親と子、海賊と軍人

39は早速、顔馴染みの人がいる王都軍区画へと足を進めた。

影の世界と違って日射しが世界を照らしている。


「久しぶりに来たが、やっぱりこっちは明るいなぁ…」


眩しさから目を細め活気ある街を歩いていく。


(眩しいし、少しうるさい…いや?俺がいる海の方が静かすぎるのか?)


なんて街ゆく人々を横目に考えていると軍区画の門の前にやってきた。

門の前まで来ると早速、39は門番達に止められた。


「貴様、その風貌!ここの者ではなさそうだな。

どこから来て軍区画に何の用だ。

通行許可証はあるのか?」


「あぁ…通行許可証は持ってねぇな…けどこれならあるから受けとってくれ。

俺はちょっと急いでるんだよ。」


39はそう言うと金貨を2人に投げる。

しかし門番の1人が金貨を投げ返してきた。


「貴様、人を金で吊ろうとはいい度胸だな。だがこんなもの受け取る訳にはいかないのだよ。」


「そうかい、それは困ったなぁ。俺はちょっと顔馴染みに話を聞きたくて来たんだが…」


どうしたものかと頭をかいていると軍区画から門へやってくる3人の人影が見えた。


1人はドラコニア(竜族)なのか頭に角を生やし、もう2人は小柄なとこからエルフではないかと思われる。


「我々も今、懸命にご子息様を探しておりますので

また何かありましたらすぐにでもご連絡ください。」


「ありがとうございます…」


エルフの女性はがっくりと明らかに落ち込んでおり、少々やつれているのが分かる。

それを支えるかのようにエルフの男性が手を握り背中をさする。


軍区画の門にてドラコニアの男が門番と揉めてる男を見るとため息を吐いた。


「失礼…ちょっと先に門の方へ行かさせていただきます。

何やら揉め事のようで。」


ドラコニアの男が一礼してから駆け足で門へ近づく。

こちらへ近づいて来る者に39は気づくと男に対して手を振った。


「アーロー!こいつらを何とかしてくれよ。

頭が固くて話が通用しねぇんだ…」


「アーローさん!すみません。この男が聞かないものでして…」


門番の男がペコリと頭を下げる。

「いや、こいつは古くからの知り合いだ。

話をしに来たのだろう。39、今日は何用で影の世界の海賊がこんなとこへ?」


海賊という言葉に門番はガタっと動揺する。


「いやぁ、ちょっと拾い物したから探し物をしてな」


「拾い物で探し物?」


「エルフのガキンチョが俺の海で図太く海賊ごっこなんかしてたからちぃとばかりお仕置してやったんだが…。

どうも、わけアリっぽくてな。

とりあえず親元に返そうとは考えてて今うちの船で世話をしてるんだが」


アーローの眉がピクっと動いた。


「その反応てことは何か繋がりそうな感じか?」


39はその観察力でアーローの心情を鋭くつく。


「少なくともそっちの世界の海もいつからお前の海になったんだとツッコミたくなったが、今は置いておく。

なんの偶然なのか、今話してた夫婦も息子が消えたと相談があったんだ。

誘拐なのか、家出なのか分からないが…」


「なぁ、そいつの名前は?呼び方は別なのか?」


「ん?失踪してる子の名はマイケル。母親はマイキーと呼んでいたそうだ。」


「マイキー…か。」


39は深くため息を吐いた。


「どうした?」


「ガキってのは名前とあだ名の違いもわからんものなのかね…」


アーローが何を言ってるんだ?と顔をすると39が乾いた笑いが漏れた。


「自分のことマイキーって言ってたんだよそのガキ。

写真とかはないのか?」


「写真?あぁ、こんな子だ。」


39は写真を見るやいなや笑い出してしまった。

写真にいるのは紛れもなく写真の子どもだったからだ。

しかし、アーローはそんなことが分かるはずもないので写真を見て笑いだした39に不信感を抱いた。


「貴様、何がおかしい?」


「いや、昨日拾ったガキと一致してその親もあっさり見つかるとは思ってなかったからよ。

そっか、あいつマイケルって言うのか。」


39の言葉が耳に入ったのか、エルフの女性が39に縋りついてきた。


「息子を知ってるんですか!?」


「なんだコイツ?」


困惑する39をよそに、女性は質問を投げかける。


「息子はどこに!?生きてるんですか?

あの子は無事なんですか!?」


「よせ、やめろよ。困ってるだろ。」


男性は39から女性を離すとすみませんと頭を下げる。


「奥さん、落ち着いてください。息子さんは」


アーローの言葉を遮り39が続けた。


「安心しろ。生きてるから。

ただ悪ぃがあと1週間待ってくれねぇか?

俺は影の世界の住人でなそっちから来た人間なんだ。」


影の世界の住人という言葉に女性は青ざめた。

しかし、39はおかまいなしに続ける。


「ちょっとばかり野暮用で1週間後にまた影からこっちに来る。

そんときにそいつも連れてくるつもりだからそれまで待っててくれねぇか?」


女性は力なくうなづいた。


「では1週間後にこちらに待ち合わせという形でよろしいですか?」


アーローは話をまとめ、その場でみんな解散して行った。


39も自分の船に戻るとマイキーにそれらしき人物に会ったことを話した。


「お父さんとお母さんが?」


「あぁ、俺に食ってかかるくらいには必死だった。1週間後にお前を連れていくと約束してるから。ただ…」


39は黙り込んだ。


「39?」


「なぁ、マイキー?お前…親と会ってないのはどれくらいだと思ってるんだ?」


「え?1週間か2週間くらいじゃないの?」


「1年らしいぞ」


「1年!?」


アインが飲んでいる酒で噎せ返す。

マイキーは1年という長さにイマイチ、ピンと来てない様子だった。


そんな正反対の反応をした2人を39は笑い飛ばした。


「ともかくだ、1週間分の飯にゃ困らねぇし

親御さんとはそういう話でお前を連れてくって約束だからよ。

なんでまだ親と会えないんだと思っても悪く思わんでくれ…。

易々と表と影を容易に行ったり来たりは出来ねぇんだよ。」


マイキーはうーんと納得しようと努めた。


それから1週間後


1週間が過ぎ約束したその日になる。

39とマイキーはアーローのいる軍区画の建物の一室に座らされていた。


「ほんとうにお父さんとお母さんに会えるの?」


紅茶のカップをキュッと握りしめ不安そうに39を見上げる。

まだ約束の時間まで30分もある。


落ち着かないマイキーを見て39が早々に船を出していたのだ。


「まぁ、落ち着けよ。今慌てて動いたって何もならねぇぞ。」


「うん。わかってるけど…でもお母さんに会ったらなんて言えばいいのか分からなくて」


マイキーの様子を見ているとドア外から声が聞こえてきた。


「お母さん、どうか落ち着いてください。

今、ドアを開けますので…」


39にはアーローの声が聞こえてきたためふぅんと鼻を鳴らす。


「どうやら、落ち着かないのは血筋なのかもな…

マイキー、ちょっと行くぞ。」


39は立ち上がりドアの前にマイキーを立たせる。


そのタイミングと同時にドアが開いた。


沈黙が流れる。



母親の表情は不思議なものだった。


今まさに感動の再会だから抱き合うとかあるかと39は思ったが様子がおかしかった。

母親が困ったような、嬉しいのと恐怖に混ざった顔を浮かべている。


「な、なんで…」


「おかあ…さん?」


「なんで、成長して…ないの…?」


カタカタと母親は身体を震わせている。


「成長していない?おいおい、何言ってんだ?

探してた迷子の子どもだろ?」


39の言葉にえぇ…えぇ…と母親は頷くがどこか、心ここに在らずといった感じである。


「39、何かしたとか…」


「やってねぇよ!?あらぬ疑いすんじゃねぇ!!」


アーローが怪しいと言いたげな視線を39に向けるが39は身に覚えがなく否定をする。


「勘弁してくれよ…これから行かなきゃならねぇとこもあんのによ。

なんだ?成長してなきゃてめぇの子どもとは認めねぇのか?」


39は深いため息を吐く。

母親はすかさずそういう訳じゃないと否定をする。


ただ自分の子どもがなにか良くないことに巻き込まれたのでは無いのか?

ほんとにこの子がわが子であるという確証は?

偽物かもしれない。


そんな思いが駆け巡る。


「では、とりあえず保護経過観察としてお母様と住むにあたり私の部下を定期的に訪問させるのはどうでしょう?」


場違いかもしれないがこれ以上は話も進まないと悟ったアーローが提案をする。

それに母親は戸惑いながらも承諾した。


「お母さんと暮らせるの?」


マイキーは不安そうな視線を39に向けた。


「俺に聞くなよ…。」


39は面倒くさそうに頭を搔いた。

そんな彼を見てマイキーはなんとも言い難い切なさに顔を歪ませる。

子どもにそんな顔をされるとバツが悪いのか、39は大きなため息を吐いた。


「あぁ、もう!なんだよ…じゃああれだ、何かあったらこいつに連絡しろよ。

こいつから事預りゃ俺だって動くからよ。

俺は連絡手段持ってねぇから定期的にこいつんとこ来なきゃならなくなるのは。

そのまぁ…気が進まねぇが…。」


アーローはキッと39を睨んだ。


「私だってあなたとはなるべく会いたくは無いのですが、仕方ありません。

なにかあれば伝えますので。」


39はアーローの言葉を聞くとマイキーの頭をクシャッと撫でて部屋を出ていった。

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