第3話 文化祭
風香と初めて会話した後、だいぶ話しかけやすくなり、休み時間には積極的に話しに行くことにした。お互いの好きなものや趣味など、自己紹介で触れた点を深く掘り下げることにした。彼女の趣味は茶道で、かわいい着物を着ることにあこがれて茶道を始めたそうだ。また家では鳥を飼っているらしい。私の祖父母の家でも飼っていたので、お互いに写真を交換した。また、鳥の人形なども好きらしく、集めているそうだ。ちなみにコーヒーが苦手らしく、私がブラックを飲んでいると知るととても驚いていた。
「試験の結果はどうだった?」
「ん-、まあまあかな。そっちはどう?」
「文系科目はいいけども数学がとても苦手で…」
中間試験と期末試験を終えていざ夏休みに入るが、まだ彼女を遊ぶに誘うにはハードルが高く、今回は見送ることとした。夏休みはほとんど部活をして過ごしていた。特にけがや病気も起こさず過ごすことができた。
次の学校行事といえば文化祭だ。私には姉がいるが過去に文化祭に連れていかれた際、とても楽しかった記憶がある。しかしクラス内での出し物の議論は苛烈を極めた。食販、アトラクション、演劇、その中でも営業形態に様々な掘り下げが行われており、結果として演劇が採択されることとなった。演劇といえば小道具の準備や、役の配置、シナリオライターなど様々なものが必要になる。表に出ることが苦手な私は、音響と照明の操作、小道具つくりに専念することとした。まずはシナリオライターと相談しどのような演出が必要なのかを調べる。次に使えそうな音源を入手し、各シーンに配置する。最後はすべての音源データをCDにまとめて終了だ。シナリオライターの都合で音源が決まらなかったときはぼーっとしていたが、風香に
「手伝ってもらえそうなら手伝ってほしい。」と頼まれ、小道具の準備に取り掛かった。準備期間中に彼女と話しながら作業ができるなんてなんて幸福なのだろうか。
「道具作りが終わらなくてねー。ごめーん」
「ちょうど暇していたし問題ない。」
「えへへ、手伝ってくれてありがと。」
瞬間、意識がはっきりしたのを感じた。女子にありがとうと言われるのがこんなにも嬉しいものなのか。
準備期間もながれ、小道具つくりも9割終わったころだった。
「佐々木君は文化祭どうするの」
衝撃が走った。おそらく一世一代の大勝負だろう。文化祭の気分に浮わついていたのか、不思議と恐怖はない。
私は決心して言った。
「ふうさんと一緒に回りたいのだけど、どうだ?」
沈黙。向こうも目がぱっちりしており、驚いているのがわかる。
(行けるのか?いけないのか?やっぱりまだ早かったか?)
心臓の鼓動がバクバクとうるさい。周囲には誰もいないため沈黙の静けさが澄み渡る。
「………うん、いいよ!」
瞬間、またしても意識がはっきりとした。成功したのだ。文化祭デートなるものに私は約束を取り付けたのだ。
顔、いや体中が熱くなり、彼女の顔を見ていられない。嬉しい。嬉しい。嬉しい。
しかし、高ぶった感情をまずは抑え、予定を立てる話を持ち掛ける。
「あ、私茶道部で出し物があるから、よかったら見に来てね。」
「わかった。」
この日の夜ほど、次の日が楽しみで寝付けないなんてことは今までになかった。
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そして、文化祭当日。
当日は文化祭らしく人々で賑わっていた。明らかに外部の学生がいるのも見た。
私たちの演劇はお昼ごろに上演するのでそこまではリハーサルと準備に追われていた。
そして演劇自体も難なく終了した。王道な剣と魔法の物語だ。シナリオライターに感謝せねば。
ふうさんは演劇の直後に部活動の出し物があったので途中で抜けたので、合流がてら部活動を見に行くことにした。
茶道部室に行ったところ、そこには桃色の浴衣で活動しているふうさんの姿があった。目が合った瞬間に笑顔で手を振ってくれた。普段と違いまとめられた髪型、化粧、そのすべてが私の目に焼き付いた。
(あまりにも可愛すぎる。)
私は当初、制服で文化祭を遊びまわることを想定していた。しかし、実際には浴衣姿のふうさんと遊ぶことができるだなんて思いもよらなかった。なんて幸せなんだ。
茶道部の出し物が終わったので、残り少ない時間で学校内を二人でまわることにした。とはいってもほとんど食販などは売り切れており、アトラクションで遊ぶのが限界だったが。
楽しい時間というものはあっという間に過ぎていくもので、気が付いたら一般の部終了時間になっていた。そのあとは後夜祭がありバンド部やダンス部が体育館で披露するらしい。私は一日歩き回った疲れで後ろで休んでいたが、ふうさんはステージの近くで公演を見ていた。すごい体力だ。
公演が終わった後は花火大会を見にいった。
「綺麗だね!」
「そうだな。」
無数の花火が打ち上げられる様子を見るのは、いつの年齢になっても綺麗だと感じれるだろう。
ボーン!パラパラ…ドドーン!!パラパラ……
最後の打ち上げが終わり、解散の案内が出たので、私たちも解散することとした。
「来年も誘っていいか?」
「いいよ!もちろん!」
そう返事をする彼女の顔はとてもにこやかで、次も絶対に一緒に回ろうと決意した。
アーメンライトノベル @ashame3969
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