしれないからな。」
「あぁ、あの人なら確かに…」
「じゃあそういうことだ。何かあったらこっちに連絡いれられるようにしておくから。それじゃ。」
39は荷物を持ちアマンダの店を後にした。
39が船に戻るとアインが出迎える。
39とアインは船長室に二人で入るとアインが口を開いた。
「ガキは返せたのか?」
「あぁ、なんか不穏だったがな。」
「ん?何かあったのか?」
「ガキは確かに迷子の例の子どもらしかったが、母親が言うにはあいつちっとも成長が見られてないらしい。」
「は?どういうことだ?」
「さぁな?多分ただの錯乱だと思うぜ?」
「ほぉ…それとFの手がかりは何かあったのか?」
アインの言葉に39はニヤリと笑った。
「なぁ、もしもおとぎ話が現実にあるかもしれないと言ったらお前は信じるか?」
「何を急に?…しかし、現実にあったことをおとぎ話に着色するということもあるからどっちが先とかの話を別にしたらありえなくはないと思うが?」
「そうか。ならアインは消えた表の島のこと分かるか?」
「消えた島?地盤沈下、海面上昇とかでなくなったとかってことか?」
「んーそれとはどうも違うらしいんだ…」
アインは39の言葉の意図が読み取れず少しイライラし始める。
それを39も察してか地図を机に広げ話を続けた。
「とりあえずこの地図を見てほしい。」
「これは?」
「1000年近く昔の表の地図だと思う。」
「細かいことは分からないのか?」
「見当つかずだ、ただこれを見てくれ。」
39は1つの小さな島を指さした。
「ただの島?」
「あぁ…だが同じ時期の影の地図を見てくれ。」
アインは言われた通り影の世界の地図を見る。
「これは…?どういうことなんだ?」
「違いが分かるか?」
「わかるも何もこの世の理に反してるじゃねぇか?
普通なら表の世界に島があるなら影にも島があるはず。
なのに島が書いてあるのは表の世界だけってのがおかしいよな?」
アインはうぅんと唸った。
「あぁ、だから何かおかしいと思うんだ。
これが誰かのイタズラだけならいいんだが…。」
「突き止めるってか?」
「あるかないか分からない島を探すのは苦労するけどな。
アインはどうする?もし俺がその島を探すと言うなら?」
「俺は…ついて行く。船長がやりたいならな。」
「さすがだな…」
39はニヤリと笑い、戸棚にある杯をふたつ取り出しテーブルの上に置いてあった特上の酒を注いだ。
1つはアインに渡しもう1つは自分で持つ。
「その酒を出すってことは行くことに決めたんだな。」
「あぁ、俺の勘がこの目の仇に近づくヒントがありそうって思ってんだ。
嘘でもいい、確かめたいから。」
「じゃあ、なんて酌み交わそうか?」
「そうだな、おとぎ話にちなんで。」
消えたネバーランドに向けて
2人はカチンと杯の音を立て飲み干し、眠りについた。
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