第2話 出会い
小柄な姿に物語に出てくる少女のような可愛らしい声、そして凛とした眼差し、私が彼女―渡辺風香に一目惚れしたのは入学式後の自己紹介の時であった。
あの時以来、彼女のことでどうしても頭がいっぱいになってしまう。
入学式からはとうにひと月が過ぎたが、どうにもこの件で頭がすっきりしない。
悩む私に対して後ろの席から声が掛かった。
「なあなあ、聞いてくれよ!」
こいつは佐藤正人。所謂、陽キャというものを具現化したような人間だ。立派に染まっている髪の色が私には眩しい。クラスメイトのほとんどと仲良くなっており、私も仲良くしてもらっている。友人を作ることが楽に進んだのはこういうやつがいてくれるからで、助かっていた。
「俺もうさっそく彼女ができたぜ!」
訂正、私が風香さんにアプローチをかけるのをこんなにも苦労しているというのにこの人間はひと月で彼女を作っているだと?そもそもお付き合いというのはもっと手順を追って仲良くなってお互いのことをよく知り合ってだな…。
「隣のクラスの子なのだけど、昨日、部活の後で告白を受けちゃってさあ!いやー嬉しいな!」
彼はバスケットボール部に所属している。私はバドミントン部で活動しているが、彼の能力の高さは素人目に見てもわかる。なるほど、そんな彼の姿を見てしまえば、彼に一目惚れする人ができるのも納得だ。
しかし。女子のほうから告白をさせるなど、こいつもなかなか罪な男だ。
「佐々木はさあ、気になる子とかいないの?」
熟考。それは気になる人はいるに決まっている。しかしこの男に話すことであの子に知られるのではないか?
「特にいない。」
「隠すなよー。考えてからいないって答えるなんて。さてはこのクラスの中の子だな?」
やれやれ。こいつに話したところで、話のネタにはなるかもしれんが、彼女に知られるのは勘弁だ。
「次は移動教室だろ?さっさと行こう。」
「あ!逃げるな―。」
逃げ足のためか、私は時間より早く音楽室に到着した。
しかし早速部屋からピアノの音が聞こえる。
「先生が練習でもしてるのか?」
そう思ってドアを開けた途端、目にしたのは、彼女―渡辺風香がピアノを弾いている姿であった。
「っ!!」
ドアを開けた音が耳に入ったのか、彼女は驚いて演奏をやめ、こちらに視線をよこした。
教師でなかったことに安堵したのか、すぐに緊張が解けた。
この時の私は彼女の演奏に気が抜けていたのだろう。自然と感想が口から出ていた。
「演奏うまかった。あのゲームの曲だろ?」
「そうだよ。知ってるの?」
「原作をクリアしたことがあるからな。当然さ。」
「すごーい!私も持ってるけど全然クリアできなくて…」
これが私と彼女の初の会話であった。
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